マレーシア:カルテル規制と課徴金・課徴金減額制度に係る新ガイドライン
長島・大野・常松法律事務所
弁護士 長谷川 良 和
近年、東南アジアでも公正な競争を促進するために、いわゆるカルテルに対し競争法の執行を強化する国が見られる。例えば、シンガポールでは日系企業に対し昨年2件のカルテルに係る競争法違反決定が出されており、またインドネシアでも本年に入って日系企業にカルテルを理由とする制裁金支払命令が出されたとの報道がなされている。
競争法の執行強化に向けた動きはマレーシアでも見られる。マレーシアでは2012年1月に競争法(「競争法」)が施行され、昨年10月には金銭的制裁(「課徴金」)及び課徴金減額制度に関するガイドラインが新たに公表された。かかる新ガイドラインの公表を受け、本稿では、マレーシアにおけるカルテル規制の概要と課徴金・課徴金減額制度に係る新ガイドラインの内容を簡潔に紹介したい。
1. 「カルテル」とは
マレーシアの競争法上、「カルテル」を定義する規定はないが、商品又は役務に関するマレーシアの一定の市場における競争を著しく阻害、制限又は歪曲する目的又は効果を有する、事業者間の水平的又は垂直的な合意は、法定の除外要件を充足しない限り禁止されており、一般にカルテルと呼ばれる行為はこの禁止類型に含まれる。中でも、直接的又は間接的な売買価格その他取引条件の操作、市場協定、製造・技術開発・投資の制限若しくは調整、又は談合等の目的を有する事業者間の水平的合意(「カルテル」)は、競争を著しく制限する目的を有するものとみなされている。カルテル行為がマレーシア国外(例えば、日本)で行われた場合でも、その効果がマレーシア国内の市場に影響を及ぼす場合には、競争法が適用される。
2. 事業者に対する主な制裁と課徴金・課徴金減額制度ガイドライン
(1) 事業者に対する主な制裁
マレーシア競争委員会(「競争委員会」)は、カルテルに係る競争法違反の事実があると判断した場合、当該違反を直ちに終結させるよう命じなければならず、また当該違反を終結させるために違反事業者の講じるべき適切な措置を指定し、又は適切と考えるその他の命令を発することができる。また、競争委員会は、違反事業者に対し、当該違反があった期間の事業者の全世界売上高の10%以下の範囲内で課徴金支払を命じることができる。なお、日系マレーシア子会社が市場行動の決定にあたり真の独立性を有しておらず、親子会社が単一の経済単位を構成する場合には、法人格が別でも親子会社が一体として一事業者とみなされ、親会社たる日本企業も違反事業者として扱われうる点、留意を要する。
(2) 課徴金ガイドライン
2014年10月に公表された課徴金ガイドラインは、競争委員会が課徴金を課す目的は、違反の重大性の反映及び競争法違反を帰結する反競争的慣行の抑止にあるとし、その上で、課徴金額決定時の考慮要素を列挙している。同ガイドラインは、課徴金の加重要因に加え、軽減要因も例示列挙しており、軽減要因の中には、事業者による当局調査への協力や、事業の性質及び規模に照らした適切なコンプライアンスプログラムの存在等も含まれている。かかる状況に鑑みると、事業者としては、日頃から適切なコンプライアンスプログラムを講じておくことが重要と言えよう。
(3) 課徴金減額制度ガイドライン
競争法上、カルテルへの関与を認め、かつ他の事業者の違反行為の特定又は調査に著しく役立ち又は役立つ可能性が高い競争委員会への情報提供その他の協力を行った事業者は、最大100%課徴金の減額を受けることができる(課徴金減額制度)。2014年10月に公表された課徴金減額制度ガイドラインは、第一順位の課徴金減額申請者が、カルテルへの関与を認め、かつ競争委員会が認識していない当該カルテルについて情報提供その他の協力を行う場合、課徴金を100%減額する方針であることを規定している(なお、当該カルテルを主導し又は他者に強要した事業者は、100%減額の恩恵に預かれない旨が別途規定されている)。また、同ガイドラインは、100%未満の減額となる場合の課徴金の減額度合いは、一般に調査の段階や申請者によって提供される情報の特性及び付加価値性によるとし、また申請者の先順位を確保するための手続(マーカー制度)やその他申請の具体的な手続についても規定している。
3. 終わりに
上記のように競争法の執行強化に向けた動きが見られる以上、企業側もそれに応じて予防や危機対応策を講じておくことが重要と言えよう。
※本稿は一般的な情報を記載したもので、法的助言を構成するものではなく、個別具体的事案に関するものではありません。