◇SH3927◇インドネシア:気候変動問題へのアプローチ(1)――首都移転と脱炭素政策 福井信雄(2022/03/07)

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インドネシア:気候変動問題へのアプローチ

――首都移転と脱炭素政策(1)――

長島・大野・常松法律事務所

弁護士 福 井 信 雄

 

 インドネシアのジョコ・ウィドド大統領は昨年11月に英国グラスゴーで開催された国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26)に出席し、2060年までに温室効果ガスの排出を実質ゼロにするカーボンニュートラルの達成を表明した。インドや中国が明確なコミットメントを示すことに消極的だったのに比べて、インドネシアの気候変動問題に対する積極的な姿勢は際立っていたが、その背景の一つには、島嶼国家であるインドネシアは首都ジャカルタを含め海面上昇による影響を受ける度合いが大きいという事情があると言われている。本稿ではインドネシアの気候変動問題へのアプローチとして、直近で再度動き出した首都移転計画の動向と脱炭素政策について紹介する。

 

1 首都移転法案の可決

 2019年8月、ジョコ・ウィドド大統領は公式に首都移転計画について公表し、その後のフィージビリティ・スタディを経て東カリマンタンを候補地として選定した。首都移転の背景として、ジャワ島(特にジャカルタ)への一極集中を避けて調和の取れた国家の発展を目指すという政策目標が掲げられていたが、それに加えてもともと海抜の低いジャカルタが地下水の過剰な汲み上げや温暖化による海面上昇により将来水没する現実的なリスクがあることも勘案しての政治判断と言われている。東カリマンタンが新首都の候補地に選定された理由には、①自然災害が少ないこと、②地理的にインドネシアの中心に位置していること、③政府が既に18万ヘクタールの土地を保有していることなどが挙げられていた。

 

 首都移転計画の公表後、新型コロナウイルスの感染拡大により首都移転計画についてはしばらく話題に上がることはなかったが、2022年1月18日、国会は首都を移転する法案を賛成多数で可決し、首都を東カリマンタンに移転し新首都名を「ヌサンタラ」(ジャワ語で群島を意味する。)とすることを決定した。現政権は2024年には約20パーセントの首都機能を新首都に移転するとしており、このスケジュール通りに進むかどうかについては依然として懐疑的な見方もあるが、今後相当急ピッチでの新首都の整備に向けた動きが出てくることが予想される。新首都の建設に伴う財政負担については、総額466兆ルピア(約3兆7000億円)のうち2割程度を国庫から拠出し、残りを官民連携事業や民間投資で賄うとされていることから、民間企業にとっても大きな投資機会となる可能性があり、改めて今後の動きが注目される。

(2)につづく

 


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(ふくい・のぶお)

2001年 東京大学法学部卒業。 2003年 弁護士登録(第一東京弁護士会)。 2009年 Duke University School of Law卒業(LL.M. )。 2009年~2010年 Haynes and Boone LLP(Dallas)勤務。
2010年~2013年10月 Widyawan & Partners(Jakarta)勤務。 2013年11月~長島・大野・常松法律事務所 シンガポール・オフィス勤務。 現在はシンガポールを拠点とし、インドネシアを中心とする東南アジア各国への日本企業の事業進出や現地企業の買収、既進出企業の現地でのオペレーションに伴う法務アドバイスを行っている。

長島・大野・常松法律事務所 http://www.noandt.com/

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