インドネシア:インドネシアのカルテル規制
長島・大野・常松法律事務所
弁護士 福 井 信 雄
インドネシアの事業競争監視委員会(通称KPPU)は、日系大手を含むインドネシアのタイヤメーカー合計6社が2009年から2012年の期間にカルテル及び価格操作の協定を結んでいたと認定し、独占禁止法に基づき各社に対して250億ルピア(約2億4000万円)、6社合計で1500億ルピアの課徴金を課したことを公表した。(http://eng.kppu.go.id/?p=3152)
報道記事によれば、2014年にはニンニクの価格カルテルが認定され、19社に合計110億ルピア(約1億円)の課徴金が課されているし、また2015年に入ってからも上記の事案に加え、燃料費が下落したにもかかわらず物流価格が下落しないことに目を付けたKPPUが物流事業者間で価格カルテルの調査を開始したことが報じられるなど、価格カルテルに対するKPPUの調査・摘発の動きが活発になりつつあるようにも見受けられる。そこで本稿では、インドネシアの独占禁止法に基づくカルテル規制について概観する。
インドネシアの独占禁止法(1999年法第5号)では、事業者が、他の事業者との間で自らが提供する商品又はサービスにつき次の内容の価格協定を締結することを禁止している。
(ア) 販売価格の決定(第5条)
(イ) 購入者によって異なる対価の設定(第6条)
(ウ) 不当廉売(第7条)
(エ) 再販売価格維持(第8条)
また、事業者が競合他社との間で、商品又はサービスの生産数量又は販売数量を調整することにより価格に影響を与えることとなる協定を締結すること(カルテル)を禁止している(第11条)。
これらの規定に違反した場合には、以下の行政罰及び刑事罰が科せられる。
(1) 行政罰
KPPUは違反行為に対し、行政的制裁として当該行為の排除措置命令を行えるほか、10億ルピア以上250億ルピア以下の課徴金を賦課することができる。
(2) 刑事罰
価格調整に関しては50億ルピア以上250億ルピア以下の罰金又は5か月以下の禁錮刑が、カルテルに関しては250億ルピア以上1000億ルピア以下の罰金又は6か月以下の禁錮刑が科される。加えて追加的な制裁として、事業ライセンスの取消し、2年以上5年以下の期間での取締役・コミサリスへの就任禁止等が規定されている。
なお、インドネシアにはまだリニエンシーの制度は存在しないため、過去のカルテルの事実が社内調査等により発覚した場合でも、先んじて通報することでペナルティの減免が受けられるわけではないことに注意する必要がある。
インドネシアの事業競争監視委員会は、アセアン諸国の中では活発に不公正取引の摘発を行う機関と評価されている。これまでの摘発実績を見るとその7割以上が政府調達案件に絡む入札談合であったが、近年は価格調整・カルテルの事案の摘発が増加傾向にあるようにも見受けられることから、これを契機に現地法人の独占禁止法上のコンプライアンス体制を再度見直しておくことが望ましい。