(第29号)
企業法務よしなしごと
・・・ある企業法務人の蹣跚・・・
平 田 政 和
Ⅲ.Juniorのために・・・広い視野をもとう(その9)
【なにか足そう、なにか引こう・・・漫然と仕事をするな】
かつて「なにも足さない、なにも引かない」という洋酒のコマーシャル・メッセージがあったが、業務を行うに当たっては、常に「なにか足そう、なにか引こう」と考えることが大切である。
モンゴル帝国の宰相の耶律楚材は「一利を興すは一害を除くに如かず。一事を生やすは一事を省くに如かず。」と言ったという。何かを省くことにより大事なことが生きてきたり、より重要なことに力を注ぐことができたりする。
前回このようにしたから、前任者がこうしていたから、と何も考えずに漫然と業務を行ったり、部下がそのような仕事振りであるのを見過ごしたりすることは、怠慢の誹りを免れない。
時代が変わり、企業を取り巻く環境が変われば、今まで当然のこととしてやってきたことの意味が無くなっていることもある。意味がなくなるだけでなく逆に阻害要因となっているかも分からない。違った方法による方が効果的、効率的なこともある。常に、業務の内容やその進め方を見直す努力をする必要がある。
法務部の実力が認識され、その評価が高まるにつれ、常に「一事を省く」意識を持った業務遂行が必要となる。法務部の業務量は、法務部の実力が認識され法務部を活用した方が有利である、との意識が高まれば高まるほど、増大する。意見照会や法務相談に真面目に対応し、納得性のある結論を出せば出すほど、相談は増える。法務部としてはありがたいことであるが、要員や業務遂行時間からおのずと対応できる範囲は制限される。
法務部の責任者たるものは、自らが描く理想の法務部を念頭に、どのように対応するかを真剣に考える必要がある。何を省くか、何をどのように合理化するか、を考えることは、法務部をマネジメントする者の最も重要な業務の一つである。
あるとき、後輩からの電話による質問に関連して、かつて私が作ったシステムや方策がどうなっているか、どのように修正され運用されているか、まだ存在し活用されているか、などを聞いたところ、20年前の考え方、方式がそのまま使われているとの答を聞き、耳を疑った。
その答をした後輩に対し、幾つかの点を指摘し、この点は現在では全く意味のないことではないか、それを省くことにより得られる時間を新しい観点からの対応に割くべきではないか、と遠慮しつつ意見を言ったことである。
(以上)