◇SH0244◇法務省、「民法(債権関係)の改正に関する要綱」(平成27年2月24日)を公表 加藤真由美(2015/03/06)

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法務省、「民法(債権関係)の改正に関する要綱」(平成27年2月24日)を公表

                            岩田合同法律事務所

                             弁護士 加 藤 真由美

 民法は1896年(明治29年)に制定されて以降、債権関係に関わる部分について改正がなされていなかったが、120年ぶりに、改正の動きとなった。

 平成27年2月10日、法制審議会が設置した民法(債権関係)部会第99回会合において、「民法(債権関係)の改正に関する要綱案」が決定された。法制審議会第174回会議(総会)は、2月24日同要綱を承認し、法務大臣に答申した。

 政府は3月末には、通常国会で民法改正案を提出する見通しとなっている。

 今回の改正対象は約200項目に上る。今回の改正は、大きく変革した現代の日常生活や経済取引の形態や膨大に蓄積された判例を取り込むというもので、無論実務に大きく影響を与えるものであるが、中でも実務に大きい影響を与えると思われるものを一部紹介する。

法定利率

年5%を定率としていたが、年3%に引き下げた上で変動制を導入。

消滅時効

現行法の職業別(医師の診療や工事、弁護士の職務に関する債権等)の短期消滅時効を廃止。

現行法の「債権を行使することができる時から」10年間という消滅時効の規定は維持した上「債権者が債権を行使できることを知った時から」5年間という規定を追加。

契約の解除     

債務不履行の場合に契約を解除するために債務者の帰責事由を必要としていた現行法から、帰責事由がなくても解除できると改正。

保証債務

事業融資の個人保証は、保証契約締結日1か月以内に公正証書を作成していなければ無効。個人の根保証契約に関する規律を貸金等債務以外のものに拡張し極度額を定めない限り無効とする。

債権者代位

判例では、債務者は債権者の代位行使について通知を受けたとき、または知ったとき、第三者債務者に対する被代位権の処分が出来ないとしていたのに対し、債務者は代位行使があった場合でも代位される権利の処分ができるとした。

連帯債務者一人について生じた事由の効力

履行の請求、免除及び時効の完成について、現行法では、連帯債務者の一人について生じた場合、その効力が他の連帯債務者にも及ぶとしているが(絶対的効力)、改正法では、他の連帯債務者には効力が及ばない(相対的効力)とした。

定型約款

定型約款の規定を新設。定型約款の定義、定型約款が契約に適用される要件(合意がなくとも、みなし合意として契約の内容に取り込まれる場合の要件)、定型約款の開示義務、相手方の合意がなくとも定型約款を変更できる要件。取引の相手方の利益を一方的に害する条項については無効とする。

売買

特定物、不特定物を問わず、売主が契約の内容に適合しない目的物を買主へ引渡した場合、買主は履行の追完、代金減額、損害賠償、解除の救済手段を選択できると改正。

敷金

これまで規定されていなかった敷金の意義、敷金返還債務発生要件、充当関係等の規定を新設。

 

 上記表にあげた重要な改正点は全体のほんの一部であり、今回の改正は多岐にわたる。そしてこれら改正によって、事業にどのような影響があるか、それは事業ごとに異なるところが多いため、どの改正が自身の事業に影響を与えるかを早期に確認し、対応を準備しておく必要がある。

 例えば債権者代位、個人保証、連帯債務者に関する上記改正により、債権回収の実務に大きな影響が生じる。債権者代位の規定の改正についての影響であるが、債権者が、債務者に対して有する金銭債権に基づき、債務者の相手方(第三債務者)に対する金銭債権を代位行使する旨の訴えを第三債務者に対し提起した場合であっても、債務者が第三債務者に対する債権を免除や譲渡することができるし、また第三債務者も債務者に弁済することが可能となったため、予め、第三債務者に対する金銭債権について仮差押え等の措置を講じることが必要となった。また個人保証の効力を原則的に否定して無効とすること(例外的に、公正証書の作成、公証人による保証意思の確認を行った場合、経営者が個人保証を行う場合等を有効としている。)によって、事業融資をする際、保証人をつけることを要求することが困難となる。そして、連帯債務者に対する効力について、履行の請求や時効の完成が相対的効力となったことから、一人の連帯債務者に対する措置を講じることでは足りなくなる。改正案では当事者の合意で相対的効力の原則を変更できることを明文化しているところ、予め他の連帯債務者との間で、絶対的効力が及ぶ旨を合意しておく必要がある。

 さらに、定型約款の規定の新設との関係では、契約約款を用いて定型的な取引を大量に行う事業者、例えば、保険会社、証券会社、インターネットでの通信販売業者等は、約款の組み入れ条件や変更要件に留意しなくてはならない。定型約款を契約の内容に組み入れようとする場合は、契約の際に、契約書に定型約款が適用される旨の文言を付記し、相手方に説明をするなどの対応を用意しておく必要がある。また、契約相手方の利益を一方的に害するものであるときは、当該条項は契約当事者を拘束せず、契約の相手方がそのような条項が入っているとは予測できない条項(不意打ち条項)がある場合は、その条項の内容を容易に知り得る措置を講じていたかが、当該条項が無効になるか否かの考慮要素になる。したがって、現在の約款にこれらの観点から不備がないかを再確認する必要がある。

 また、新設された敷金の規定はこれまでの判例法理を明文化したものであり、実務に変更を与えるものではないが、敷金返還義務が発生する時期(賃貸借が終了する賃貸物の返還を受けたとき、又は賃借人が適法に賃借権を譲渡したとき)や経年劣化分は敷金から差し引かれないことが明文化されたことにより、これまでの判例法理とは異なる特約(建物明渡しの際に当然に何割かの敷金を控除する敷引特約等)を用いている賃貸業者は、今後当該特約について検討を要する。

 改正が目の前に迫った今、今回の改正が自社のビジネスにどう影響するかを把握し、対策を現に講じなければならない段階になっている。

                                     以上

(かとう・まゆみ)

 

岩田合同法律事務所アソシエイト。2005年早稲田大学法学部卒業。2007年東京大学法科大学院卒業。2008年検事任官。大阪地検、東京地検等勤務を経て、2014年4月に「判事補及び検事の弁護士職務経験に関する法律」に基づき弁護士登録、岩田合同法律事務所入所。

岩田合同法律事務所 http://www.iwatagodo.com/

<事務所概要>

1902年、故岩田宙造弁護士(後に司法大臣、貴族院議員、日本弁護士連合会会長等を歴任)により創立。爾来、一貫して企業法務の分野を歩んできた、我が国において最も歴史ある法律事務所の一つ。設立当初より、政府系銀行、都市銀行、地方銀行、信託銀行、地域金融機関、保険会社、金融商品取引業者、商社、電力会社、重電機メーカー、素材メーカー、印刷、製紙、不動産、建設、食品会社等、我が国の代表的な企業等の法律顧問として、多数の企業法務案件に関与している。

<連絡先>

〒100-6310 東京都千代田区丸の内二丁目4番1号丸の内ビルディング10階 電話 03-3214-6205(代表) 

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