◇SH0268◇最大判 平成26年11月26日 選挙無効請求事件(寺田逸郎裁判長)

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1 事案の概要

 本件は、平成25年7月21日施行の参議院議員通常選挙(以下「本件選挙」という。)について、東京都選挙区及び神奈川県選挙区の選挙人であるX(原告、上告人兼被上告人)らが、公職選挙法14条、別表3の参議院(選挙区選出)議員の議員定数配分規定(以下、数次の改正の前後を通じ、平成6年法律2号による改正前の別表2を含め、「定数配分規定」という。)は憲法に違反し無効であるから、これに基づき施行された本件選挙の上記各選挙区における選挙も無効であると主張して提起した選挙無効訴訟である。Xらは、本件選挙当時における定数配分規定は投票価値の平等の観点から憲法14条1項等に違反し無効である旨を主張した。

2 事実関係等の概要

 本件の前提となる事実関係等の概要は、次のとおりである。
 (1) 選挙区間の最大較差(各立法当時又は各選挙当時の選挙区間における議員1人当たりの人口又は選挙人数の最大較差の概数)は、参議院議員選挙法(昭和22年法律11号)制定当時は2.62倍であったが、人口変動により次第に拡大を続け、平成4年に施行された参議院議員通常選挙(以下、単に「通常選挙」という。)当時には6.59倍に達した後、平成6年の公職選挙法の改正(以下「平成6年改正」という。)における7選挙区の定数を8増8減する措置により4.81倍(平成2年10月実施の国勢調査結果による人口に基づく数値)に縮小し、平成12年改正における3選挙区の定数を6減する措置及び平成18年法律52号による公職選挙法の改正(以下「平成18年改正」という。)における4選挙区の定数を4増4減する措置の前後を通じて、平成13年から平成19年までに施行された各通常選挙当時において5倍前後で推移した。
 その間、最高裁大法廷は、定数配分規定の合憲性に関し、最高裁昭和58年4月27日大法廷判決民集37巻3号345頁(以下「昭和58年大法廷判決」という。)において、後記5(1)の基本的な判断枠組みを示し、選挙区間の最大較差が5.26倍であった昭和52年施行の通常選挙につき、いまだ違憲の問題が生ずる程度の投票価値の著しい不平等状態が生じていたとするには足らない旨判示した後、選挙区間の最大較差が6.59倍に達した平成4年施行の通常選挙につき、上記の状態が生じていた旨判示したが(最高裁平成8年9月11日大法廷判決民集50巻8号2283頁〔以下「平成8年大法廷判決」という。〕)、平成6年改正後の定数配分規定の下で施行された2回の通常選挙については、上記の状態に至っていたとはいえない旨判示した(最高裁平成10年9月2日大法廷判決民集52巻6号1373頁、最高裁平成12年9月6日大法廷判決民集54巻7号1997頁)。その後、平成12年改正後の定数配分規定の下で施行された2回の通常選挙及び平成18年改正後の定数配分規定(以下、平成24年法律第94号による改正前のものを「本件旧定数配分規定」という。)の下で平成19年に施行された通常選挙のいずれについても、最高裁大法廷は、上記の状態に至っていたか否かにつき明示的に判示することなく、結論において当該各定数配分規定が憲法に違反するに至っていたとはいえない旨の判断を示し(最高裁平成16年1月14日大法廷判決民集58巻1号56頁〔以下「平成16年大法廷判決」という。〕、最高裁平成18年10月4日大法廷判決民集60巻8号2696頁〔以下「平成18年大法廷判決」という。〕、最高裁平成21年9月30日大法廷判決民集63巻7号1520頁〔以下「平成21年大法廷判決」という。〕)、平成18年大法廷判決においては、投票価値の平等の重要性を考慮すると投票価値の不平等の是正について国会における不断の努力が望まれる旨の指摘がされ、平成21年大法廷判決においては、当時の較差が投票価値の平等という観点からはなお大きな不平等が存する状態であって、選挙区間における投票価値の較差の縮小を図ることが求められる状況にあり、最大較差の大幅な縮小を図るためには現行の選挙制度の仕組み自体の見直しが必要となる旨の指摘がされた。

 (2) 平成16年大法廷判決を受けて同年12月に参議院改革協議会の下に設けられた選挙制度に係る専門委員会が平成17年10月に同協議会に提出した報告書では、現行の選挙制度の仕組みを維持する限り、各選挙区の定数を振り替える措置により較差の是正を図ったとしても、較差を4倍以内に抑えることは相当の困難がある旨の意見が示された。また、平成18年改正により同報告書の提案に係る前記4増4減の措置が採られた後、平成18年大法廷判決を経て、平成20年6月に改めて参議院改革協議会の下に設置された選挙制度に係る専門委員会では、平成22年5月までの協議を経て、平成25年に施行される通常選挙に向けて選挙制度の見直しの検討を開始することとされ、平成23年中の公職選挙法の改正法案の提出を目途とする旨の工程表が示されたものの、具体的な較差の是正が見送られた結果、平成22年7月11日、選挙区間の最大較差が5.00倍に拡大した状況において、本件旧定数配分規定の下で2回目となる通常選挙が施行された(以下、この前回の選挙を「平成22年選挙」という。)。
 平成22年選挙後、平成21年大法廷判決の指摘を踏まえた選挙制度の仕組みの見直しを含む制度改革に向けた検討のため、参議院に選挙制度の改革に関する検討会が発足し、同検討会及びその下に設置された選挙制度協議会における検討を経て、平成24年8月に当面の較差の拡大を抑える措置として公職選挙法の一部を改正する法律案が国会に提出された。その内容は、平成25年7月に施行される通常選挙(本件選挙)に向けた改正として選挙区選出議員について4選挙区で定数を4増4減するものであり、その附則には、平成28年に施行される通常選挙に向けて選挙制度の抜本的な見直しについて引き続き検討を行い結論を得るものとする旨の規定が置かれていた(上記4増4減の改正が行われたとしても、平成22年10月実施の国勢調査結果による人口に基づく選挙区間の最大較差は4.75倍であった。)。
 このような状況の下で、平成22年選挙につき、最高裁平成24年10月17日大法廷判決民集66巻10号3357頁(以下「平成24年大法廷判決」という。)は、結論において同選挙当時における本件旧定数配分規定が憲法に違反するに至っていたとはいえないとしたものの、長年にわたる制度及び社会状況の変化を踏まえ、都道府県を各選挙区の単位とする仕組みを維持しながら投票価値の平等の要求に応えていくことはもはや著しく困難な状況に至っていることなどに照らし、違憲の問題が生ずる程度の投票価値の著しい不平等状態が生じていた旨判示するとともに、都道府県を単位として各選挙区の定数を設定する現行の方式をしかるべき形で改めるなど、現行の選挙制度の仕組み自体の見直しを内容とする立法的措置を講じ、できるだけ速やかに違憲の問題が生ずる上記の不平等状態を解消する必要がある旨を指摘した。

 (3) 平成24年大法廷判決の言渡し後、同年11月16日に上記の公職選挙法の一部を改正する法律案が平成24年法律第94号(以下「平成24年改正法」という。)として成立し、同月26日に施行された(以下、同改正法による改正後の定数配分規定を「本件定数配分規定」という。)。
 また、同月以降、選挙制度協議会において平成24年大法廷判決を受けて選挙制度の改革に関する検討が行われ、平成25年6月、選挙制度の改革に関する検討会において、選挙制度協議会の当時の座長から参議院議長及び参議院各会派に対し、平成24年改正法の上記附則の定めに従い、平成28年7月に施行される通常選挙から新選挙制度を適用すべく、平成26年度中に選挙制度の仕組みの見直しを内容とする改革の成案を得た上で、平成27年中の公職選挙法改正の成立を目指して検討を進める旨の工程表が示された。
 平成25年7月21日、本件定数配分規定の下での初めての通常選挙として、本件選挙が施行された。本件選挙当時の選挙区間の最大較差は、4.77倍であった。

 (4) なお、本件選挙後、平成25年9月に参議院において改めて選挙制度の改革に関する検討会が開かれてその下に選挙制度協議会が設置され、同検討会において、平成27年中の公職選挙法改正の成立を目指すことが確認されるとともに、同協議会において、有識者等からの意見や説明の聴取をした上で協議が行われ、平成26年4月には選挙制度の仕組みの見直しを内容とする具体的な改正案として座長案が示され、その後に同案の見直し案も示されており(これらの案は、基本的には、人口の少ない一定数の選挙区を隣接区と合区してその定数を削減し、人口の多い一定数の選挙区の定数を増やして選挙区間の最大較差を大幅に縮小するというものであった。)、同年5月以降(本判決の言渡し時に至るまで)、上記の案や参議院の各会派の提案等をめぐり検討と協議が行われていた(上記各会派の提案の中には、上記の案を基礎として合区の範囲等に修正を加える提案のほか、都道府県に代えてより広域の選挙区の単位を新たに創設する提案等が含まれていた。)。

3  本件の訴訟経過等

 本件の訴訟経過等は、次のとおりである。
 (1) 原判決は、本件選挙当時において、本件定数配分規定の下で選挙区間の投票価値の不均衡は平成24年改正法による改正後も投票価値の平等の重要性に照らして看過し得ないもの(注・違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態と同旨と解される。)であり、本件選挙までの間に更に本件定数配分規定を改正しなかったことは国会の裁量権の限界を超えるものであったとして本件定数配分規定は違憲であるとしつつ、いわゆる事情判決の法理を適用し、Xらの請求をいずれも棄却した上で、当該各選挙区における選挙が違法であることを主文において宣言した。これに対し、XらとYらの双方から上告があった。

 (2) 本判決は、本件選挙当時において、本件定数配分規定の下で、選挙区間の投票価値の不均衡は平成24年改正法による改正後も違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態にあったが、本件選挙までの間に更に本件定数配分規定の改正がされなかったことをもって国会の裁量権の限界を超えるものとはいえず、本件定数配分規定が憲法14条1項等に違反するに至っていたとはいえない旨の判断をし、Yらの上告に基づき原判決を変更してXらの請求を棄却するとともに、Xらの上告を棄却した。

 (3) なお、本件選挙については、本件と争点を共通にする選挙無効訴訟が全国の高裁・高裁支部に提起され、本件原審を含む15の裁判体により20件の判決がされているが、4つの裁判体における判断内容と代理人が共通の判決各2件をそれぞれ1件とみると実質は16件となる。その16件(形式上は20件)のうち、(a)13件(東京高裁の本件原審以外の事件、名古屋高裁、名古屋高裁金沢支部、広島高裁2件、広島高裁松江支部、福岡高裁、福岡高裁宮崎支部、福岡高裁那覇支部、仙台高裁、仙台高裁秋田支部、札幌高裁、高松高裁。形式上は16件〔広島高裁3件、広島高裁松江支部2件、福岡高裁宮崎支部2件及び他の9庁各1件〕)において上記(2)と同旨のいわゆる違憲状態・合憲の判断がされ、(b)2件(東京高裁の本件原審の事件、大阪高裁。形式上も2件)において上記(1)及びこれと同旨のいわゆる違憲・事情判決がされ、(c)1件(広島高裁岡山支部。形式上は2件)においていわゆる違憲・無効の判断(本件定数配分規定は違憲であるとした上でいわゆる事情判決の法理を適用せず当該選挙区における本件選挙を無効とすべき旨の判断〔当該事件では即時に無効とすべき旨の判断〕)がされており、いずれの判決についても上告がされ、最高裁大法廷において本判決と同日に同旨の判決がされている(上告審では、原判決の結論と代理人が共通の事件ごとに、本判決を含めて5件の判決がされている。)。

4 本判決の要旨

 本判決は、要旨、次のとおり判示した。
 (1) 憲法は、選挙権の内容の平等、換言すれば、議員の選出における各選挙人の投票の有する影響力の平等、すなわち投票価値の平等を要求していると解される。しかしながら、憲法は、国民の利害や意見を公正かつ効果的に国政に反映させるために選挙制度をどのような制度にするかの決定を国会の裁量に委ねているのであるから、投票価値の平等は、選挙制度の仕組みを決定する唯一、絶対の基準となるものではなく、国会が正当に考慮することができる他の政策的目的ないし理由との関連において調和的に実現されるべきものである。
 昭和22年の参議院議員選挙法及び昭和25年の公職選挙法の制定当時、参議院議員について、全国選出議員については全国の区域を通じて選挙するものとし、地方選出議員については都道府県を各選挙区の単位とする選挙制度の仕組みを定めたことが、国会の有する裁量権の合理的な行使の範囲を超えるものであったということはできない。しかしながら、人口変動の結果、上記の仕組みの下で選挙区間の投票価値の著しい不平等状態が生じ、それが相当期間継続しているにもかかわらずこれを是正する措置を講じないことが、国会の裁量権の限界を超えると判断される場合には、当該定数配分規定が憲法に違反するに至るものと解するのが相当である。

 (2) 上記の見地に立って、本件選挙当時の本件定数配分規定の合憲性について検討する。
 ア(ア) 憲法が、二院制の下で、参議院議員につき任期を6年の長期とし、解散もなく、選挙は3年ごとにその半数について行うことを定めている趣旨は、これらによって、多角的かつ長期的な視点からの民意を反映させ、衆議院との権限の抑制、均衡を図り、国政の運営の安定性、継続性を確保しようとしたものと解される。いかなる具体的な選挙制度によって、上記の憲法の趣旨を実現し、投票価値の平等の要請と調和させていくかは、国会の合理的な裁量に委ねられていると解すべきところであるが、その合理性を検討するに当たっては、参議院議員の選挙制度が設けられてから60年余にわたる制度及び社会状況の変化を考慮することが必要である。
 参議院議員と衆議院議員の各選挙制度の変遷を対比してみると、両議院とも、政党に重きを置いた選挙制度を旨とする改正が行われ、選挙区選挙と比例代表選挙との組合せという類似した選出方法が採られており、その結果として同質的な選挙制度となってきており、急速に変化する社会の情勢の下で、議員の長い任期を背景に国政の運営における参議院の役割がこれまでにも増して大きくなってきているといえることに加えて、衆議院については選挙区間の人口較差が2倍未満となることを基本とする旨の区割りの基準が定められていることにも照らすと、参議院についても、二院制に係る上記の憲法の趣旨との調和の下に、更に適切に民意が反映されるよう投票価値の平等の要請について十分に配慮することが求められるところである。
 参議院においては、この間の人口変動により都道府県間の人口較差が著しく拡大したため、半数改選の要請を踏まえて定められた偶数配分を前提に、都道府県を単位として各選挙区の定数を定めるという現行の選挙制度の仕組みの下で、昭和22年の制度発足時には2.62倍であった選挙区間の最大較差がその後拡大し、平成6年以降、5倍前後の較差が維持されたまま推移してきた。
 前述のような憲法の趣旨、参議院の役割等に照らすと、参議院議員の選挙であること自体から、直ちに投票価値の平等の要請が後退してよいと解すべき理由は見いだし難い。都道府県を各選挙区の単位として固定する結果、その間の人口較差に起因して上記のような投票価値の大きな不平等状態が長期にわたり継続している状況の下では、地方における一つのまとまりを有する行政等の単位としての都道府県の意義や実体等をもって上記の選挙制度の仕組みの合理性を基礎付けるには足りなくなっているといわなければならない。
 以上に鑑みると、人口の都市部への集中による都道府県間の人口較差の拡大が続き、総定数を増やす方法を採ることにも制約がある中で、半数改選の要請を踏まえて定められた偶数配分を前提に、都道府県を各選挙区の単位とする仕組みを維持しながら投票価値の平等の実現を図るという要求に応えていくことは、もはや著しく困難な状況に至っているものというべきであり、このことは平成17年の参議院の専門委員会の報告書や平成21年大法廷判決において指摘されていたところであって、これらの事情の下では、平成24年大法廷判決の判示するとおり、平成22年選挙当時、当時の定数配分規定の下での前記の較差が示す選挙区間における投票価値の不均衡は、違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態に至っていたというほかはない。

 (イ) 上記のとおり平成22年選挙当時の定数配分規定の下での選挙区間の投票価値の不均衡は違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態にあると評価されるに至っており、この状態を解消するためには、一部の選挙区の定数の増減にとどまらず、上記制度の仕組み自体の見直しが必要であるところ、平成24年改正法による定数の4増4減の措置は、上記のような選挙制度の仕組みを維持して一部の選挙区の定数を増減するにとどまり、現に選挙区間の最大較差(本件選挙当時4.77倍)については上記改正の前後を通じてなお5倍前後の水準が続いていたのであるから、上記の状態を解消するには足りないものであったといわざるを得ない。したがって、平成24年改正法による上記の措置を経た後も、本件選挙当時に至るまで、本件定数配分規定の下での選挙区間における投票価値の不均衡は、平成22年選挙当時と同様に違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態にあったものというべきである。

 イ(ア) 参議院議員の選挙における投票価値の較差の問題について、最高裁大法廷は、これまで、①当該定数配分規定の下での選挙区間における投票価値の不均衡が、違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態に至っているか否か、②上記の状態に至っている場合に、当該選挙までの期間内にその是正がされなかったことが国会の裁量権の限界を超えるとして当該定数配分規定が憲法に違反するに至っているか否かといった判断の枠組みを前提として審査を行ってきており、こうした判断の方法が採られてきたのは、憲法の予定している司法権と立法権との関係に由来するものと考えられる。すなわち、裁判所において選挙制度について投票価値の平等の観点から憲法上問題があると判断したとしても、自らこれに代わる具体的な制度を定め得るものではなく、その是正は国会の立法によって行われることになるものであり、是正の方法についても国会は幅広い裁量権を有しているので、裁判所が選挙制度の憲法適合性について上記の判断枠組みの下で一定の判断を示すことにより、国会がこれを踏まえて自ら所要の適切な是正の措置を講ずることが、憲法上想定されているものと解される。このような憲法秩序の下における司法権と立法権との関係に照らすと、上記①において違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態に至っている旨の司法の判断がされれば国会はこれを受けて是正を行う責務を負うものであるところ、上記②において当該選挙までの期間内にその是正がされなかったことが国会の裁量権の限界を超えるといえるか否かを判断するに当たっては、単に期間の長短のみならず、是正のために採るべき措置の内容、そのために検討を要する事項、実際に必要となる手続や作業等の諸般の事情を総合考慮して、国会における是正の実現に向けた取組が司法の判断の趣旨を踏まえた裁量権の行使の在り方として相当なものであったといえるか否かという観点に立って評価すべきものと解される。

 (イ) 参議院議員の選挙における投票価値の不均衡については、平成10年及び平成12年の各大法廷判決は違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態に至っていないとする判断を示し、その後も平成21年大法廷判決に至るまで上記の状態に至っていたとする判断が示されたことはなかったものであるところ、上記の状態に至っているとし、その解消のために選挙制度の仕組み自体の見直しが必要であるとする最高裁大法廷の判断が示されたのは、平成24年大法廷判決の言渡しがされた平成24年10月17日であり、国会において上記の状態に至っていると認識し得たのはこの時点からであったというべきである。
 上記の判示に係る違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態を解消するためには、平成24年大法廷判決の指摘するとおり、単に一部の選挙区の定数を増減するにとどまらず、都道府県を単位として各選挙区の定数を設定する現行の方式をしかるべき形で改めるなど、現行の選挙制度の仕組み自体の見直しを内容とする立法的措置を講ずることが求められていたところである。このような選挙制度の仕組み自体の見直しについては、参議院の在り方をも踏まえた高度に政治的な判断が求められるなど、事柄の性質上課題も多いため、その検討に相応の時間を要することは認めざるを得ず、また、参議院の各会派による協議を経て改正の方向性や制度設計の方針を策定し、具体的な改正案を立案して法改正を実現していくためには、これらの各過程における諸々の手続や作業が必要となる。
 しかるところ、選挙区間における投票価値の不均衡が違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態に至っていることを国会が認識し得た平成24年大法廷判決の言渡しの時点から、本件選挙の施行までの期間は、約9か月にとどまるものであること、それ以前にも当裁判所大法廷の指摘を踏まえて参議院における選挙制度の改革に向けての検討が行われていたものの、それらはいまだ上記の状態に至っているとの判断がされていない段階での将来の見直しに向けての検討にとどまる上、上記改革の方向性に係る各会派等の意見は区々に分かれて集約されない状況にあったことなどに照らすと、平成24年大法廷判決の言渡しから本件選挙までの上記期間内に、上記のように高度に政治的な判断や多くの課題の検討を経て改正の方向性や制度設計の方針を策定し、具体的な改正案の立案と法改正の手続と作業を了することは、実現の困難な事柄であったものといわざるを得ない。
 他方、国会においては、平成24年大法廷判決の言渡し後、本件選挙までの間に、前記4増4減の措置に加え、附則において平成28年に施行される通常選挙に向けて選挙制度の抜本的な見直しについて引き続き検討を行い結論を得るものとする旨を併せて定めた平成24年改正法が成立するとともに、参議院の選挙制度の改革に関する検討会及び選挙制度協議会において、平成24年大法廷判決を受けて選挙制度の改革に関する検討が行われ、上記附則の定めに従い、選挙制度の仕組みの見直しを内容とする公職選挙法改正の上記選挙までの成立を目指すなどの検討の方針や工程が示されてきている。このことに加え、これらの参議院の検討機関において、本件選挙後も、上記附則の定めに従い、平成24年大法廷判決の趣旨に沿った方向で選挙制度の仕組みの見直しを内容とする法改正の具体的な方法等の検討が行われてきていることをも考慮に入れると、本件選挙前の国会における是正の実現に向けた上記の取組は、具体的な改正案の策定にまでは至らなかったものの、同判決の趣旨に沿った方向で進められていたものということができる。
 以上に鑑みると、本件選挙は、前記4増4減の措置後も前回の平成22年選挙当時と同様に違憲の問題が生ずる程度の投票価値の著しい不平等状態の下で施行されたものではあるが、平成24年大法廷判決の言渡しから本件選挙までの約9か月の間に、平成28年に施行される通常選挙に向けて選挙制度の抜本的な見直しについて引き続き検討を行い結論を得るものとする旨を附則に定めた平成24年改正法が成立し、参議院の検討機関において、上記附則の定めに従い、同判決の趣旨に沿った方向で選挙制度の仕組みの見直しを内容とする法改正の上記選挙までの成立を目指すなどの検討の方針や工程を示しつつその見直しの検討が行われてきているのであって、前述の司法権と立法権との関係を踏まえ、前記のような考慮すべき諸事情に照らすと、国会における是正の実現に向けた取組が平成24年大法廷判決の趣旨を踏まえた国会の裁量権の行使の在り方として相当なものでなかったということはできず、本件選挙までの間に更に上記の見直しを内容とする法改正がされなかったことをもって国会の裁量権の限界を超えるものということはできない。

 ウ 以上のとおりであって、本件選挙当時において、本件定数配分規定の下で、選挙区間における投票価値の不均衡は、平成24年改正法による改正後も前回の平成22年選挙当時と同様に違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態にあったものではあるが、本件選挙までの間に更に本件定数配分規定の改正がされなかったことをもって国会の裁量権の限界を超えるものとはいえず、本件定数配分規定が憲法に違反するに至っていたということはできない。
 国民の意思を適正に反映する選挙制度が民主政治の基盤であり、投票価値の平等が憲法上の要請であることや、国政の運営における参議院の役割等に照らせば、より適切な民意の反映が可能となるよう、従来の改正のように単に一部の選挙区の定数を増減するにとどまらず、国会において、都道府県を単位として各選挙区の定数を設定する現行の方式をしかるべき形で改めるなどの具体的な改正案の検討と集約が着実に進められ、できるだけ速やかに、現行の選挙制度の仕組み自体の見直しを内容とする立法的措置によって違憲の問題が生ずる前記の不平等状態が解消される必要があるというべきである。

5 説明

 (1) 参議院議員選挙に係る定数配分規定の憲法適合性(憲法14条1項等に違反するかどうか)については、前記2(1)の昭和58年大法廷判決において、①当該定数配分規定の下での選挙区間における投票価値の不均衡が違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態(いわゆる違憲状態)に至っているか否か、②当該選挙までの期間内に当該不均衡の是正がされなかったことが国会の裁量権の限界を超えるに至っているか否かの各観点から検討するという基本的な判断枠組みが示され、以後の最高裁判例はこの判断枠組みを前提として憲法適合性の審査を行ってきており、こうした判断の手法が採られてきた理由が憲法の予定している司法権と立法権との関係に由来するものであることにつき、前記4(2)イ(ア)の判旨においてその趣旨が説示されている。
 その後、前記2(1)のとおり、平成8年大法廷判決においては、上記②の観点から当該選挙当時における定数配分規定が憲法に違反するに至っていたとはいえないとされたものの、最大6.59倍の較差の下で上記①の観点につき違憲の問題が生ずる程度の投票価値の著しい不平等状態が生じていたものといわざるを得ないとされ、また、平成16年、平成18年及び平成21年の各大法廷判決においては、上記②の観点から結論において当該各選挙当時における定数配分規定が憲法に違反するに至っていたとはいえないとされたものの、最大5倍前後の較差の下で上記①の観点につき昭和58年、平成10年及び平成12年の各大法廷判決のような肯定的な評価が明示されず、投票価値の平等の観点から実質的にはより厳格な評価がされるようになっていたところである。
 そして、前回の平成22年選挙につき、平成24年大法廷判決は、上記②の観点から当該選挙当時における本件旧定数配分規定が憲法に違反するに至っていたとはいえないとしたものの、上記①の観点につき、参議院議員の選挙制度の創設から60年余の制度及び社会状況の変化を考慮した上で、都道府県を各選挙区の単位とする現行の選挙制度の仕組みを維持しながら投票価値の平等の実現を図るという要求に応えていくことはもはや著しく困難な状況に至っており、上記選挙時には本件旧定数配分規定の下での選挙区間における投票価値の不均衡は違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態に至っていた旨の判断を示すとともに、上記の状態を解消するためには、都道府県を単位として各選挙区の定数を設定する現行の方式をしかるべき形で改めるなど、現行の選挙制度の仕組み自体の見直しを内容とする立法的措置が必要である旨を判示した。

 (2) 平成24年大法廷判決の言渡し後本件選挙までの間に平成24年改正法による前記4増4減の措置が採られたことから、本件選挙に関しては、前記(1)①の点につき、その当時において上記改正後も違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態にあったか否かが問題となるところ、本判決は、平成24年大法廷判決において指摘されているように、上記の状態を解消するためには、一部の選挙区の定数の増減にとどまらず、現行の選挙制度の仕組み自体の見直しが必要であるが、上記4増4減の措置は、上記制度の仕組みを維持して一部の選挙区の定数を増減するにとどまり、現に選挙区間の最大較差(本件選挙当時4.77倍)については上記改正の前後を通じてなお5倍前後の水準が続いていたのであるから、上記の状態を解消するには足りないものであり、平成24年改正法による上記の措置を経た後も本件選挙当時に至るまで、本件定数配分規定の下での選挙区間における投票価値の不均衡は、前回の平成22年選挙当時と同様に違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態にあったものというべきであると判示している。同①の点につき、平成24年大法廷判決の趣旨に沿って平成24年改正法の改正内容(上記4増4減の措置)の評価を検討した上で、同改正後も引き続きいわゆる違憲状態にある旨の判断を示したものと解される。

 (3) 次に、本判決は、前記(1)①の点について当該選挙時における投票価値の不均衡がいわゆる違憲状態にある旨の判断がされた場合には、同②の点について、当該選挙までの期間内に当該不均衡の是正がされなかったことが国会の裁量権の限界を超えるといえるか否かの判断がされるべきものと判示して、同②の点が上記の期間における立法裁量権の行使の在り方の適否という見地から判断されるべきことを文言上も明確に示すとともに、制度及び社会状況の変化によっていわゆる違憲状態に至ったと評価される本件の場合には、その旨の判断を示した平成24年大法廷判決の言渡しにより国会において上記の状態に至っていると認識し得た時点が上記の期間の始期になるものと判示している。また、同②の点の判断に当たっての考慮要素や評価の観点について、本判決は、単に期間の長短のみならず、是正のために採るべき措置の内容、そのために検討を要する事項、実際に必要となる手続や作業等の諸般の事情を総合考慮して、国会における是正の実現に向けた取組が司法の判断の趣旨を踏まえた裁量権の行使の在り方として相当なものであったといえるか否かという観点に立って評価すべきであると判示しており、これは、衆議院議員選挙に係る選挙区割規定の憲法適合性について最大判平成25年11月20日民集67巻8号1503頁が憲法上要求される合理的期間における是正がされなかったといえるか否かの点に係る判断に当たって示した考慮要素や評価の観点と同趣旨の判断枠組みが示されたものといえると考えられる。
 そして、本判決は、上記の考慮要素等につき、是正のために採るべき措置の内容が、現行の選挙制度の仕組みの見直しを内容とする立法的措置であることから、そのために検討を要する事項は、高度に政治的な判断を求められるなど事柄の性質上課題も多く、検討に相応の時間を要するものであり、実際の手続や作業も、各会派の協議を経た改正の方向性や制度設計の方針の策定及び具体的な改正案の立案の各過程における諸々のものが必要となること等を踏まえた上で、投票価値の不均衡がいわゆる違憲状態に至っていることを国会が認識し得た平成24年大法廷判決の言渡し時から本件選挙までの約9か月の期間内にこれらの手続や作業を経て所要の法改正を了することは実現の困難な事柄であったと判示し、また、その期間内の国会における是正の実現に向けた取組は、平成24年改正法の附則の定めに従い、選挙制度の仕組みの見直しを内容とする法改正の平成28年施行の通常選挙までの成立を目指すなどの検討の方針や工程を示しつつその見直しの検討を行うなど、同判決の趣旨に沿った方向で進められていたといえると判示している(なお、同判決の言渡し以前に最高裁大法廷の指摘を踏まえて参議院において行われていた選挙制度の改革に向けての検討につき、本判決は、いまだいわゆる違憲状態との判断がされていない段階での将来の見直しに向けての検討にとどまることや上記改革の方向性に係る当時の検討の状況等に照らし、それを参酌しても、上記約9か月の期間内に所要の法改正を了することが実現の困難な事柄であったとの上記の判断は左右されない旨判示している。また、本件選挙後の事情は、飽くまでも本件選挙時までの国会の取組の評価における間接的な事情として参酌されたにとどまり、それ自体が本件選挙時の定数配分規定の憲法適合性に係る判断において直接的に考慮されたものではないと解される。)。その上で、本判決は、前述(前記(1))の司法権と立法権との関係を踏まえ、上記のような考慮すべき諸事情に照らすと、国会における是正の実現に向けた取組が平成24年大法廷判決の趣旨を踏まえた国会の裁量権の行使の在り方として相当なものでなかったということはできず、本件選挙までの間に更に上記の見直しを内容とする法改正がされなかったことをもって国会の裁量権の限界を超えるものとはいえないとして、本件定数配分規定が憲法に違反するに至っていたとはいえないと判示している。
 平成24年改正法の本則による前記4増4減の措置は、前記(2)のとおり選挙制度の仕組みの見直しを内容とするものではなく、いわゆる違憲状態を解消するには足りないものであったとされたが、同改正法の附則は、平成28年に施行される通常選挙に向けて選挙制度の抜本的な見直しについて引き続き検討を行い結論を得るものとする旨を定めており、本判決においては、平成24年大法廷判決の言渡し後の国会における取組につき、同附則の定めに従って同判決の趣旨に沿った方向での選挙制度の仕組みの見直しに係る検討が行われてきているとの評価を踏まえ、この附則の定めを重視した判断がされたものといえると考えられる。

 (4) そして、本判決は、いわゆる違憲状態を解消するための是正措置につき、平成24年大法廷判決と同様に、従来の改正のように単に一部の選挙区の定数を増減するにとどまらず、国会において、都道府県を単位として各選挙区の定数を設定する現行の方式をしかるべき形で改めるなど、現行の選挙制度の仕組み自体の見直しを内容とする立法的措置が必要であることを指摘するとともに、更に進んで、上記の見直しを内容とする具体的な改正案の検討と集約が着実に進められ、できるだけ速やかに上記の立法的措置によって上記の状態が解消される必要があると判示している。
 参議院の選挙制度協議会においては、前記2(3)及び(4)のとおり、平成24年改正法の前記附則の定めに従い、平成28年に施行される通常選挙に向けて上記の見直しを内容とする選挙制度の改革の在り方について検討が行われてきているところであり、今後、本判決の趣旨を踏まえ、いわゆる違憲状態を解消するための選挙制度の仕組みの見直しを内容とする具体的な改正案の集約に向けた議論の動向が注目されるところである。

 (5) 本判決には、(ア)多数意見(11名)の立場から、①櫻井龍子裁判官、金築誠志裁判官、岡部喜代子裁判官、山浦善樹裁判官、山﨑敏充裁判官の共同補足意見、②千葉勝美裁判官の補足意見が付されており、また、(イ)大橋正春裁判官、鬼丸かおる裁判官、木内道祥裁判官、山本庸幸裁判官の各反対意見が付されている。上記(ア)①及び②の各補足意見は、いわゆる違憲状態(以下のア及びイにおいて単に「違憲状態」という。)の解消に係る責務等について多数意見の憲法判断を敷衍するものであり、また、上記(イ)の各反対意見は、違憲の結論を採るものであり、そのうち、大橋裁判官、鬼丸裁判官、木内裁判官の各反対意見は本件選挙の違法を宣言すべき旨を述べ、山本裁判官の反対意見は本件選挙を即時に無効とすべき旨を述べるものである。

 ア 櫻井裁判官、金築裁判官、岡部裁判官、山浦裁判官、山﨑裁判官の共同補足意見は、①投票価値の不均衡が違憲状態にある旨の司法の判断がされれば、国会は憲法上自らその解消に向けて所要の適切な措置を講ずる責務を負うものと解され、平成24年改正法の前記附則の定めも、平成24年大法廷判決の趣旨に沿って選挙制度の仕組み自体を抜本的に見直す改正法を早期に成立させ、平成28年の通常選挙から実施することを国会自身が上記責務の遂行の方針として宣明したものということができ、参議院の選挙制度協議会における様々な提案と検討も国会による上記責務の遂行の取組を示すものといえるところ、②投票価値の不均衡の是正は、議会制民主主義の根幹に関わる極めて重要な問題であって、違憲状態を解消して民意を適正に反映する選挙制度を構築することは国民全体のために優先して取り組むべき喫緊の課題であり、国会自身が平成24年改正法の上記附則において主権者である国民に対して自らの責務の遂行の方針として宣明したとおり、今後国会において具体的な改正案の集約と収斂に向けた取組が着実に実行され、同附則の前記の定めに従って、平成24年大法廷判決及び本判決の趣旨に沿った選挙制度の仕組み自体の見直しを内容とする立法的措置ができるだけ速やかに実現されることが強く望まれる旨を述べるものである。
 千葉裁判官の補足意見は、①違憲状態の判断を示した平成24年大法廷判決における選挙制度の仕組みの見直しが必要である旨の説示は、平成18年と同21年の各大法廷判決の各付言のような警告的な注意喚起にとどまらず、国会に対してその是正を図るべき憲法上の責務を合理的期間内に果たすべきことを求めたものというべきであり、平成24年改正法の前記附則の定めは、平成24年大法廷判決の上記説示を受けて、国会が自ら期限を切って憲法上の責務を果たす意思を表明したものであって、国会は選挙制度の仕組み自体の見直しを内容とする立法的措置を講じ違憲状態を解消する対応を採ることが法的に義務付けられている状態にあるといえるところ、②本件選挙後の国会の検討状況は、本件選挙との関係では合憲性判断の基準時後の事情であり、当初から国会が同判決の趣旨に沿った是正の姿勢を有していたことの裏付けとなる間接的な事情として参酌されるものといえるが、平成28年の通常選挙との関係では合憲性判断の直接的な考慮要素となる重要な事項といえ、違憲状態の評価を脱するためには現状の較差の大幅な縮小がされなければならず、上記附則の定めに基づく制度改正においてはこれらの点を十分に考慮に入れた国会の適切な裁量権の行使が求められ、国会において自ら設定した期限までに制度の仕組みの見直しを内容とする改革が進められていくことが注視される旨を述べるものである。

 イ 大橋裁判官の反対意見は、①違憲状態の評価を前提として、国会の裁量権を考えるに当たっては、国会が問題の根本的解決のために真摯な努力を行っているか否か等が重要な要素として考慮されるべきであり、参議院の選挙区の定数是正について平成16年大法廷判決以降の国会の対応は当面の選挙を対象とした暫定的措置を採って抜本的改革は先送りすることを繰り返しており、違憲状態を解消するために不可欠な制度の仕組み自体の見直しを内容とする改正の真摯な取組がされないまま期間が経過していくことは国会の裁量権の限界を超えるとの評価を免れず、本件定数配分規定は本件選挙当時に憲法に違反するものであったとした上で、②参議院において現在も一定の改正作業が進行しており、最高裁判決を前提に較差を2倍未満とする改正案が提案されるなど、国会の中にも最高裁判決の趣旨を受け止めてこれに対応しようと努力する動きがあること等に照らすと、現時点で直ちに国会の自主的判断による是正の実現は期待できないと断ずるのは尚早であり、平成24年改正法が附則において平成28年の通常選挙に向けて国会が選挙制度の抜本的改革を実現する意思を自ら公に示していると理解できること等を考慮し、いわゆる事情判決の法理により本件選挙の違法を宣言するのが相当である旨を述べるものである。
 鬼丸裁判官の反対意見は、①憲法は、参議院議員の選挙においても、衆議院議員の選挙と同様に、国民の投票価値につき、できる限り1対1に近い平等を基本的に保障しており、平成19年及び平成22年の通常選挙並びに本件選挙の各当時における投票価値の大きな較差は、これらを許容し得る合理的な理由があるとは解されず、違憲状態にあったところ、②国会は、遅くとも平成21年大法廷判決が示された時点でその仕組み自体の見直しの必要を認識し得て速やかにその仕組みの改革を行うべき責務を負ったものであり、本件選挙までの約3年9か月の期間内に違憲状態の是正がされなかったことは国会の裁量権の限界を超えるとの評価を免れず、本件選挙当時に本件定数配分規定は憲法に違反するに至っていたとした上で、③平成24年大法廷判決を受けて、国会においては平成28年の通常選挙に向けて選挙制度の抜本的見直しの検討が続けられており、平成24年改正法の附則の定めに従い、次回の通常選挙までに投票価値の等価を原則とした是正策が採られる可能性のある状況にあるといえるので、今回、違憲の結論を採るに当たっては、憲法の予定する立法権と司法権の関係に鑑み、まず国会自らによる是正の責務の内容及びこれを速やかに実現する必要性を明確に示すことが相当であり、本件については、選挙を無効とすることなく、本件選挙は違法であると宣言するのが相当である旨を述べるものである。
 木内裁判官の反対意見は、①違憲状態の評価を前提として、その解消のための選挙制度の改正の時期につき国会の持つ裁量権はごく限られたものとなり、その裁量の当否の判断に当たって考慮を許されるのは選挙制度の改正に当たって国会に合理的に期待される所要期間の幅であって、違憲状態の解消はできるだけ速やかになされるべきとの観点から、較差の是正が本件選挙までにされなかったことを国会の合理的な立法活動として是認できるか否かという問題として判断すべきであり、平成24年改正法はその附則において選挙制度の抜本的見直しに該当しないことを自認するものといえる4増4減の改正を内容とするものにすぎず、本件選挙までに投票価値の較差の是正がされなかったことは国会の裁量権の限界を超えたものであるから、本件定数配分規定は違憲であるとした上で、②いわゆる事情判決の法理は、国会の機能不全を回避すべく選挙を無効とする選挙区を一部のものに限定するについても機能するものと解され、参議院の選挙についても、参議院の機能が不全とならない範囲で一部の選挙区の選挙を無効とすることは可能であるが、どの選挙区をどれだけ選定すべきかの規律はいまだ熟しているとはいえないので、本件選挙については、全ての選挙区の選挙につき違法を宣言するのが相当である旨を述べるものである。
 山本裁判官の反対意見は、(ア)両議院の議員の選出において公平な選挙は憲法上必須の要請であり、国民主権の原理に沿った平等な選挙権の行使の確保のため、国政選挙の選挙区や定数の定め方について、投票価値の平等は他に優先する唯一かつ絶対的な基準として真っ先に守られるべきもので、どの選挙区でも投票の価値を比較すれば1.0となるのを原則とすべきであり、人口の急激な移動や技術的理由などの事情によっても許容されるのは2割程度の較差にとどまり、それ以上の投票価値の較差が生ずる選挙制度は両議院ともに法の下の平等に反し違憲かつ無効であると解される旨、(イ)上記のように当該選挙を違憲かつ無効とすべき場合に、①無効とされた選挙で選出された議員により構成された議院が既に行った議決等の効力については、判決前の議決等は当然に有効に存続するし、判決後の議決等も後記②のとおり有効に行うことができ、②無効とされた選挙で選出された議員の身分の取扱いについては、参議院の場合、全選挙区が訴訟の対象とされているときは、当該選挙において議員一人当たりの有権者数が全国平均値の0.8を下回る選挙区から選出された議員はその身分を失うと解すべきであるが、それ以外の選挙区から選出された議員及び前回選挙で改選された半数の議員の身分は継続するので、参議院はその機能を停止せずに活動することができ、いずれも国政に混乱は生じない旨などを述べるものである。

 

【当事者】

平成26年(行ツ)第155号上告人・同第156号被上告人(原審原告)
山  口  邦  明  (X1)
(ほか6名)
上記原審原告ら(森徹を除く)訴訟代理人弁護士
森        徹
上記原審原告ら(國部徹を除く)訴訟代理人弁護士
國  部     徹
上記原審原告ら(三竿径彦を除く)訴訟代理人弁護士
三  竿  径  彦
上記原審原告ら(山口邦明を除く)訴訟代理人弁護士
山  口  邦  明
上記原審原告ら(野々山哲郎を除く)訴訟代理人弁護士
野 々 山   哲  郎
上記原審原告ら(竹村眞史を除く)訴訟代理人弁護士
竹  村  眞  史
上記原審原告ら(中久木邦宏を除く)訴訟代理人弁護士
中 久 木  邦  宏
上記原審原告ら訴訟代理人弁護士

菅  原  直  美
永  島  賢  也
内  山  紗  世

平成26年(行ツ)第155号被上告人・同第156号上告人(原審被告)

東京都選挙管理委員会 (Y1)

同代表者委員長 尾  﨑  正  一

平成26年(行ツ)第155号被上告人・同第156号上告人(原審被告)

神奈川県選挙管理委員会 (Y2)

同代表者委員長 山  田  吉 三 郎

上記原審被告ら指定代理人

都  築  政  則
田  口  治  美
伊  藤  清  隆
横  山  真  通
田  中  直  樹
陶  山  敦  司
大  西  勝  滋
鈴  木  秀  孝
髙  橋  理  恵
稲  玉     祐
新  保  裕  子
中  島   伸 一 郎
下  宮  浩  幸
吉  田  一  作

原審被告東京都選挙管理委員会指定代理人

谷  口  淳  二
星  野  亮  子

原審被告神奈川県選挙管理委員会指定代理人

中  村   佐 知 子
高  橋  卓  也

 

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