◇SH0309◇最一小判 平成27年2月19日 株主総会決議取消請求事件(櫻井龍子裁判長)

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 本件は、Y社の発行済株式の総数3000株のうち2000株をAと2分の1ずつの持分割合で準共有しているXが、Y社の株主総会決議には、決議の方法等に法令違反があると主張して、Y社に対し、会社法831条1項1号に基づき、上記株主総会決議の取消しを求めた事案である。上記の2000株(本件準共有株式)について、会社法106条本文の規定に基づく権利を行使する者の指定およびY社に対する通知はされていなかったが、Y社がAによる本件準共有株式全部についての議決権の行使(本件議決権行使)に同意したことから、同条ただし書により、本件議決権行使が適法なものとなるか否かが争われた。
 原々審は、本件議決権行使にY社が同意しているから、会社法106条ただし書により本件議決権行使は適法なものとなるとし、Xの請求を棄却した。これに対し、原審は、会社法106条ただし書について、同条本文の規定に基づく指定および通知の手続を欠いていても、共有者間において権利の行使に関する協議が行われ、意思統一が図られている場合に限って、株式会社の同意を要件に当該権利の行使を認めたものである旨を判示して、本件は上記の場合に当たらないから、本件議決権行使は不適法であるとし、原々審判決を取り消し、Xの請求を認容した。
 本判決は、判決要旨1、2のとおり判示して、本件議決権行使は、本件準共有株式の管理に関する行為として、各共有者の持分の価格に従いその過半数で決せられるべきであるが、本件議決権行使は、持分の価格に従いその過半数で決せられているとはいえないから、Y社がこれに同意しても、適法となるものではないとし、これと結論を同じくする原審の判断は是認することができるとして、Y社の上告を棄却した。

 平成17年法律第87号による改正前の商法(旧商法)203条2項は「株式ガ数人ノ共有ニ属スルトキハ共有者ハ株主ノ権利ヲ行使スベキ者一人ヲ定ムルコトヲ要ス」と規定し、これは、会社の事務処理の便宜のために設けられた規定と解されていた(大隅健一郎=今井宏『会社法論上巻〔第三版〕』(有斐閣、1991)334頁等。なお、同項には、会社に対する通知を要する旨の文言はないが、会社に対して通知を要することは当然のことと解されていた)。そして、旧商法203条2項による指定および会社に対する通知を欠く株式の共有者につき会社の側から議決権の行使を認めることの可否について、最三小判平11・12・14集民195号715頁は、共有者全員が共同して行使する場合を除き、会社の側から議決権の行使を認めることは許されない旨を判示していた。
 その後、会社法が制定され、旧商法203条2項を引き継ぐ内容の会社法106条が定められたが、同条には、旧商法203条2項には存在しなかった、「ただし、株式会社が当該権利を行使することに同意した場合は、この限りでない。」とのただし書が設けられた。しかし、会社法の立法過程において、上記ただし書を設ける趣旨が公に議論された様子がうかがえないこともあって、学説においてその理解は分かれている。
 学説は、まず、会社法106条ただし書と上記平成11年最判との関係に関し、(1)会社法106条ただし書は、平成11年最判の法理を否定ないし変更する趣旨で設けられたものと解する説(相澤哲ほか編『論点解説 新・会社法――千問の道標』(商事法務、2006)492頁、江頭憲治郎=中村直人編『論点体系・会社法(1) 総則、株式会社Ⅰ』(第一法規、2012)268頁〔江頭憲治郎〕、酒巻俊雄=龍田節編『逐条解説会社法(2) 株式・1』(中央経済社、2008)42頁〔森淳二朗〕、山下友信編『会社法コンメンタール3 株式(1)』(商事法務、2013)38頁〔上村達男〕、伊藤靖史ほか『事例で考える会社法』(有斐閣、2011)125頁〔田中亘〕等)と、(2)会社法106条ただし書は、平成11年最判の法理を確認する趣旨で設けられたものと解する説(大野正道「非公開会社と準組合法理」江頭憲治郎先生還暦記念『企業法の理論(上)』(商事法務、2007)63頁、奥島孝康ほか編『新基本法コンメンタール 会社法1』(日本評論社、2010)189頁〔鳥山恭一〕等)とに分かれている。
 また、会社法106条ただし書の株式会社の同意によりいかなる権利行使が適法なものとなるのかについて述べる学説としては、(それぞれの説が念頭に置く事案が異なり、または明確でないところもあるが、あえて便宜的に分類すると、)①共有者の1人による準共有株式全部についての権利行使であっても、会社の同意により常に適法な権利行使となるとする説(相澤ほか編・前掲書492頁〈同文献の記述は必ずしも明確ではないが、そのような説と理解するのが一般的なようである。〉、山下編・前掲書38頁〈ただし、共有株式が整数によって割り切れる場合には、共有者は当然に分割的に株式を保有すると解する立場を採り、会社法106条は、割り切れない1株式の共有が問題になっている場合の規定であるとする。〉)、②共有者全員による権利行使の場合に、会社の同意により適法な権利行使となるとする説(大野・前掲書63頁、奥島ほか編・前掲書189頁〈ただし、管理行為に当たる株主総会における議決権行使に関しては、各自の持分の価格に応じた議決権の行使を会社が認めることもできるとする。〉)、③当該権利の行使を、民法の共有に関する規定に応じて(変更ないし処分行為・管理行為・保存行為に)分類し、株式会社の同意により適法となるかどうかを個別に判断する説(青竹正一『新会社法〔第3版〕』(信山社出版、2010)126頁、江頭憲治郎=門口正人編『会社法大系(3) 機関・計算等』(青林書院、2008)65頁〔岡正晶〕、稲葉威雄『会社法の解明』(中央経済社、2010)332頁等)、④株式会社の同意により、各共有者がその持分に応じた数の議決権を各自行使することができるとする説(伊藤ほか・前掲書110頁〔田中亘〕、石山卓磨ほか『ハイブリッド会社法』(法律文化社、2012)31頁〔河内隆史〕等)がある。
 このように、会社法106条ただし書の意義について、学説は様々に分かれていたところ、本判決は、まず、同条本文は、準共有株式についての権利の行使の方法について民法の共有に関する規定に対する「特別の定め」(同法264条ただし書)を設けたものと解した上で、会社法106条ただし書は、株式会社が当該権利の行使に同意をした場合には、権利の行使の方法に関する特別の定めである同条本文の規定の適用が排除されることを定めたものと解されるとし、判決要旨1のとおり判示した。
 これは、「ただし、……この限りでない」という文言の意味(立法技術上、ある規定の一部又は全部を打ち消し、その適用除外を定める場合に用いられる語であり、本来、本文の規定を打ち消すだけの消極的なものにとどまるので、本文の規定を打ち消した上でさらに積極的な意味をもたせたい場合には、明示的な規定を置くべきものとされている〈法制執務研究会編『ワークブック法制執務〔新訂〕』(ぎょうせい、2007)187頁、687頁、713頁〉。)を基礎として会社法106条ただし書を解釈し、同条本文が同条ただし書により打ち消された後の規律については、同条本文と準共有に関する民法264条との関係から、準共有株式についての権利の行使は民法の共有に関する規定に従っている必要があると解したものと考えられる。新設規定の立法趣旨が明確とはいえない状況の下で、旧法下における特定の判例と新設規定との関係を一般的に論ずることは必ずしも適当ではなく、規定の文言から客観的に読み取れる意味を基礎として解釈したものと考えられる。実質的に見ても、権利を行使する者として指定・通知されていない者による権利行使が、会社の同意さえあれば適法になるとするのは、会社側の恣意的選択を許すこととなる点で問題があると思われるし、他方、あえて「ただし書」が設けられた新法(会社法)下において、常に共有者全員による行使でなければならないとする積極的な理由も見いだし難いように思われる。本判決の立場は、問題となる権利の内容に応じて、当該権利の行使が、準共有株式の保存行為(民法252条ただし書)、処分もしくは変更行為(同法251条)、または管理行為(同法252条本文)のいずれの場合に該当するのか、また、該当する場合における所定の要件を満たすのかによって、当該権利の行使が株式会社の同意により適法となるか否かを判断するものであり、上記学説中③の説と基本的な考え方を同じくするものといえよう。

 本件で問題となる権利は議決権であるため、本判決は続いて、準共有株式についての議決権の行使の性質について判断している。
 学説の多くは、準共有株式についての議決権の行使の性質を管理行為と見ているとされるが(青竹正一『閉鎖会社紛争の新展開』(信山社出版、2001)74頁)、議決権行使一般につき、会社の法律関係を変動させるものとして、全員の一致がある場合にのみなし得るとする説(大杉謙一「判批」ジュリ1214号(2001)89頁)もあり、さらに、議案により異なるとする説(例えば合併、事業譲渡、解散等の議案に対する議決権行使は処分行為ないし変更行為に当たるとするなど。前記のの説のほか、山田泰彦「株式の共同相続による商法203条2項の権利行使者の指定方法と『特段の事情』」早法75巻3号(2000)381頁、片木晴彦「判批」判評466号(1997)63頁、永井和之「商法203条2項の意義」戸田修三先生古稀記念『戦後株式会社法改正の動向』(青林書院、1993)219頁、泉田栄一「株式・持分の相続と権利行使者の通知」新報109巻9・10号(2003)113頁、木内宜彦「判批」判評326号(1986)56頁等)もある。
 本判決は、判決要旨2のとおり判示し、本件議決権行使の対象となった議案は、①取締役の選任、②代表取締役の選任並びに③本店の所在地を変更する旨の定款の変更および本店の移転であり、これらが可決されることにより直ちに本件準共有株式が処分され、またはその内容が変更されるなどの特段の事情は認められないから、本件議決権行使は、本件準共有株式の管理に関する行為として、各共有者の持分の価格に従いその過半数で決せられるものとした。
 議決権は、株主が株主総会に出席してその決議に加わる権利(大隅健一郎ほか『新会社法概説〔第2版〕』(有斐閣、2010)153頁、河本一郎『現代会社法〔新訂第9版〕』(商事法務、2004)399頁等)であるから、本来、その行使自体が直接、株式の処分や株式の内容の変更をもたらすものではないといえる。また、議決権の行使が株式の保存行為となる場合も通常は想定し難い。このようなことから、本判決は、準共有株式についての議決権の行使は、原則として管理行為に当たるとしたものと考えられる。本判決は、判示の特段の事情のある場合には、準共有株式についての議決権の行使が例外的に管理行為に当たらないものとしているが、これは、議案の内容、準共有株式の数等によっては、当該準共有株式についての議決権の行使が、株式の処分やその内容の変更に直結する行為といえる場合もあり得ることを考慮したものと思われる(ただし、保存行為に当たる場合をあえて排除するものではないであろう。)。上記の特段の事情があるといえる具体的な場合については、今後の事例の集積が待たれる。

 本判決は、学説において種々理解が分かれていた会社法106条ただし書について最高裁が初めてその意義を明らかにするとともに、準共有株式の議決権行使の決定方法についても判断を示したものであり、理論的にも実務的にも、重要な意義を有すると考えられる。
 

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