◇SH0321◇銀行員30年、弁護士20年 第29回「弁護士と弁護士会は意識改革が必要」 浜中善彦(2015/05/22)

法学教育そのほか未分類

銀行員30年、弁護士20年

第29回 弁護士と弁護士会は意識改革が必要

弁護士 浜 中 善 彦

 平成13年6月の司法制度改革審議会意見書では、21世紀の我が国社会において期待される法曹の役割として、法曹がいわば「国民の社会生活上の医師」として、各人のおかれた具体的生活状況ないしニーズに即した法的サービスを提供することが必要であるとされている。
 過払金訴訟については、資格のない事務職員任せであるなどの批判もあるが、一般の市民に弁護士を身近な存在として意識させたというプラス面もある。しかし、それ以外の分野では、まだまだ弁護士は敷居の高い存在であって、社会生活上の医師などとは到底いえない状況である。

 弁護士の職域拡大については、弁護士会も業務改善委員会等を通じて積極的活動を行っているが、真に弁護士が国民の社会生活上の医師となるためには、弁護士と弁護士会の意識改革が欠かせない課題であると思う。
 弁護士事務所は、その多くが、裁判所の近隣や裁判所への交通の便のいい位置にある。これは、利用者便宜のためというより、弁護士の仕事上の便宜を優先したことの象徴ではないかというのが私の率直な感想である。八百屋にしろ魚屋にしろ、仕入れに便利だからといって、卸売市場の近隣に店を出すなどはしない。いずれも、利用者である消費者に近い場所に店を構えている。弁護士は、利用者よりも、裁判所を顧客であるかのごとく考えてきたのではないか。弁護士は、まるで裁判所の御用達のようである。

 弁護士が社会生活上の医師であるためには、利用者の近くにもっと法律事務所がなければならないと思う。そして、問題があったら気楽に相談できる存在である必要がある。近隣でのトラブルや職場でのトラブル等、社会生活上さまざまなトラブルが発生しているが、こういった場合、国民には弁護士に相談する発想がない。そういう意味では利用者教育も必要かもしれないが、まず、弁護士自身の意識改革がぜひとも必要であると思う。

 弁護士会も同様である。弁護士自治についての弁護士会の認識には大いに疑問がある。たとえば、刑事司法に裁判員制度が導入され、株式会社に社外取締役の義務付けがなされようかという時代に、弁護士自治の名の下に、外部の第三者を排除した制度を維持しようとすることが正当化されるであろうか。
 弁護士自治は国家権力の介入を排除するというのが本来の趣旨であり、利用者である国民の意見を排除するのが目的ではないはずであるが、現状では、結果としてそういう運用になっているように思われる。

 これまで、弁護士は訴訟のときに相談するものという一般市民の認識を、困ったときの相談相手として認識してもらうためには、弁護士と弁護士会の意識改革が求められる。それと同時に、弁護士は身近な相談相手であるということを国民一般に理解してもらう必要がある。それでなくとも法律相談の依頼者は、誰にも話したくない悩みを持っている場合が多いのであるから、弁護士がもっと身近な存在であって、街の個人開業医のような存在である必要があると思う。弁護士が増えることで濫訴の弊害が懸念されるなどの心配よりも、増員によって、文字通り国民の社会生活上の医師としての役割を果たせるようにすべきであると考える。

以上

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