◇SH0189◇企業法務よしなしごと―ある企業法務人の蹣跚52 平田政和(2015/01/20)

そのほか法務組織運営、法務業界

(第52号)

企業法務よしなしごと

・・・ある企業法務人の蹣跚(まんさん)・・・

 

平 田 政 和

 

Ⅳ.Seniorのために・・・将来を見据えよう(その15)

【社外発表と「恩返し」】

 

 企業法務を永年担当しているといろいろな事件や案件にぶつかり、多くの経験を積む。複雑な案件やすぐには答が出ないような困難な問題については、国内外の学者の研究成果や判例を徹底的に調べ、当該分野の専門家の見解を徴するなどして、理論的な裏付けを得、対応策を案出したり問題解決に当たったりする。

 また、自らが興味を覚えた問題や関心のある論点について研究し何らかの成果を得ることもある。

 このような研究成果についてどうするか。

 企業法務担当者の中には若い頃から自らの時間を削り研究し、その成果を取り纏め、発表されている方も多い。私など実務を行うについて随分と参考にさせて戴いた。

 実務に関連して調べた結果や関心を持った問題についての研究成果を社外に発表することは、自らの知識の整理にもなり、発表した内容についての別の見方からの意見を聞く機会にもなり、私が感謝しているように同じような問題意識を持つ企業法務担当者の役に立つ、という意味で望ましいことだと思っている。

 企業の秘密事項については触れない、漏らさない、ということは当然の前提である。

 それでは私自身はどうしていたか。若かりし頃の顧問弁護士の「調べた結果を中途半端な形で止めておかずに、きっちりと纏めて、徹底して自分のものにしなさい。これを積み重ねなさい。」との教え(第18号)を忘れたことはなかったが、仕事の忙しさにかまけて実行できなかった。

 また、どのような理由でそう考えたのか、「55歳を超える年になるまでは、講習会の講師の依頼は受けるが、書き物を社外に発表することはしない。」と決めていた。

 顧問弁護士の忠告を実行できていなかった言い訳ではなかったが、今思い返してみると、多分「後に残る」形で意見を発表することに、会社との関係で多少の躊躇いがあったからだろう。

 結果的には、社外発表については以下のような経緯を辿り、幾つかの論文を発表した。

 55歳を過ぎた頃に、お誘いがあり大阪企業法務研究会のメンバーになった。同研究会は大学教授・弁護士・企業法務責任者の11名で構成され、開催は毎月1回(第1回は1983年2月に開催され、直近の2014年12月まで328回開催されている)メンバーが交代で、年1回ずつその研究成果を発表し、発表内容は論文の形に取り纏め判例タイムズ誌に掲載する、というものであった。

 私自身、専門誌に発表できるほどの内容のある報告ができるか、内心忸怩たるものがあったが、なんとか頑張って、メンバーであった10年強の間に、10回強の報告をした。その内の幾つかは、研究会の代表幹事だった尊敬する企業法務の先輩の懇切丁寧な指導を得て、研究会での質疑応答や有益な示唆も加え、論文の形に取り纏め発表した。

 60歳に近づいた頃から「恩返し」ということを考え始めた。この時点までの私の企業法務人生を振り返ってみると、有形無形を問わず広い範囲の数多くの先輩や友人の力をお借りしてきたことがよく分かった。

 今こそ、企業法務を目指す後進に、私が先輩や友人から頂戴した恩を返す時ではないか、と思った。

 思いがけないご縁により、全国紙上でコンプライアンスや内部統制を中心に、5年間に亘り合計30回のコラムを発表したり、非常勤講師として大学法学部や大学院で企業法務や監査について、若い人たちに教え、彼らの答案を採点する機会も得た。

 企業法務そのものずばり、という観点では、東京商工会議所のビジネス実務法務1級検定試験の創設に関与し、その後、問題作成委員や採点委員として何年間か後輩のビジネス実務法務の実力養成のお役に立つことができたのは嬉しいことだった。(委員の職を離れて数年が経過するまでは、この事実は伏せていたが、そのことを知らない後輩の何人かが、この検定試験を受験したり、試験に合格したりしたことを報告してくれていた。)

 また、法務部の責任者を経験した監査役として、法務部と監査役の有効な連携の必要性を取り上げ、「法務部門の機能強化と監査役」(月刊監査役No.571、572)として纏めた。

 この抜き刷りをお届けした先輩の大学教授からは「卒業論文」、友人の弁護士からは「立派な遺言書」とのコメントを頂戴した。

 いずれにしても若かりし頃に戴いた顧問弁護士の教えに沿ったものではなかったが、結果的にはオーライかな、また先輩や仲間からいろいろな形で頂戴した「恩」につき、その一部でも「お返しできた、『恩返し』ができた」のでないかと思っている。

(以上)

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