◇SH0413◇銀行員30年、弁護士20年 第56回「時間を守る」 浜中善彦(2015/09/01)

法学教育そのほか未分類

銀行員30年、弁護士20年

第56回 時間を守る

弁護士 浜 中 善 彦

 

 約束を守るということは、ビジネスの世界に限らず、最低限のマナーである。とりわけ、時間を守るということは、そのなかでも基本である。銀行員に限らずサラリーマンの場合は就業規則によって、出勤時間、終業時間が決められているが、弁護士の場合、事務所ごとに一応始業時間は決まっているものの、出勤時間については各弁護士任せである。サラリーマンの場合、多くの会社では、毎朝始業の前に朝礼を行って、その日の予定等伝達しているところが多い。私の銀行員時代の経験では、支店では毎日朝礼があったが、本部勤務のときは朝礼がなかった。朝礼はなかったが、弁護士と違って、全員が始業時間の前に出勤することは当たり前である。

 

 それに比べると、弁護士は特に定時に出勤する必要がないため、時間に対する観念がサラリーマンに比べると希薄なように思われる。とりわけ、最近は顧問先からの照会もほとんどメールである。メールだけではなく、書面作成もすべてパソコン(ワープロ)なので、裁判所へ提出する書面も自宅で作成して事務所へメールすれば済む。したがって、クライアントと会う場合以外、事務所へ出る必要はない。その意味では、弁護士は、文字通り自由業である。そのためか、弁護士は、案外時間にルーズな人が多いように思われるのは残念なことである。
 法律では、遅延利息、時効など、時間と関係する決まりが多い。また、弁護士は、時間をお金に換える仕事だといってもいい。タイムチャージで報酬を請求しておきながら、約束の時間を違える、時間に遅れるなどあってはならない。時間を守らないということは、相手の時間を無駄にしているということである。

 

 スケジュールは、時間に糊代をとって決めるべきである。時間を守り、約束を違えないようにするためには、計画を立てる段階で、あまりタイトなスケジュールを組まないようにする必要がある。打ち合わせや会議は長引くこともあるからそれも計算に入れたうえで、移動時間も考慮するなどして、ある程度余裕のある計画にしておく必要がある。

 

 しかし、それでも予定外の事情で遅れる場合も出てくる。その場合は、必ず、事前に電話連絡をする習慣にしておかなければならない。たとえ5分でも遅れるような場合は、必ず事前に連絡すべきである。約束を守ることは当たり前であるが、その中でも、とりわけ時間を守るということは大事である。時間を守るということは、信頼の元である。

 

 それ以外にも、仕事には、一定のルールがある。訊ねられたことには迅速に答える義務がある。法律問題の質問や依頼を受けながら、漫然と1週間も放置したり、長期にわたる訴訟事件で、途中経過の報告もしないなどは許されることではない。しかし、以外とその点についての弁護士の認識は甘いように思われる。弁護士会の月刊誌「自由と正義」では、ほとんど毎月のように、依頼を受けた事件を放置して懲戒を受けている弁護士の名前が掲載されている。そのことにより、控訴期間を過ぎたり、時効が完成したりというケースも少なくない。これらの場合は、依頼者の重大な権利を侵害しているのであり、ことの重大性を十分に認識する必要がある。
 また、会社との打合せ時間を、弁護士の都合で6時開始にしたりするケースもあるようであるが、6時以降は懇親会とか飲み会などの時間帯であり、業務時間外である。このような時間設定は弁護士の手前勝手であり、きわめて非常識というべきである。

以上

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