◇SH0520◇公取委、「独占禁止法審査手続に関する指針」の公表について 村上雅哉(2016/01/07)

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公取委、「独占禁止法審査手続に関する指針」の公表について

岩田合同法律事務所

弁護士 村 上 雅 哉

 

 公正取引委員会(以下「公取委」という。)は、平成27年12月25日、行政調査手続の標準的な実施手順や留意事項等を明確化した「独占禁止法審査手続に関する指針」を公表した(以下「本指針」という。)。平成27年6月30日に公表された指針(案)がパブリックコメントに付され、その結果を踏まえて策定・公表されたものであり、適用開始は平成28年1月4日からとされている。

 本指針の策定は、平成26年2月から内閣府において開催された「独占禁止法審査手続についての懇談会」が同年12月24日付報告書において行った提言を受けて行われた。行政調査手続の標準的な実施手順や留意事項等を明確化して公表することにより、行政調査手続の適正性・透明性を確保し、円滑な調査の実施に資するために策定されたものであり、立入検査、供述聴取及び報告命令に関する指針が示されている。なお、公取委による独占禁止法違反被疑事件の調査手続には、行政調査手続(行政処分を行うことを念頭に置いた調査手続)と犯則調査手続(刑事処分を求めて告発を行うことを念頭に置いた調査手続)の2つがあるところ、公取委では、独占禁止法違反被疑事件の処理は、基本的に行政調査手続によることを念頭に置いており、実際の事件の大部分が行政調査手続により処理されている。そこで、かかる現状を踏まえ、本指針も行政調査手続について、その適正化を図るものとして定められている。

 今後、事業者が、公取委による行政調査手続を受ける場合には、自らの防御権の確保のため、本指針の内容を理解したうえでの対応が必要不可欠であるといえよう。

 ところで、「独占禁止法審査手続についての懇談会」では、立入検査において弁護士の立会いや提出物件の謄写を事業者に対して認めること、供述聴取において弁護士の立会いや供述聴取過程の録音・録画を聴取対象者に対して認めること等が議論されたものの、最終的に公表された報告書においてはこれらは権利として認めるべきではないものとされ、これを受けて、本指針でも、いずれも事業者側の防御権として認められなかった。調査を受ける事業者から相談を受けた経験のある筆者としては、事業者に十分な防御権が確保されていないのではないかとの実感があり、実務の運用状況によっては、行政調査手続の適正性・公正性のより一層の確保に向けて本指針の見直しが必要となることもあり得るものと思料する次第である。

 特に、本指針によっても、任意の供述聴取と出頭命令に基づく審尋の違いが聴取対象者にとって理解しやすいものとなっているのか、疑問がある。より具体的にいえば、出頭命令による審尋の場合、聴取対象者は、供述聴取に応ずべき行政上の義務を負うが、審尋の結果を毎回必ず記録に残してもらうことができる。これに対し、任意の供述聴取の場合は、聴取対象者は、供述聴取に応じる義務は負わないが、供述聴取の結果は、審査官等が必要と認めた場合にのみ記録化され、毎回必ず調書を作成してもらえるわけではない。本指針によっても、任意の供述聴取と出頭命令の取扱いの差異についてまで聴取対象者に説明がなされるわけではない。形式的には任意の供述聴取であっても、多くの聴取対象者にとっては、義務があるものと思って渋々応諾することや、「この表現で書いてくれと言っても書いてくれない」という不満が出ることもありえよう。本指針の策定の契機となった「独占禁止法審査手続についての懇談会」においても、出席した委員から同様の指摘がなされている。

 以上を踏まえ、今後の行政調査手続の運用を注意深く見守っていく必要があるものと考えられる。

 そして、実際の行政調査手続において本指針に反する可能性がある場合には直ちに公取委への苦情の申立て等の措置を講じることを念頭に置いておく必要があろう(かかる苦情申立ての手続についても本指針の公表と同日に公表されている。)。

※ 公取委ホームページ
  http://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/h27/dec/151225_1.files/bessi4.pdf

 

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