◇SH1519◇シンガポール:シンガポールにおけるICO(Initial Coin Offering)規制(その2) 松本岳人(2017/11/29)

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シンガポールにおけるICO(Initial Coin Offering)規制(その2)

~シンガポール金融管理局によるデジタルトークン募集ガイドの公表~

長島・大野・常松法律事務所

弁護士 松 本 岳 人

 

 商事法務ポータルアジア法務情報に2017年10月18日付けで掲載された拙稿「SH1441 シンガポール:シンガポールにおけるICO(Initial Coin Offering)規制」に引き続き、本稿ではシンガポールにおけるICO規制のその後の動向について紹介することとしたい。

 

 シンガポール金融管理局(Monetary Authority of Singapore。以下「MAS」という。)は、2017年11月14日付けでデジタルトークン募集ガイド(A GUIDE TO DEGITAL TOKEN OFFERING。以下「MASガイド」という。)を公表し、シンガポールにおけるICO規制の内容がより明確に示されることとなった。かかる内容のうち、シンガポールの証券先物法(Securities and Futures Act)の規制対象となる金融商品(Capital Market Products)を構成するデジタルトークンの範囲については、2017年8月1日付けで示されたMASの見解を基本的には踏襲するものと考えられる。それに加えて、MASガイドでは、デジタルトークンが証券先物法の適用対象となる有価証券や集団投資スキーム持分に該当する場合の開示規制やシンガポールの金融アドバイザー法(Financial Advisors Act)を含む金融業規制との適用関係についても示している。開示規制の具体例を挙げると、デジタルトークンであっても、目論見書の作成といった証券先物法に基づく規制が原則適用されることが示されている一方で、500万シンガポールドル未満の少額の募集の場合、50人未満の私募の場合、機関投資家限定の場合及び適格投資家向けの一定の条件下での募集の場合といった開示規制の適用除外規定も同様に適用されることが示されている。

 また、デジタルトークンの発行者に対して発行募集のためのプラットフォームを提供する者や、デジタルトークンについての投資の助言を行う者及びデジタルトークンの売買取引のためのプラットフォームを提供する者などは、証券先物法や金融アドバイザー法に基づく許認可を受ける必要のある事業者に該当し、それぞれ業態に応じた業規制が適用される場合があることも示されている。さらに、証券先物法や金融アドバイザー法が域外適用される可能性にも言及している。すなわち、シンガポール国外で、デジタルトークンの発行又は売買のためのプラットフォームを提供している場合やデジタルトークンについての投資の助言を行う場合であっても、シンガポールの投資家を対象としてサービスを提供するなど、合理的に予見可能でかつ実質的な影響がシンガポールに及ぶときにはシンガポールの証券先物法や金融アドバイザー法に基づく規制が及ぶ可能性が指摘されている。

 その他にも、8月1日付けのMASの見解では明確には示されていなかったマネーロンダリング規制及びテロリズム資金供与規制との関係についても、MASガイドではデジタルトークンの発行の場面でもこれらの規制が適用される可能性があることが示されている。具体的には、疑わしい取引の報告義務やテロリストと指定された者との取引禁止といった規制が課される場合があることが明らかにされている。

 さらに、MASガイドではケーススタディとして、商業用不動産開発の資金調達としてデジタルトークンを発行する場合やFin Tech企業に投資するための投資ファンド組成のためにデジタルトークンを発行する場合など、合計6つの参考事例を紹介し、MASがどのようにICOを規制しようとしているかを具体的に示している。ただし、これらの参考事例は網羅的なものではなく、MASガイドにおいては実際にデジタルトークンの発行に関与しようとする場合には個別に法律の専門家にアドバイスを求めることが推奨されている。

 

 シンガポールにおいてICO規制の域外適用の可能性が示されていることもあり、今後、日本企業がICOに関与する場合であっても、日本国内の金融規制だけでなく、シンガポールを含む各国の規制対応にも留意が必要となろう。

以上

 

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