法のかたち-所有と不法行為
第十一話 自然と所有の法-伝統社会、環境・生態系
法学博士 (東北大学)
平 井 進
7 自然-生活システムと法作用システム
今まで述べてきたように、今日の国際的な問題である貧困、社会的不平等、自然(環境・生態系)の破壊は、規範を内在しない法制、すなわち、(絶対性等の)公理演繹的な土地所有権の制度に少からずよっているといってよい。[1]最近、国連が採択した地球規模の「持続可能な開発目標」[2]における世界的な貧困・環境・資源・不平等などの課題はこのことと関係している。
先進国社会が求めること(木材・食品等)→途上国がそれらの産品を供給する農林システムへの変更→現地の伝統的社会の崩壊と自然の破壊という連関において、社会が求めることを抑えることは難しいとしても、法がなすべきことは、途上国の社会に対して公平であって、自然をできるだけ損なわないようにする知恵である。
所有に関する法がすべての時代と社会において普遍的たりうるかどうかは、その法が当事者において規範的に作用しているかどうかによる。第十話において、所有に関する法的関係を不法行為と同じカテゴリーの法作用(請求権)によって規範的に構成することを述べたが、おそらくそのような考え方による以外に、今まで述べてきた課題に基本的に対応することは難しいと思われる。
[1] 従来、国際機関が開発途上国に現地慣習を無視した絶対的所有権による土地法制を進めてきている問題について、次を参照。金子由芳「アジアの問題状況-土地法改革にみる持続的開発論の略奪-」『持続可能な社会への転換期における法と方角』法社会学, 81 (2015)。
[2] 2015年9月25日に国連総会で採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」。