SH3786 Book Review:会社法、事業承継・M&A法に関する珠玉の論文集~関西法律特許事務所開設五十五周年記念論文集「民事特別法の諸問題-第六巻-」 荻野敦史(2021/10/13)

取引法務倒産・事業再生

Book Review

会社法、事業承継・M&A法に関する珠玉の論文集
関西法律特許事務所開設五十五周年記念論文集
「民事特別法の諸問題-第六巻-」

 

 会社法、事業承継・M&A法に関する珠玉の論文がちりばめられた書籍を紹介させていただきたい。関西法律特許事務所開設五十五周年記念論文集「民事特別法の諸問題-第六巻-」である。

 本書は、会社法、倒産法、事業承継・M&A法、経済法・知的財産法、債権法・不法行為法、民事訴訟法、社会保障法、貿易法について、各界で活躍する学者、実務家37名から寄稿された1000頁を超える大論文集である。第一線で活躍するこれほど多くの学者、実務家が、かくも素晴らしい論文を寄稿されていることだけでも特筆すべきことであり、これまで関西法律特許事務所、とりわけ同事務所を牽引してこられた今中利昭先生が実務界、学界の双方に大きな足跡を残してこられたことの象徴といえよう。なかでも、「会社法」編、「事業承継・M&A法」編は、15名の論者による400頁を超える大作であり、今中先生の論考を含め、その内容も、実務上は問題になることがあるものの、一般的には触れられることの少ない論点について掘り下げて論じられたものが多く、本書の中心をなすものと言っても過言ではない。ここでは、会社法、事業承継・M&A法に関連する論考について、簡単に紹介させていただくこととしたい(以下、敬称略)。

 

 今中利昭「積極的監査役論」は、監査の本質、監査制度の本質に鋭く迫り、指名委員会等設置会社、監査等委員会設置会社に比して監査役(会)設置会社が最適の監査機関であることを指摘している。60年近くにわたり実務の第一線でご活躍され、多くの企業、監査の在り方を間近で見てこられた今中先生は、監査制度を実効的に機能させるために、自己監査の徹底的排除、選任過程における第三者性の獲得、監査対象における無制限性の保障、監査担当者の監査行為の実効性確保の保障、三様監査の充実等の重要性を説かれている。その上で、監査役が、過去の適法性のみならず、現在・未来における会社業務の執行全般に対して独任権を行使することを可能とする、積極的監査役論の実行が最適であると結論付けている。会社のガバナンス体制を検討する際のみならず、今後の会社法の在り方を検討するにあたっても、熟読すべき論文である。

 渡邊顯「コーポレートガバナンス・コードと会社役員のリスク管理」は、時代とともに変化し増大し続けるリスク管理の在り方について、コーポレートガバナンス・コードを羅針盤とするリスク管理体制を構築、実行することによって、企業家精神を発揮するリスクテイクが可能になるとして、これからの会社役員のあるべき姿を説いており、現代の会社役員及びこれに関与する弁護士にとって必読である。

 北村雅史「会社分割における債権者保護と信義則」は、会社分割に際して二重の公告を行うことにより債権者異議手続を行った場合に、信義則によって債権者の保護が図られる場面は限定的であることを指摘するものであり、会社分割に対する契約相手方(債権者)の契約締結時点における自衛手段の重要性を示唆するものである。

 吉村一男「利益相反構造のあるM&Aにおける公正性担保措置の検討」は、利益相反構造のあるM&Aの本質的な問題を指摘した上で、独立した特別委員会の設置、フェアネス・オピニオンの取得、マーケット・チェック、情報開示の充実、という4つの公正性担保措置について検討しており、この種の事件に関与する弁護士にとり有用である。

 金田充広「新株予約権行使に基づく株式発行の瑕疵」は、新株予約権の発行に差止事由がある場合に、その行使に基づく株式交付を差し止めることができるかについて、理論的な検討が行われている。近時、買収防衛策の差止めに関する裁判例が蓄積してきているが、本稿により改めてこの論点を整理することができる。

 片山信弘「取締役の退職慰労金について」は、株主総会決議がないことをもって退職慰労金の支払いを拒絶することの可否を検討するとともに、株主総会決議なく支給された退職慰労金の返還請求の可否、会社による退職慰労年金支給の一方的打切りの可否に関する裁判例を分析しており、取締役の退職慰労金の問題点全般の検討に際して有益である。

 今川嘉文「中小企業における株式の管理・承継に関する一考察」は、わが国において増加の一途をたどる中小企業の事業承継に関して、名義株式、相続による株式の準共有、経営承継円滑化法等の課題と対策についてまとめられている。特に名義株式の問題は、事業承継M&Aの際に問題となることが多く、様々な対策を知っておく意義は大きい。

 仲卓真「株式が準共有されている場合における議決権の不統一行使の法的構成」は、相続等により株式が準共有されている場合において、その株式の準共有者が議決権を不統一的に行使する必要がある場合に、それを可能とする法的構成を提供してくれる。

 阿多博文「振替株式の準共有持分に対する強制執行について」は、相続人の債権者による被相続人名義の振替株式に係る当該相続人の準共有持分に対する強制執行に関する最高裁判例について、明快かつ平易な解説を加えている。

 山下眞弘「相続法改正が中小企業の事業承継に及ぼす影響」は、事業承継に影響を与える相続法の改正のみならず、会社法、労働法、信託法、租税法までを幅広く、実務を意識して検討した上で、様々な事業承継の手法とその問題点について示している。

 本健一「会社法309条4項の『総株主』の意義」は、同条項の文言にかかわらず、同条項における議決権制限の趣旨から、同条項の「総株主」に議決権を制限される株主は含まれないと解しており、改めて条文解釈の深さを学ばされる。

 清原泰司「株式担保の法理」は、株式の略式質について、剰余金の配当金は物上代位権の目的物であるとしてその行使のために差押えを求める圧倒的多数説に対して、剰余金の配当を法定果実と考えることによって差押えを不要と整理し、略式質の有用性を訴えている。

 井敦子「コーポレートガバナンス・コードの新しい地平――教育ガバナンスへの展開」は、私立大学における不祥事案が頻発したことを受けて策定された「私立大学版ガバナンス・コード」の意義に触れ、教育現場におけるガバナンス改革の重要性を説いている。

 このほか、高橋英治「日独比較株式会社法史」は、日本とドイツの株式会社法について、成立期、展開期、現代化期に分け、その制定過程等を含めて詳細に検討し、大川済植「企業のディスクロージャーに関する一考察」は、商業登記制度や会社法上の開示制度について、韓国法との比較検討を中心に考察するものであり、比較法の重要性について改めて気付かされる。

 学術的にも実務的にも興味深い問題点でありながら、深く考えられた論考をなかなか見つけることができない多くの問題点が一冊にまとめられている書籍は多くない。本書はまさにそのような書籍であり、会社法、事業承継・M&A法に携わる学者、実務家であれば、ぜひ手元に置いておかれることをお勧めしたい。

[評者]TMI総合法律事務所 弁護士 荻野 敦史

 

タイトルとURLをコピーしました