インドネシア:新ネガティブリスト「生産系列にある」ディストリビューター?
長島・大野・常松法律事務所
弁護士 坂 下 大
2016年5月18日付でインドネシアの新たなネガティブリスト(大統領令2016年44号。以下「新ネガティブリスト」という。)が施行されている(新ネガティブリストの概要については、福井信雄弁護士による前稿「インドネシア:ネガティブリストの改正」も参照されたい。)。新ネガティブリストでは多くの業種に対する外資規制が緩和されたところであるが、その業種の一つであるディストリビューター(卸売業)に係る外資規制の内容に関して以下のような議論が生じている。
1. ディストリビューターに係る新ネガティブリストの規定
ディストリビューター(卸売業)は、2014年の旧ネガティブリスト(大統領令2014年39号)の施行前までは100%外資に開放されていた事業分野であるが、当該改正により外資出資比率の上限が33%とされたところである。新ネガティブリストでは、当該外資出資比率の上限が緩和され、具体的には「生産系列にない」ディストリビューターについて外資出資比率の上限を67%とする旨の規定が設けられている(裏を返すと、「生産系列にある」ディストリビューターは外資100%可ということになる。)。かかる「生産系列にある/ない」という概念は新ネガティブリストで新たに導入されたものであるが、その意義や詳細に関して特段の明文規定は設けられていない。
2. BKPMによる説明
ところで、新ネガティブリストの施行に際しては、2016年6月2日にジャカルタにて投資調整庁(BKPM)による現地日系企業向けの説明会が行われ、さらにその後、当該改正に関するBKPMへの追加質問が受け付けられ、これに対するBKPMの回答が2016年6月30日付でなされている。これらの質問及び回答の内容は、JICA/BKPM Japan Desk Officeのウェブサイトにおいて公開されている。
(1) 「生産系列にある」ディストリビューターとは
上記BKPMの説明会において、BKPMの担当者より、「生産系列にある」とは、インドネシアにおいて製造業を営む会社と一定の資本関係があることをいい、例えば、当該製造業を営む会社の株主が、新たに設立されるディストリビューターを営む会社の株主になる場合や、子会社(当該製造業を営む会社でなくともよい。)を通じて間接的に当該ディストリビューターを営む会社に出資する場合等がこれにあたる旨の説明がなされた。かかる説明を前提とすると、端的には、既に製造業でインドネシアに進出している外資が、直接又は間接の出資により別途ディストリビューターを営む会社を設立する場合にはこれを外資100%とすることができ(但し下記(2)の議論も参照。)、それ以外の場合におけるディストリビューターについては外資出資比率の上限が67%となるということになる。もっとも、具体的にどの程度の出資割合であれば上記資本関係が認められるのか等、その具体的な要件については現在のところ必ずしも明らかではない。
(2) 「生産系列にある」ディストリビューターによる輸入の可否
さらに、上記BKPMの説明会では、「生産系列にある」ディストリビューターは、輸入ライセンス(API)を取得して輸入品を流通させることも可能である旨の説明がなされたが、その後の追加質問に対する文書による回答では、これとは正反対に、「生産系列にある」ディストリビューターが流通させることができるものは、系列にあるインドネシアの製造会社が国内で製造した製品のみであり、従って当該ディストリビューターが輸入ライセンスを取得することはない旨の回答がなされている。若干の混乱がみられるが、後者の見解を前提とすると、外資100%が認められる「生産系列にある」ディストリビューターは、すでにインドネシアで製造業を営む会社が、その卸売機能をいわば切り出して(あるいは追加して)別会社で行う場合に限定されるということになる。
3. 当面の対応
上記の解釈は新ネガティブリストの明文規定から一義的に導かれるものでは必ずしもなく、また、資本関係の要件をはじめ詳細については未だ明らかではない点もあるため、今後の運用を注視し、必要に応じ個別に当局に確認する等の対応が必要となろう。