メキシコにおける合弁会社の法人形態の選択:SAとSAPI
西村あさひ法律事務所
弁護士 清 水 恵
1 はじめに
日本からのメキシコ投資にあたり、現地に会社を設立する場合には、日本の株式会社に相当するSociedad Anónima(SA)を利用するのが一般的であるものの、他のパートナーと組んで合弁形態でメキシコに進出する場合には、Sociedad Anónima Promotora de Inversión(投資促進会社:SAPI)と呼ばれる会社形態が利用される場合もある。[1]
SAPIは、メキシコにおけるプライベート・エクイティ投資を促進することを主たる目的として、2006年6月施行のメキシコ証券市場法(Ley del Mercado de Valores)の改正により、新たに導入された会社形態である。SAPIは、改正当時の商事会社一般法下でのSAと比べ、少数株主の権利を強化し、定款自治の認められる範囲を広げ、株主間合意の法的安定性を高めたものであったため、それ以降、合弁事業やプライベイト・エクイティ投資のケースで広く利用されている。
SAPIは、証券市場法を根拠法としているものの、非公開会社であり、また将来的に株式を上場させる必要もない。また、法的には、SAの一種であるため、証券市場法で特段の定めがない事項については、SAとして、商事会社一般法(Ley General de Sociedades Mercantiles)の適用も受ける。
もっとも、2014年6月の商事会社一般法の改正により、SAについても、SAPIと類似の規律が適用されるようになった。そのため、現在では、SAとSAPIの違いは、以前と比べると、かなり小さくなったといえる。本稿では、SAPIとSAの相違点を中心に論じつつ、メキシコにおいて合弁会社を設立する場合に押さえておくべきと考えられる主要な会社法関連規制についても触れることとしたい。
2 株主間合意
現行法下(すなわち、商事会社一般法の2014年改正後)においては、SAの場合も、SAPIの場合も、以下の事項に関して株主間で合意することが、法律上、正面から認められている。なお、これらの株主間合意は、会社に対しては強制力を有しないため、例えば、③の議決権行使に関する取り決めに反して議決権が行使されたとしても会社との関係では有効であり、株主間契約の違反の問題を生じるにすぎない。
- ① 株式の売買に関する取り決め(例:先買権、コール・オプション、プット・オプション、tag along権、drag along権利)
- ② 株主の新株引受権[2]の処分や行使に関する取り決め(例:新株予約権の譲渡や放棄)
- ③ 株主総会における議決権行使に関する取り決め(例:議決権拘束合意)
- ④ 株式の公募に際して株式を売却することに関する取り決め
上記に加えて、SAPIの場合は、株主間契約で、株主が会社と競業する事業を行わない義務(但し、禁止される対象事項や地理的範囲が限定されており、かつ、競業禁止期間は3年を超えてはならず、また競争法などの他の法令に基づく規制に服する。)を規定することが法律上認められている。
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