◇SH0857◇消費者庁、消費者契約法の一部を改正する法律(平成28年法律第61号)の一問一答 臼井幸治(2016/10/31)

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消費者庁、消費者契約法の一部を改正する法律(平成28年法律第61号)の一問一答

岩田合同法律事務所

弁護士 臼 井 幸 治

 

 平成28年10月20日、消費者庁は、消費者契約法の一部を改正する法律(平成28年法律第61号。以下「改正法」という。)に関する一問一答を作成の上、これを公表した。

 改正法の公布・施行の事実、及び、取消しの対象となる消費者契約の範囲の拡大に関する改正点の概要については、本年6月14日のトピックス解説において既に説明を行っているところであるが、改正法の施行により、消費者保護のより一層の確保が図られる一方で、改正法の運用が適切になされない場合、事業者の営業活動に萎縮的な効果を及ぼすことが懸念される。この点に関連して政府参考人からも、政府による周知の大切さが語られており、その方法として、非常に分かりやすい事例集やパンフレットの作成、逐条解説における工夫、説明会の開催等が指摘されていた[1]

 このように、まずは改正法が適切に運用されるための適切な解釈指針、事例解説等の周知の実施が待たれていたところ、今般公表された一問一答では、改正法の施行時期等の一般的な事項のみならず、改正法の要件の解釈、具体的な事例に対する解説等にまで触れられており、上記周知方法の一つが実施されたものと評価できる。

 もっとも、当該一問一答が、改正法が適切に運用されるための適切な解釈指針とまでいえるかについては疑問が残るところである。例えば、「過量な内容の消費者契約に当たるかどうかの判断が個別の事例によって異なるとすると、セールストークが難しくなるなど、事業者の営業活動に萎縮的な効果を及ぼすことはないのですか。」との問13の質問に対する回答内容は、「過量な内容の消費者契約に当たるかどうかの判断は、一般的・平均的な消費者を基準として、社会通念を基に規範的に行われることとなります。2. また、取消しが認められるのは、事業者が当該消費者契約の締結について勧誘をするに際し、当該消費者契約の目的物の分量等が当該消費者にとっての通常の分量等を著しく超えるものであることを知っていた場合に限られます。3. したがって、要件が明確であり、事業者の予測可能性は確保されていることから、事業者の営業活動に萎縮的な効果を及ぼすことはないと考えられます。」とされているところ、当該回答内容自体が抽象的な内容に終始しており、問いで投げかけられた懸念点を払拭するに足りる回答とはいえない。

 このように、一問一答には一定の意義があると評価できる一方で、改正法が適切に運用されるためには、例えば、過量な内容の消費者契約の取消しの「過量」の判断基準や、重要事項についての不実告知による取消しの「重要事項」の範囲の解釈等について、より分かりやすい事例集、逐条解説が待たれるところであり、また、今後の事例の蓄積についても注視していく必要がある。

なお、今般の改正は、従来から実務上問題点が具体的に指摘されていた取引関係を対象とする、比較的異論の少ない事項について行われた改正内容であり[2]、実務に与える影響は多大とまではいえないものと考えられるが、消費者を相手方とするビジネスを行う会社においては、改正法における改正内容について十分に周知を行い、疑問点については顧問弁護士等への照会を行っておくことが望ましい。

以上

 

 ご参考:改正法における改正内容
  1. ① 高齢者の判断能力の低下等につけ込んで、大量に商品を購入させる被害事案に対応するため、「過量な内容の契約の取消」についての規定が新設された(法4条4項)。
  2. ② 契約の目的物に関しない事項についての不実告知による被害事案に対応するため、「重要事項の範囲」が拡大された(法4条5項3号)。
  3. ③ 取消権を行使した消費者の返還義務を現存利益に制限する規定が新設された(法6条の2)。
  4. ④ 取消権の行使期間が6か月から1年に伸張された(法7条)。
  5. ⑤ 消費者の解除権を放棄させる条項を不当条項として無効とする規定が新設された(法8条の2)。
  6. ⑥ 消費者契約法10条について「消費者の不作為をもって当該消費者が新たな消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたものとみなす条項」が不当条項となるとする例示がなされる等の改正がなされた(法10条)。


[1]平成28年4月28日開催に係る第190回国会衆議院消費者問題に関する特別委員会における政府参考人(消費者庁審議官)井内正敏氏の発言。

[2]改正法によっても、消費者概念の拡大、情報提供義務の強化、適合性原則などの規定の新設、不当条項規制の拡充などはなされていない。

 

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