◇SH0920◇実学・企業法務(第9回) 齋藤憲道(2016/12/12)

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実学・企業法務(第9回)

第1章 企業の一生

同志社大学法学部

企業法務教育スーパーバイザー

齋 藤 憲 道

3. 外国における会社の設立

 会社の設立手続きは、国・地域及び会社の種類(外資か内資か、合弁か独資か、上場か非上場か、有限責任か無限責任か)等によって大きく異なる。

 従って、現地の会社設立に関する法手続きに精通した弁護士・行政機関等に依頼して、自社に最適な会社形態を選択することが必要である。

 各国・地域に、それぞれの多様な法規制・商慣行・社会常識が在るので、会社を設立して事業を開始するのに先立って、法規制・事業インフラを十分に調査し、それを踏まえたF/S(Feasibility Study=実現可能性調査)を行う必要がある。

 会社の機関設計及び事業スキームの検討を行う際に、次の点に着目すると、事業化後に生じる課題や、経営計画の実現可能性を予測しやすい。

〔着眼点〕

 ①会社の機関がどのように構成され、それぞれの権限と責任がどうなっているか。
  株主、取締役(会)、監査役(会)、会長、社長、執行役、会計責任者等

 ②会社がどのような手続きで設立されるか。政府が会社の設立・運営にどう関与するか。
  (ⅰ) どの時点で設立したと見なされるか(資本金払込時点か、登記時点か)

(注) 登記した時点で会社が設立したと見なされ、その後で資本金払込を行うプロセスをとる国は、行政規制が多く、行政機関の裁量の範囲が大きい例が多い(タイ、インド、中国、ベトナム等)

  (ⅱ) 会社の「目的」を、誰が、何のために、どれだけ細かく決めるか。

  (ⅲ) 会社の機関・運営に係る制度が定められた社会的な背景は何か(以下に例示)

  1. a. 国家制度
    資本主義か社会主義か共産主義か(不動産の所有権や使用権、事業への行政の関与等)
    自己責任か行政主導か(特許・免許・許可・認可等の規制の程度)
  2. b. 産業政策
    外資と国内企業が平等か、国内産業(国内企業・国営企業)優先か
       原材料の現地調達(義務付け)等に影響
    商品の販売先の制約(輸出奨励、国内販売規制等)
    製品(完成品、仕掛品、材料等)の輸出入規制
    技術導入の規制
  3. c. 金融政策
    外貨管理の程度(外貨の取得義務、企業への外貨割当等)、外国送金の自由度
    外国債権債務を相殺することの可否(企業グループ内のネッティングの可否)
    現地国内での資金調達の容易さ
  4. d. 労働政策
    労働の質の水準と労働力の流動性、労働組合のあり方、退職金制度等
  5. e. 税制
    法人税、各種の企業誘致優遇税制、付加価値税、移転価格税制等

 

4. 株式の上場 有価証券上場規程(東京証券取引所)(以下、本項で「規程」という。)の場合

  1. ① 上場の効果
  2.    金融商品取引所は、有価証券の売買又は金融商品等の市場デリバティブ取引のため上場しようとするときは、その取引所金融商品市場ごとにその旨を内閣総理大臣に届出なければならない(金融商品取引法121条)。
     上場の効果としては、a.資金調達の円滑化・多様化、b.企業の社会的信用力・知名度の向上、c.社内管理体制の充実・従業員の士気向上等が挙げられる。一方で、上場株式は不特定多数の投資者の投資対象物件になるため、決算発表・企業内容の適時適切な開示が求められる等、社会的責任が重くなる。
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  4. ② 上場審査 規程204条以下
  5.  (ⅰ) 形式基準 1部銘柄指定の場合(規程205条、210条)
    株主数2,200人以上、流通株式数が2万単位以上かつ上場株券等の数の35%以上、時価総額250億円以上、事業継続年数3年以上経過、最近2年間の財務諸表の監査報告書に公認会計士等の「無限定適正意見」又は「除外事項を付した限定付適正意見」が記載されていること等
  6.  (ⅱ) 実質基準(規程207条)
    企業の継続性・収益性、企業経営の健全性、企業のコーポレート・ガバナンス及び内部管理体制の有効性、企業内容等の開示の適正性、その他公益又は投資家保護の観点から取引所が必要と認める事項
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  8. ③ 上場手続き(作業プロセスのモデル)
    上場審査書類の提出→取引所から質問状→回答書提出→関係者面談→実査→経営幹部(監査役を含む)面談→取引所への社長説明→取引所内協議・決裁・承認連絡→マスコミ等対外公表
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  10. ④ 上場廃止基準(規程601条)
  11.  (ⅰ) 数値基準
    株主数、流通株式、売買高、時価総額、債務超過
  12.  (ⅱ) 数値以外の基準
    銀行取引の停止、破産手続き・再生手続き・更生手続き、事業活動の停止、不適当な合併等、支配株主との取引の健全性の毀損、有価証券報告書又は四半期報告書の提出遅延、虚偽記載又は不適正意見等、特設市場注意銘柄等、上場契約違反等、株式事務代行機関への委託を行わない場合、株式の譲渡制限、完全子会社化、反社会的勢力の関与等
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  14. ⑤ 適時開示制度の対象事項が発生した場合は、施行規則に従って、直ちに内容を開示(規程402条)
  15.   〔開示すべき情報の例〕
    株式を引き受ける者の募集等、募集・売出しのための需要状況調査の開始、資本金額の減少、株式無償割当・新株予約権無償割当、株式の分割・併合、合併、会社分割、事業の全部又は一部の譲渡又は譲受、業務上の提携又は提携の解消、固定資産の譲渡又は取得、事業の全部又は一部の休止又は廃止、新事業の開始、代表取締役又は代表執行役の移動、人員削減等の合理化、商号又は名称の変更、財務諸表等の監査証明等を行う公認会計士等の異動、災害起因の損害の発生等、訴訟の判決等、主要取引先との取引停止等、債権者による債務の免除等(規程402条、403条)
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