インドネシア:税関での模倣品対策制度の導入
長島・大野・常松法律事務所
弁護士 小 林 亜維子
1. 総論
税関に関する法律1995年第10号(法律2006年第17号によって改正)第64条1項及び2項の施行規則として、知的財産権侵害が疑われる製品(以下「模倣品」という。)の輸出入に関する政府規則2017年第20号(以下「本規則」という。)が、2017年8月2日に発効した。本規則は、模倣品の(ⅰ)留置(Detention)及び(ⅱ)関税領域からの移動を一時的に停止する措置(以下「停止措置」という。)(Suspension)を規定している。
2. 留置
(1) 登録制度
留置の対象となるのは、模倣品のうち商標権又は著作権を侵害している疑いのある製品に限られる。留置の制度を利用するためには、事前に、当該商標権及び著作権を税関総局に登録する必要がある。インドネシアにおいて有効に登録されている商標権及び著作権を保有しているインドネシア所在の法人は、以下の書類を提出することによって、税関総局への登録の申請を行うことができる。
- (a) 商標権又は著作権を保有していることを証する書類
- (b) 商標権が登録の対象である場合、真正品の特色に関する情報(例えば、商標、製品の詳細、製品名、製品の外観パッケージ、商流及びインドネシアにおける製品の値段)
- (c) 著作権が登録の対象である場合、科学、美術及び文学の世界の分野における著作物の形態若しくは詳細又はそれに関連する権利
- (d) 登録手続に際して生じうるいかなる結果についても責任を負うという権利保有者の宣誓供述書
税関総局は、申請書類を受領後30日以内に、登録申請を承認するかどうかを決定する。登録は、1年間有効であり、延長することも可能である。税関総局は、モニタリングや査定の結果、登録の有効期間中に登録承認を取消すことも認められている。本規則は、登録システムの具体的な申請、調査、承認、モニタリング及び査定の手続について、別途金融庁の規則で定めるものとしている。
(2) 模倣品を発見した場合の手続
税関総局の担当官は、登録されている商標権又は著作権を侵害している疑いのある製品を留置することができ、そのような製品を発見した場合には、権利保有者に対して、通知しなければならない。当該通知日から2日以内に、権利保有者は、停止措置の申立を行うかどうかを確認し、申立を行うとした場合は、申立を行う旨確認をした日から4日以内に、以下の手続きを行う必要がある。
- (ⅰ) 商事裁判所の長官に対して製品の停止措置の申立を行うために必要な手続
- (ⅱ) 停止措置実施のための経費を担保するため、1億ルピアの銀行保証又は保険会社による保証を税関総局の担当官への差入れ
- (ⅲ) 商事裁判所の長官に対する停止措置の申立て
3. 停止措置
(1) 停止措置の申立
停止措置の申立は、上記の税関総局の担当官からの通知に基づく場合に加え、権利保有者が自らの判断で行うことができる。後者の場合は、商標権及び著作権の権利保有者に限られず、その他の知的財産権の保有者も主体となることができる。商事裁判所の長官への申立の際には以下の書類が必要となる。
- (ⅰ) 知的財産権を侵害していることを示すに足りる証拠
- (ⅱ) 知的財産権を保有していることを示す書類
- (ⅲ) 模倣品に関連する包括的な情報
- (ⅳ) 保証金
裁判所は、申立日から2営業日以内に、当該申立を認容するかどうかを判断し、停止措置の命令を出した場合は、その日から1営業日以内に税関総局の担当官に通知をする。通知を受けた担当官は、(ⅰ)輸出入業者又は製品の所有者、(ⅱ)権利保有者、(ⅲ)知的財産権総局に対し、当該命令の実施について書面をもって通知をする。税関総局の担当官が裁判所から命令の通知を受領した後2日以内に、権利保有者は税関総局の担当官に対し、模倣品の検査の実施の申し入れを行わなければならず、検査は、税関総局の担当官、商事裁判所の代表者、知的財産権総局の代表者、輸出入業者若しくは模倣品の所有者又はその代理人の立ち会いの下、行われる。
税務総局の担当官は、命令の通知を受けた後最大10日間模倣品の移動停止の措置を採ることができ、権利保有者は、1回に限り、更に10日の延長の申立を商事裁判所の長官に行うことができる。
(2) 停止措置の終了
以下の事由が生じた場合に、税関総局の担当官は停止措置を終了させなければならない。
- (ⅰ) 停止措置の期間の満了
- (ⅱ) 裁判所による停止措置終了の命令の発行
- (ⅲ) 知的財産権に対して、法的措置(例えば、没収)が採られた場合又はその他の措置(例えば、私的和解)が採られた場合
停止措置が終了した場合、停止措置の実施に要する経費のために差し入れた保証金はその差額が返金され(足りない場合は、権利保有者が負担する。)、更に模倣品については以下の措置が採られる。
- (ⅰ) 輸出入に関する法律に基づく措置
- (ⅱ) 刑事事件となっている場合は、捜査官への引き渡し
- (ⅲ) 権利保有者が訴訟を提起している又は差押えを申し立てている場合は、裁判所執行官への引き渡し
- (ⅳ) 裁判外紛争解決に基づく措置
なお、商業目的でない製品については停止措置の対象とならず、具体的には、乗客、乗務員、越境する個人及び郵便サービスの積送品については、停止措置の対象外とされている。また、インドネシア国外へ運搬される予定の模倣品も停止措置の対象外である。
インドネシアでは年々模倣品が増加していることもあり、本制度の今後の運用が期待される。