冒頭規定の意義
―典型契約論―
契約法体系化の試み(5)
みずほ証券 法務部
浅 場 達 也
Ⅱ リスクの高低による体系化
(3) リスクの高低に基づく4つの分類
契約各則において、リスクがどのような構造を持つかは、表4「本稿での分類」を基本とし表3「典型契約と関係法令等」の個別の関係法令等のリスクを含め、これに「合意による内容変更が難しい概念」を加えることによって、得られるだろう。
リスクの高低という尺度に基づけば、本稿の「体系化の試み」により、契約法の規律は、次の4つの項目に分類されることになる。
- ① 冒頭規定(リスク:高)
- ② 合意による内容変更が難しい概念(リスク:高)
- ③ よくわからない規定(リスク:高)
- ④ 任意規定(リスク:低)
ポイント(23) 体系化のための分類 「リスクの高低」という尺度に基づけば、契約法の規律は、次の4つの項目に分類される。 ①冒頭規定、②合意による内容変更が難しい概念、③よくわからない規定、④任意規定 |
①冒頭規定、③よくわからない規定、④任意規定については、既に(→1 Ⅳ3. (1))贈与を例として検討した。(ポイント(17) (18) (19) (20)を参照)
②の「合意による内容変更が難しい概念」が、本稿の体系化にとってなぜ重要かについて、これまで何回か言及してきたが、ここで簡単にまとめておこう。
例えば、「年利」や「元本」という概念は、その内容を合意により変更・修正することは難しい。そして仮に変更を加えた場合(特にその変更が金銭の借り手に不利に働く場合)、その変更が裁判所により「無効」とされる可能性が生ずる。その点で、これら概念は、任意規定よりもリスクが高い。また、これら概念が任意規定よりも高いリスクを持つことは、民法の法文上は必ずしも明確ではなく、個別の関係法令との検討によりそうした性質を析出するしかない。この点で「冒頭規定」や「よくわからない規定」より厄介であり、気づきにくい分、留意が必要である。
このように考えると、「合意による内容変更が難しい概念」は、まさに個別の契約規範(=当事者の合意による変更・排除が難しい規律)として明確に捉える必要があるといえよう。
ポイント(24) 合意による内容変更が難しい概念 「合意による内容変更が難しい概念」は、その内容に変更を加えた場合、裁判所により「無効」という制裁を課される可能性が生ずる。その意味で、「合意による内容変更が難しい概念」は、任意規定よりもリスクが高い契約規範であり、契約法体系化の試みにおいても、1つの重要な項目として位置付ける必要がある。 |
以上が本稿の「契約法体系化の試み」の考え方である。契約法の体系化の尺度としては、「リスクの高低」が最も適切であり、契約法教育においては、リスクの高い規範の修得が優先される必要がある。その意味で、本稿の「体系化」は、契約法教育の「優先順位」と一致している。特に法科大学院における契約法教育においては、時間的・労力的制約が大きく、契約法・契約規範全体をカバーすることは容易でないと考えられるが、制約が大きければ大きいほど、優先順位を更に明確化し、重要な順に素材を選択する必要性が増すことになるだろう[1]。
[1] 本稿では、体系化された契約法は、法科大学院で集中的に教えられるべきであると考えている。なぜなら、法科大学院における契約法教育は、学習者が、契約法についてまとまった時間を投入できる最後の機会だからである。また近時、法律専門家でない一般の人々に対する「法教育」が検討されているが、「法教育」の対象に契約法が含まれる場合には、(法科大学院における教育よりも更に時間的制約が厳しいと考えられるため、)より「リスクが高い」ものに絞り込んだ規律を素材とする必要が生ずるだろう。