中国:中国における個人情報保護制度(上)
長島・大野・常松法律事務所
弁護士 川 合 正 倫
中国では、民法総則の改正作業が進められている。報道によると、2016年11月に行われた第二回目の審議において、新たに概ね次の内容の個人情報保護に関する新規定が組み込まれたとのことである。
「自然人の個人情報は法に従い保護されなければならない。いかなる組織及び個人も、個人情報を不法に収集、利用、加工、伝達してはならず、個人情報を不法に提供、開示又は売却してはならない。」
また、2016年11月に採択されたネットワーク安全法や同月に公開された消費者権益保護実施条例のパブコメ版(以下、「消費者権益保護実施条例草案」という。)は、個人情報保護を強化する内容となっている。
中国では、これまでに個人情報に関する包括的法令である「個人情報保護法」の立法が提案されたことがあるが、立法化に至っておらず、個人情報保護に関しては、各個別法において規定が存在するのみで、包括的な法令は存在しない。他方で、通信技術の発展、インターネット取引の普及や権利意識の向上を受け、中国における個人情報保護の意識は急速に高まっており、近時は個人情報の侵害に関する摘発事案も増加している。民法総則における個人情報保護の一般的規定の追加もこれに対応するものであろう。
本稿では、中国における個人情報保護に関係する個別法における規定を整理するとともに、個人情報侵害の摘発状況を紹介したい。
個人情報保護に関する個別法令の規定
(1) 刑法:公民の個人情報侵害罪
「刑法」(改正七)(2009年2月施行)により追加され「刑法」(改正九)(2015年11月施行)により改正された「公民の個人情報侵害罪」において、個人情報の売却や提供について、刑事処罰を規定している。
- 第253条の1
- 1. 国の関係規定に違反し、他人に公民の個人情報を売却又は提供し、情状が重い者は、3年以下の有期懲役若しくは拘役に処し、罰金を併科又は単科する。情状が特に重い場合には、3年以上7年以下の有期懲役に処し、罰金を併科する。
- 2. 国の関係規定に違反し、職責の履行又はサービス提供の過程において取得した公民の個人情報を売却又はこれらを他人に提供する場合、前項の規定に従い処罰する。
- 3. 公民の個人情報を窃取その他の方法により不法に取得する場合、第1項の規定に従い処罰する。
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4. 単位が前三項の罪を犯した場合には、単位に罰金を科し、その直接に責任を負う主管者及びその他の直接責任者は各項の規定により処罰する。
*「単位」とは法人等の組織を指す
(2) 消費者権益保護法:消費者の個人情報保護
消費者権益保護法(2014年3月施行)によると、事業者が消費者の個人情報を取得する際には、情報の収集、使用の目的、方法及び範囲を明示し、消費者の同意を取得しなければない。また、事業者は個人情報の収集、使用に関する規定を公開しなければならない。さらに、事業者は収集した消費者の個人情報に関して秘密保持義務を負うこととされ、収集した消費者の個人情報について厳格に秘密を保持し、漏えい、売却し又は不法提供が禁止されている。これらの規定に違反した場合には、是正命令、警告、違法所得の没収、罰金、情状が重い場合には営業停止、営業許可証の取消の対象とされている。
消費者権益保護法実施条例草案は、個人情報の収集及び使用時に消費者に使用目的等を明示し同意を得たことに関する証明資料を最低3年間保持することを義務付けるなど、消費者の個人情報保護を強化する内容となっている。
なお、消費者権益保護法に基づき保護される個人情報は「事業者」が取得する「消費者」の情報に限定されている。消費者権益保護法においては「個人情報」の定義規定が存在しないが、消費者権益保護法実施条例草案においては「消費者の姓名、性別、職業、生年月日、身分証番号、住所、連絡先、収入及び財産状況、健康状況、消費状況、生物識別特徴等、単独又はその他の情報と結合して消費者が識別できる情報」とされている。
次稿に続く