◇SH0954◇シンガポール:「調停法」の制定に向けた動き 青木 大(2017/01/06)

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シンガポール:「調停法」の制定に向けた動き

長島・大野・常松法律事務所

弁護士 青 木   大

 

 国際的紛争解決のハブを目指すシンガポール政府は、2016年11月7日、「調停法(Mediation Act)」案を国会に提出している。本稿ではその主な内容を紹介する。

 

1. 訴訟手続の停止(第8条)

 当事者間で調停合意がある事項に関して裁判手続が提起された場合、当事者は裁判手続の停止を裁判所に求めることができる。

 

2. 秘密保持義務の明確化(第9条)

 当事者は調停手続の内容を第三者に開示してはならない。ただし、①全当事者の合意がある場合の開示、②公知の事実や不正によらず公となった事実の開示、③法的助言を得る目的での開示、④裁判所の命令や法令、規制当局の要請に基づく開示等の例外が規定されている。また、調停合意を執行する目的や、他の裁判・仲裁手続におけるディスカバリの要請がある場合等には、裁判所の許可を得れば開示が認められる。

 

3. 調停手続の内容の証拠排除(第10条、第11条)

 裁判所や仲裁廷の許可を得ない限り、調停手続の内容は当該裁判や仲裁において証拠として認められない。

 

4. 調停合意に執行力を付与(第12条)

 当事者が調停手続において合意に達した場合、原則としてその後8週間以内に、一方当事者は、他方当事者の合意を得た上で、裁判所に対して、当該調停合意を裁判所の命令として記録することを求めることができる。従前は調停合意に違反があった場合、当事者は調停合意違反を根拠に改めて裁判手続を提起する必要があったが、調停法の下においては、そのような手続を経ることなく調停合意に速やかに執行力が付与できることとなる。なお、裁判所が執行できないような内容が合意されている場合等には裁判所は命令として記録することを拒絶する場合がある。

 

5. 外国弁護士の代理を許容(第17条)

 クロスボーダーの契約に関する紛争で調停地がシンガポールとされている場合、外国弁護士も当該調停手続において代理人となることができる。

 

 なお、2014年11月5日に、国際調停の振興を目的としてシンガポール国際調停センター(SIMC)が設立されているが、そこにおいて成立した調停合意にも、調停法に基づき、シンガポール裁判所の命令と同様の執行力が与えられることになる。

 ただし、シンガポール裁判所の命令が国外で必ずしも執行できるとは限らない。この点、SIMCは調停と仲裁を組み合わせた「Arb-Med-Arb」という手法により、調停合意に仲裁判断の効力を持たせる制度を推奨しているが、シンガポール国外での執行が想定される場合には、この手法は調停法成立後も依然有用性を持つことになる。

 実務上、注意が必要なのは、調停合意が締結されている場合の裁判手続の停止の規定である。どのような調停手続をとるべきかが調停合意上曖昧な場合には、なかなか調停手続が進まず、しかも裁判も開始できない状況となり、不誠実な相手方に手続遅延の手段を与えることになりかねない可能性がある。なお、仲裁合意に調停前置規定が置かれている場合に、仲裁手続を停止しなければならないということは法定化されていないが、調停手続を履践しなかった場合には、仲裁廷の管轄が認められず、仲裁手続は無効となるおそれがありやはり注意が必要である(International Research Corp PLC v Lufthansa Systems Asia Pacific Pte Ltd and another, [2013] SGCA 55)。調停前置規定を置く場合には、その内容をできる限り具体化・明確化しておくことが望ましいように思われる。

 

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