◇SH0957◇キューバにおけるビジネス形態・外国投資の留意点 木島 彩(2017/01/10)

未分類

キューバにおけるビジネス形態・外国投資の留意点

西村あさひ法律事務所

弁護士 木 島   彩

 

1 はじめに

 「カリブ海の真珠」と讃えられるキューバは、2015年7月の米国との国交正常化以降、ノスタルジックな街並みや情熱的な音楽を求めて観光客が急増しているだけでなく、今後の経済発展や需要拡大を見据えて新規進出や取引の増大を狙う多くの外国企業の注目を集めている。

 2016年9月には安倍晋三首相がキューバを訪れ、ラウル・カストロ国家評議会議長と首脳会談を行い、両国間の経済関係を強化する方針で一致した。経済モデルの現代化の一環として外資導入を推進しているキューバでは、日本からの投資にも期待が高まっており、同年11月にはキューバのマルミエルカ外国貿易・投資相が来日し、東京で開催された第2回官民合同会議において、日本からの投資案件の早期実現に向けた協議が行われた。また、独立行政法人日本貿易保険(NEXI)は、同年11月にキューバ向け海外投資保険の引受けを一部再開し、日本企業のキューバ進出を後押しする流れとなっている。

 米国の対キューバ政策の方針転換の可能性やフィデル・カストロ前国家評議会議長の死去の影響など不透明な部分はあるものの、日本・キューバ間では引き続き経済関係の強化が図られるものと考えられる。このようなキューバ情勢を踏まえ、キューバにおけるビジネス形態及び外国投資の留意点について概説する。

 

2 キューバにおけるビジネス形態

 外国企業がキューバにおいてビジネスを行う方法としては、以下の形態がある。

形 態 概 要

① 支店の開設、
  代理人(店)の設置

  1. ➣ キューバ国内で法人を設立せずに、支店(Sucursal)の開設又は代理人/代理店(Agente)の設置により、キューバ企業と取引を行う。
  2. ➣ 現在、日本企業のキューバへの進出形態は支店開設が主流だが、支店では直接輸出入はできない(キューバ企業との契約主体にもなれない)。
  3. ➣ 支店開設条件は以下のとおり。
    1) 本社設立後5年間が経過していること
    2) 本社の払込資本金が5万ドル以上
    3) 直近3年間のキューバとの取引実績が年間50万ドル以上(一定の例外が認められている)

② 直接投資
  1) 全額外国資本企業
  2) 合弁企業

  1. ➣ 外国投資法(2014年法律第118号/Ley de la Inversión Extranjera)に基づきキューバ国内で法人を設立するもので、外資100%の「全額外国資本企業」(Empresa de Capital Totalmente Extranjero)と、外国企業とキューバ企業の合弁による「合弁企業」(Empresa Mixta)の2形態が認められている。
  2. ➣ 実際には「合弁企業」の形態による進出が大多数。現在、日本企業の直接投資による進出例はない。
  3. ➣ マリエル開発特区における直接投資については、税制優遇等の特例が定められている。

③ 国際経済提携契約

  1. ➣ 外国投資法に基づく外国投資の一形態だが、キューバ国内で法人を設立することなく、キューバ企業と外国企業が国際経済提携契約(Contrato de Asociación Económica Internacional)を締結し、業務提携/業務委託の形で事業を運営する。
  2. ➣ ホテル運営(直接投資は不可)、生産委託、建設業、農業、専門サービスの提供等。

④ 旅行代理店

  1. ➣ 旅行代理店については上記とは別の法令により代理店契約の締結又は支店の開設が認められている。

※  公共保健、教育サービス、国防等、一定の分野への外国投資は認められておらず、分野によって投資形態が制限されるものもある。

 

3 外国投資の留意点

(1) 投資案件リストに基づく投資

 キューバへの外国投資は自由に認められるものではなく、キューバの外国貿易投資省(MINCEX)が毎年公表する投資案件リストに従って申請し承認を得る必要がある。キューバ政府としてその時点で優先的な投資案件と考えるものが対象となり、最新の投資案件リスト(2016年-2017年版)には15部門395件のプロジェクトが掲載されている。MINCEXによれば、特に注目される分野は、インフラ開発、再生可能エネルギー、観光業(医療ツーリズムを含む)、運輸、銀行・金融活動等とのことである。

 なお、支店開設(上記2①)によりキューバと貿易取引を行う場合も、取引の相手方は公営の買付企業であり、まずは買付企業のサプライヤーリストに登録する必要があり、取引対象もキューバ政府が考える優先分野に限られる。また、本紙では詳述しないが、キューバへの外国投資や貿易取引を行う際には、米国のキューバ資産管理規則(CACR)や輸出管理規則(EAR)等による制裁の対象とならないかを確認する必要がある。

(2) 事業運営における留意点

  1. ➣ 労働制度
     キューバへの外国投資により事業を運営する場合、労働者については、原則として、キューバ政府が指定する公営人材会社を通して契約しなければならず、直接雇用が認められていない点に特色がある(支店開設の場合も同様である。)。ハイクラスの管理職を除いてキューバ人を雇用し、その雇用条件についても公営人材会社と交渉する必要がある。
  2. ➣ 投資家保護
     外国投資法では、外国投資には完全な法的保護と保証が与えられその収容はできないとの原則が示されているが、一方で、公共の用途又は社会的利益を理由に「しかるべき補償」を行った上で収容される場合がある旨が定められている(ただし、現状では、法令に従った事業運営を行う限り収容リスクは高くはないと考えられる。)。当該補償の額については、原則としてキューバ政府と投資家との合意により決定されるが、第三者による決定が必要な場合には、キューバ政府によって許可された国際的に権威ある組織が選定されることとされている。
  3. ➣ 紛争解決
     外国投資法では、出資者間の紛争は原則として設立文書の合意に従って解決されるが、一定の紛争(解散・清算、天然資源・公共サービスに関するもの等)や、外国投資間又は外国投資とキューバの法人若しくは自然人との間の紛争については県人民裁判所経済法廷で解決される旨定められている。ただし、キューバの法律に従った仲裁も認められており、実際にはキューバの国際商事仲裁法廷(Corte Cubana de Arbitraje Comercial Internacional)による仲裁が利用される場合が多いと考えられる。

以上

 

(注)本稿は法的助言を目的とするものではなく、個別の案件については当該案件の個別の状況に応じ、日本法又は現地弁護士の適切な助言を求めていただく必要があります。また、本稿記載の見解は執筆者の個人的見解であり、西村あさひ法律事務所又はそのクライアントの見解ではありません。

タイトルとURLをコピーしました