◇SH1650◇アルゼンチン進出時の選択肢――代理店・販売店を通じた商品展開 古梶順也(2018/02/19)

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アルゼンチン進出時の選択肢

代理店・販売店を通じた商品展開

西村あさひ法律事務所

弁護士 古 梶 順 也

 

1. はじめに

 2016年4月にデフォルト状態を解消して15年振りに国際金融市場に復帰し、マクリ政権による規制緩和・外資導入策の下で投資環境が整いつつあるアルゼンチンへの新規展開を検討している日本企業も少なくないと思われる。

 日本企業が、アルゼンチンに進出する際に採りうる方法[1]として、現地企業を代理店(Agent)や販売店(Distributor)として選定し、当該代理店・販売店を通じて自社の商品を展開することが考えられる。アルゼンチンにおいては、労働者保護の性格が強い労働法規制を背景とした高い労働コストが多くの企業を悩ませているが、当該方法であればこのような労働関係にまつわる問題を回避できるというメリットもある。

 アルゼンチンにおいて、代理店との代理店契約(Agency Agreements)及び販売店との販売店契約(Distribution Agreements)に関しては、2015年8月1日に発効した新しい民商法典において法的規制が定められ、当該規制の下で代理店・販売店が一定の範囲で保護されている。そこで、本稿においては、アルゼンチンの現地企業と代理店契約・販売店契約を締結する際に留意すべきアルゼンチン法における代理店・販売店を保護する規定について説明する。

 

2. 代理店・販売店を保護する規定[2]

(1) 代理店・販売店の違い

 代理店とは、本人(Principal)である商社・メーカー等のために、一定のテリトリー(地理的範囲)や客先に関して商品等の販売拡大活動を行う者をいう。代理店は、あくまで仲介業務のみを行い、客先に対する商品販売に関するリスク(例えば、客先に対する代金債権の回収リスク等)を負担することは基本的にない。

 他方、販売店とは、一定のテリトリーに関して、本人である商社・メーカー等から商品を自ら購入し、これを客先へ販売することを認められた者をいう。客先に対する商品販売に関するリスクは基本的に販売店が負う。

 両者は混同されがちではあるが、相手方が代理店であるか販売店であるかによって客先に対する商品販売に関するリスクを負う当事者が異なってくるし、また、後記のとおり、適用される規制の内容も異なってくる。そのため、代理店・販売店と契約を締結する際には、相手方が代理店なのか販売店なのか明確になるように契約書に規定しておくことが重要となる。

(2) Exclusivity

 代理店契約において、契約上別段の定めがない限り、契約上販売拡大活動を行うことを認められた事業分野、テリトリー、客先に関して代理店にExclusivityが与えられるものとされ、本人は、同一の事業分野、テリトリー、客先に関しての他の代理店を任命することができないものとされる。そのため、このような代理店に与えられるExclusivityを排除するためには、契約上その旨明記しなければならない点に留意が必要となる。

 販売店契約に関しても、代理店契約と同様に、契約上別段の定めがない限り、契約上定められたテリトリー(地理的範囲)に関して、販売店にExclusivityが与えられ、本人は、同一のテリトリーにおいて他の販売店を任命することができないものとされる。更に、販売店契約においては、契約上別段の定めがない限り、本人が製造し、又は販売している全ての商品(新しいモデルを含む。)が販売店契約の対象になるとされているため、販売店契約の対象となる商品を契約上しっかり明記することも重要となる。

(3) 契約期間

 代理店契約に関しては、契約期間の定めのある契約(有期契約)又は契約期間の定めのない契約(無期契約)のいずれの形で締結することも可能とされており、販売店契約とは異なり、契約期間に関する制限は存在しない。また、契約期間について特段の合意をしない場合には、当該契約は契約期間の定めのない契約とみなされる。

 これに対して、販売店契約に関しては、契約期間は、一定の例外を除き、4年を下回ってはならないものとされている。そのため、4年より短い契約期間を合意した場合又は契約期間を定めなかった場合であっても、契約期間は4年とみなされるため、販売店契約を締結するに際しては留意が必要である。

 なお、代理店契約・販売店契約のいずれにおいても、契約期間の定めがある場合に当該契約期間の満了後にもかかわらず、特段の延長合意なく取引関係を継続する場合は、これらの契約は契約期間の定めのない契約として継続するものとみなされる。

(4) 契約終了に関する制限

 代理店契約・販売店契約のいずれも、契約期間の定めのない契約である場合において、当事者が、当該契約を正当な理由[3]なく終了させるためには、契約関係が継続していた期間1年あたり1ヵ月間の事前の通知が必要とされている。例えば、契約関係が5年間継続していた場合、5ヵ月前の事前通知が必要となる[4]。当該事前通知期間が遵守されなかった場合、他方当事者は、当該事前通知がなされないことによって得ることができなかった利益の補償を請求することができるとされているため、契約期間の定めのない代理店契約・販売店契約を正当な理由なく終了させる際には留意が必要である。

 なお、契約期間の定めのある契約に関しては、契約期間の満了とともに終了し、このような事前の終了の通知は必要とされていない。

(5) 顧客拡大への貢献に対する追加報酬

 代理店契約においては、契約終了に関して代理店サイドに帰責性がなく、かつ、代理店が本人のビジネスの拡大(顧客拡大)に著しく貢献し、契約関係終了後においてもかかる貢献が本人に対して著しい利益を与え続けるような場合には、当該代理店は、契約終了時に当該貢献に対する追加の報酬を請求することができるとされている。この場合の報酬金額は、当事者間で合意できない場合には、過去5年間に代理店が受領した報酬額の平均額をベースとした1年間の報酬額から費用を差し引いた額を超えない範囲で裁判所により決定される。このように代理店契約の終了時に一定の金銭を支払わなければならない可能性があるため留意が必要となる。

 これに対して、販売店契約に関して、このような顧客拡大への貢献に対する追加報酬を定める明確な規定は存在しないが、同様の追加報酬を販売店契約について認めた裁判例も存在するため、留意が必要である。

 

3. おわりに

 本稿は、代理店契約・販売店契約に関する規制のうちあくまで重要なものに絞って説明しており、上記の他にも関連する規制は存在し、また、これらの規制に関するその時点の裁判所の解釈についても確認する必要もある。そのため、代理店契約・販売店契約を作成・締結する際には、適切な弁護士の助言を求めるのが望ましい。

以 上

 

  1. (注) 本稿は法的助言を目的とするものではなく、個別の案件については当該案件の個別の状況に応じ、日本法又は現地法弁護士の適切な助言を求めていただく必要がある。また、本稿記載の見解は執筆者の個人的見解であり、西村あさひ法律事務所又はそのクライアントの見解ではない。


[1] アルゼンチンに進出する際に採りうるその他の方法として、自ら現地に法人・支店を設立することや現地法人を買収することが考えられる。アルゼンチンの法人形態及び支店の概要については、◇SH1512◇アルゼンチン進出時の選択肢-新しい法人形態の登場(1) 古梶順也(2017/11/24)及び◇SH1526◇アルゼンチン進出時の選択肢-新しい法人形態の登場(2) 古梶順也(2017/12/04)を参照されたい。

[2] 本稿の作成にあたって、アルゼンチンの法律事務所であるMarval, O’Farrell & MairalのMaria Cecilia Mas弁護士からの協力を得たことをここに感謝申し上げる。もっとも、本稿の内容に関する責任は筆者のみにある。

[3] 民商法典において、例えば、いずれかの当事者が破産した場合や相手方当事者に重大又は反復した義務の不履行があった場合などが、代理店契約・販売店契約の解除事由(終了事由)として認められている。

[4] もっとも、過去の裁判例に照らすと、契約関係が長期にわたり継続しているため、当該事前通知期間に関する規定をそのまま適用すると不合理になるケース(例えば、契約関係が20年間継続している場合で事前通知期間が20ヵ月になる場合等)においては、裁判所が当該事前通知期間を限定する可能性がある。

 

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