◇SH0983◇日本企業のための国際仲裁対策(第22回) 関戸 麦(2017/01/26)

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日本企業のための国際仲裁対策(第22回)

森・濱田松本法律事務所

弁護士(日本及びニューヨーク州)

関 戸   麦

第22回 国際仲裁手続の序盤における留意点(16)-仲裁人の選任等その7

8. 仲裁人の忌避

(1) 忌避事由

 仲裁人の忌避とは、特定の仲裁人を排除するための手続である。当事者からの申立てにより行われる。

 その理由となるのは、基本的には第19回で述べた仲裁人としての資格要件を欠くことである。但し、具体的な忌避事由は、各国の仲裁法規や、各仲裁機関の仲裁規則によって定められているため、適用される法規又は規則を確認する必要がある。例えば、日本の仲裁法では、忌避事由は、①当事者の合意により定められた仲裁人の要件を具備しないことと、②仲裁人の公正性又は独立性を疑うに足る相当な理由があることである(18条1項)。

 なお、自らが指名した仲裁人については忌避事由が限定され、その選任後に認識した事項しか、忌避事由にできないとされている(日本の仲裁法18条2項、SIAC規則14.2項、HKIAC規則11.6項、JCAA規則31条2項がある)。自らが指名している以上、認識していた事項については忌避による保護を与える必要がない、ということである。

(2) 判断主体

 忌避が当事者から申立てられた場合、これに対する判断を行う主体は、基本的に、①仲裁廷、②仲裁機関、③仲裁地の裁判所のいずれかである。

 このいずれによるかは、当事者がこの点を仲裁合意等で定めていれば、その定めに従うというのが原則になる。日本の仲裁法19条1項は、この点を明示している。

 当事者が定めていなければ、適用される仲裁規則に従うことが通常と考えられるところ、ICC、SIAC、HKIAC及びJCAAのいずれにおいても、仲裁機関が判断をすると、規則において定められている(ICC規則14.3項、SIAC規則16.1項、HKIAC規則11.9項、JCAA規則31条5項)。

 加えて、日本の仲裁法は、日本の裁判所が判断する場合として、仲裁廷、仲裁機関等の裁判外の手続によって忌避の理由がないとの判断が行われた場合には、その忌避を申し立てた当事者は、日本の裁判所に対して忌避の申立てをすることができると定めている(19条4項)。これは、不公正な仲裁が行われる可能性をできる限り縮減するため、忌避を求める当事者の手続保障を手厚くし、裁判所の判断を求めることができるとしたものである[1]

 なお、この日本の裁判所に対する申立ては、当事者の合意によっても排除できない権利とされており(仲裁法19条1項但書参照)、換言すれば、この定めは強行規定である。 

(3) 手続

 ICC規則の場合、忌避の手続は、①忌避を申し立てる当事者がICCに対して、忌避事由となる事実及び状況を明示した文書を提出する、②忌避を申し立てられた当該仲裁人、他方当事者、他の仲裁人に意見を述べる機会が与えられる、③ICCが、忌避について判断をする、という流れである(14項)。なお、忌避の申立には期間制限があり、基本は当該仲裁人について選任又は選任確認の通知を受領してから30日以内であるが、忌避事由を当該受領後に認識した場合には、その認識した日から30日以内である(14.2項)。

 他の仲裁機関の規則においても、基本的な流れは同様であるが、期間制限の日数が、仲裁機関毎に若干異なっている。また、SIACの場合は、忌避を申し立てる当事者は、費用として8000シンガポールドルを別途SIACに支払うとされている(15.3項、Schedule of Fees)。

 忌避が認められた場合には、当該仲裁人は手続から排除され、新たな仲裁人が選任される。

 もっとも、忌避の申立てが、濫用的に行われることもあるため、忌避の申立てがあっても仲裁手続は停止せずに、進行することが可能とされている。日本の仲裁法は、この点を明示している(19条5項)。濫用的な忌避の申立てによって、仲裁手続が遅延しないようにとの配慮である。

 

9. 仲裁人の報酬体系

 仲裁人の報酬は、基本的に時間報酬制である。当該仲裁人の時間単価に、使用時間を乗じた額というのが基本となる。

 但し、HKIACにおいては、請求金額に応じた固定金額を仲裁人の報酬とする方法も、他の選択肢として認められている(10.1(b)項)。

 

10. 仲裁廷の補助者(Tribunal’s Secretary)

 実務では、仲裁廷の補助者(Tribunal’s Secretary)がしばしば利用される。この補助者となるのは、通常、仲裁人が所属する法律事務所の若手弁護士である。

 但し、仲裁廷の補助者の役割等については不透明な部分があり、仲裁廷の判断に実質的な影響を及ぼしているのではないかとの懸念が、指摘されることもある。

 この点ICCの事務局(Secretariat)は、仲裁廷の補助者の選任、義務及び費用について、2012年に文書(Note)を発行している[2]。これには、以下の内容が記載されている。

 第1に選任について、仲裁廷は補助者を選任することができるものの、補助者は仲裁人と同様の公正性と独立性を満たさなければならない。また、仲裁廷は選任に際しては、当事者双方に、補助者候補者の経歴書を提示の上、選任に異議を唱えるか尋ね、異議があった場合には選任を控えなければならない。

 第2に職務について、仲裁廷の補助者は、書類の整理、会議のアレンジ、ヒアリング、合議等への同席と記録等の事務的な作業を行うことはできるが、仲裁廷の判断に関わる役割を果たしてはならない。

 第3に費用について、仲裁廷の補助者の選任が、当事者に対する経済的負担を増加させることになってはならない。したがって、仲裁廷の補助者への報酬は、補助者が選任されない場合に仲裁廷に支払われる報酬の枠内から、支払われなければならない。

以 上



[1] 近藤昌昭ほか『仲裁法コメンタール』(商事法務、2003年)85頁から86頁

 

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