◇SH1194◇改正銀行法の成立とこれを踏まえた実務対応(2) 落合孝文 谷崎研一(2017/05/30)

未分類

改正銀行法の成立とこれを踏まえた実務対応(2)

 

渥美坂井法律事務所・外国法共同事業

弁護士  落 合 孝 文

弁護士  谷 崎 研 一

四 改正銀行法の解説と実務対応

 以下、上記三2.で述べた金融制度WGの報告に従って作成された改正銀行法について解説する。銀行代理業規制の明確化の部分については、今回の改正銀行法には盛り込まれていない。ただ、金融庁としては、銀行代理業規制に対して強い問題意識を有していることから、ガイドライン等において、何らかの明確化が図られることが期待されており、参議院金融財務委員会の附帯決議でもこの点が指摘されている。

1. 電子決済等代行業の定義

(1)定義規定

 「電子決済等代行業」とは、次に掲げる行為(第一号に規定する預金者による特定の者に対する定期的な支払を目的として行う同号に掲げる行為その他の利用者の保護に欠けるおそれが少ないと認められるものとして内閣府令で定める行為を除く。)のいずれかを行う営業をいう。

一 銀行に預金の口座を開設している預金者の委託(二以上の段階にわたる委託を含む。)を受けて、電子情報処理組織を使用する方法により、当該口座に係る資金を移動させる為替取引を行うことの当該銀行に対する指図(当該指図の内容のみを含む。)の伝達(当該指図の内容のみの伝達にあつては、内閣府令で定める方法によるものに限る。)を受け、これを当該銀行に対して伝達すること。

二 銀行に預金又は定期積金等の口座を開設している預金者等の委託(二以上の段階にわたる委託を含む。)を受けて、電子情報処理組織を使用する方法により、当該銀行から当該口座に係る情報を取得し、これを当該預金者等に提供すること(他の者を介する方法により提供すること及び当該情報を加工した情報を提供することを含む。)。(以上、改正銀行法第2条第17項)

(2)EUにおける決済サービス指令からの示唆

 EUにおいては、決済の安全性・安定性の向上や利用者保護等の観点から、決済サービス指令(PSD2:Revised Payment Services Directive)において、2種類の決済サービスを提供する機関が規定されている。このうちの1つがPISP(Payment Initiation Service Provider)であり、決済指図伝達サービス提供者と訳される。PISPは、利用者の依頼により、他の決済サービス提供者(銀行、電子マネー事業者、決済サービス事業者)に開設されている利用者の決済口座に係る決済指図を伝達するサービスを提供する事業者である。もう1つがAISP(Account Information Service Provider)であり、口座情報サービス提供者と訳される。AISPは、利用者が、他の決済サービス提供者(銀行、電子マネー事業者、決済サービス事業者)に開設されている決済口座の情報を統合して提供するサービスを提供する事業者である。PSD2の下では、決済指図伝達サービス提供者(PISP)については、免許制が採られ、財務要件として資本金5万ユーロ以上が要求されるのに対し、口座情報サービス提供者(AISP)については、登録制とされ、財務要件は課されていない。また、資産保全に関しては、決済指図伝達サービス提供者(PISP)、口座情報サービス提供者(AISP)ともに課せられておらず、また、いずれについても業務を行ううえで利用者に対して負いうる責任をカバーするための専門家保険への加入が義務づけられているが、対処すべきリスクの態様の違いに応じて、加入すべき保険の種類にも差異が設けられている。すなわち、前者については、無権限取引、決済の不実行、瑕疵ある実行、遅延の責任に対する保険が必要とされるのに対し、後者については、利用者口座情報への無権限・詐欺的なアクセスや口座情報の無権限・詐欺的な利用による責任に対する保険が必要とされている。

 改正銀行法において、第2条第17項第1号に規定された行為はPSD2における決済指図伝達サービス提供者(PISP)の業務に倣って規定され、同項第2号に規定された行為は口座情報サービス提供者(AISP)の業務に倣って規定されている。我が国では、第1号に規定されるサービスが銀行APIとの関連で議論される場合には、更新系・実行系、第2号に規定されるサービスが参照系・照会系と呼ばれることが多い。

 なお、改正銀行法においては、第1号電子決済等代行業者と第2号電子決済等代行業者に対する許認可という点に関しては、いずれも登録制とされているが、法律レベルで見た場合に、登録要件(財産的基礎など)においても差異は設けられておらず、両者に対する規制に差異を見つけることは難しい。もっとも、今後制定・公表される内閣府令のレベルでは、両者の取扱業務内容に応じた差異が設けられる可能性は十分にありうるところであり、事業者からは強く望まれているところである。

(3)電子決済等代行業者に該当するかが問題となる場合について

 家計簿アプリなどの開発業者が利用者からの委託を受けて、銀行のAPIと連携することにより、利用者の口座情報を取得するケースにおいて、当該家計簿アプリを提供する事業者が第2号の電子決済等代行業者に該当することは明確であるが、その他の既存のサービス、特にAPIを利用しないサービスについても、電子決済等代行業者への該当可能性が問題となっている。

 例えば、電気・ガス・水道などのユーティリティを提供する事業者が月次で利用料金を口座振替により収納を受けるケースにおいて、これらの事業者は、「当該口座に係る資金を移動させる為替取引を行うことの当該銀行に対する指図(中略)の伝達(中略)を受け、これを当該銀行に対して伝達する」(改正銀行法第2条第17項)行為を行っていることから、文言上は、電子決済等代行業者に該当するようにも思われる。しかし、同項柱書の括弧書きにおいて「定期的な支払を目的として行う同号に掲げる行為」については除外されていることから、月次で行われるこれらの口座振替による収納については電子決済等代行業に該当しないとされると思われる。

 また、リアルタイム口座振替などのサービスについては、APIを使用するものではなくても、文言上は、電子決済等代行業者に該当するように思われる。このようなサービスが電子決済等代行業者に含まれるということになると、少なくとも改正法施行当初は銀行APIの接続事業者より、リアルタイム口座振替サービス等のAPI以外の方法を利用した登録事業者が多くなると想定される。

 さらに、銀行が行っている既存のサービス、例えば、グローバルCMS(キャッシュ・マネージメント・サービス)などについても、銀行が利用者の委託を受けて、他の銀行の口座情報を取得するような行為については、そのサービス提供方法によっては、第2号電子決済等代行業者に該当する可能性はあるし、グループ会社間における国内外の送金取引が中核会社や持株会社の指図の下に行われる場合には、当該中核会社や持株会社についても、第1号電子決済等代行業者に該当する可能性を否定できない。

 APIの連鎖接続がなされた場合に、法文上は、「二以上の段階にわたる委託を含む」とされていることから、APIの連鎖接続先も電子決済等代行業者に該当しうるようにも解釈できるが、そこまでの広範な規制が及ぼされることになるのかについても注視する必要があろう。

 電子決済等代行業者の定義が明確でないと、そのような企業と取引を行う銀行としても、改正銀行法に従った契約を締結し、かつ、その内容を公表する必要があるのかが明確にならないという弊害も生じうる(改正銀行法第52条の61の10参照)。また、事業者によっては、利用者との直接のやりとりを行っておらず、もっぱら加盟店のためにサービスを行っている事業者がいることも踏まえると、自らの「顧客」ではない利用者に対して、どのように説明義務を果たすことになるのかという点も、政府令レベルで配慮されるべき点である。

 いずれにせよ、電子決済等代行業者の範囲の確定は、内閣府令の制定、場合によってはそのパブコメ回答を待つ必要があり、引き続き留意が必要である。

 

2. 電子決済等代行業者に係る登録制の導入

 改正銀行法においては、電子決済等代行業は、内閣総理大臣の登録を受けた者でなければ、営むことができないとされている(改正銀行法第52条の61の2)。

 その登録にあたっては、「法人であるときは、その役員(外国法人にあつては、外国の法令上これと同様に取り扱われている者及び日本における代表者を含む。以下この章において同じ。)の氏名」などが申請事項とされている。このように、電子決済等代行業者については、法人要件や国内拠点設置義務は課せられていない。

 また、登録拒否事由として、「電子決済等代行業を適正かつ確実に遂行するために必要と認められる内閣府令で定める基準に適合する財産的基礎を有しない者」「電子決済等代行業を適正かつ確実に遂行する体制の整備が行われていない者」などが規定されている(改正銀行法第52条の61の5)。財産的基礎の要件としてどのようなものが想定されているのかについては内閣府令を待つ必要があるが、金融制度WGの報告書にもあるように、「顧客から資金を預かることがないことに留意しつつ」とされていることからも、財務的基礎は債務超過でないなど、緩やかな要件が設定されることも想定される。また、「業務管理体制の整備」についても銀行の外部委託管理先ほどには厳格な基準は設けられない可能性がある。電子決済等代行業者と提携する銀行の立場からすれば、連携に際しての適格性審査、期中のモニタリングの重要性が増すように思われる。

 登録内容の変更届出についても規定がされているが、例えば大手のIT事業者や多角的なサービスを行っているFintech事業者が電子決済等代行業者として登録する場合を考えると、例えば事業内容の変更等の届出を頻繁に行わざるを得なくなると、業務上の負担が重くなるということも事業者によっては懸念を感じる点である。機動的に新たなサービスを作り出す、金融機関以外の事業者と銀行とが協同することによりイノベーションを創出するという銀行APIの目的を考えた場合に、このような届出等の点についても、登録事業者の負担を最小限とするように配慮された政府令が整備されることが望まれる。

以上

 

3. 銀行・電子決済等代行業者の業務に関する規律 (以下、連載第3回)

4. 監督権限の行使 (以下、連載第4回)

5. 認定電子決済等代行事業者協会に関する規定

6. 施行期日(以下、連載第5回)

7. 経過措置等

五 最後に

 

タイトルとURLをコピーしました