◇SH0686◇中国:中国の不正競争防止法の改正案 川合正倫 李 紅(2016/06/06)

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中国:中国の不正競争防止法の改正案

長島・大野・常松法律事務所

弁護士 川 合 正 倫

弁護士 李     紅

 

 2016年2月25日に、中国国務院より「中華人民共和国不正競争防止法(審議待ち改正案)」(以下「改正案」という)のパブコメ版が公布された。現行の「中華人民共和国不正競争防止法」(以下「現行不正競争防止法」という)は、1993年12月に施行されたもので、社会状況の変化に適応しないところがあることに加え、他の関連法規との整合性及び執行基準が一律でないという問題があった。改正案においては、現行不正競争防止法の整備及び明確化、新規規制対象行為の追加、罰則の変更、現行不正競争防止法における規制対象の削除等が図られている。パブリックコメントは既に締め切られているが、施行予定時期は明らかでない。本稿では、改正案の主なポイントについて紹介したい。

 

1.現行不正競争防止法の整備及び明確化

1.1  不正競争行為の関連条文の改正

 (1)   商業賄賂概念の明確化及び罰則の変更
 現行不正競争防止法には、商業賄賂の定義規定がなく、これまで商業賄賂の概念及び認定について、複数の規定間で異なる規定がなされていたため[1]、実務において執行機関の裁量の幅が大きいと指摘されていた。これに対し、改正案は、商業賄賂の概念を「事業者が取引先又は取引に影響を与えうる第三者に対し、経済利益を給付すること又はその給付を承諾することによって、事業者に取引機会又は競争優位を図らせることを指す」と明確化するとともに三つの典型的な商業賄賂行為を列挙した。

  1. ① 公共サービスにおいて又は公共サービスを利用して会社、部署又は個人の経済的利益を図ること
  2. ② 事業者間で契約書又は会計証憑に事実どおりに記載せず、経済的利益を給付すること
  3. ③ 取引に影響のある第三者に経済的利益を給付し又は当該給付を承諾し、他の事業者又は消費者の合法的権益を害すること

 改正案施行後は、法律レベルで商業賄賂の概念を明記することにより、統一的な実務運用が図られることが期待される。

 また、現行不正競争防止法では商業賄賂行為の罰則は、違法所得の没収及び1万元以上20万元以下の過料とされていたが、過料額が低く抑止力を欠くという指摘があった。改正案においては、違法所得の没収を削除した上で、違法経営額の10%から30%の過料とされている。違法所得はコストを差し引いた概念であるのに対し違法経営額は売上を基準とするものと考えられ、案件によっては罰則の強化が図られることになる。

 (2)   市場混同行為[2]の細分化
 改正案においては、不正競争行為として禁止される「市場混同行為」について改正商標法の内容及び実務上の行為類型を反映して、以下のとおり細分化している。

  1. ① 他人の著名な商業標識を無断に使用し又は他人の著名な商業標識と類似の商業標識を使用することにより、市場混同を招くこと
  2. ② 自らの商業標識を強調して使用し、他人の著名な商業標識と同一又は類似することにより、公衆を誤認させ、市場混同を招くこと
  3. ③ 他人の登録商標、未登録の著名商標を企業名称の商号として使用することにより、公衆を誤認させ、市場混同を招くこと
  4. ④ 著名企業及び企業集団の名称における商号又はその略称を、商標における文字標識又はドメインネームの主な部分として使用することにより、公衆を誤認させ、市場混同を招くこと

1.2  「不正競争」及び「事業者」の定義の整備

 「不正競争」の定義について、改正案は、現行不正競争防止法の内容に「消費者の合法権益を害する」という内容を追加するとともに[3]、「他人の合法権益を侵害し、市場秩序を乱すその他の不正競争行為」という包括的条項を設けた。また、「事業者」について、独占禁止法の規定と基本的に一致させるべく「商品の生産、経営又はサービスの提供に従事又は参与する自然人、法人及びその他の組織」と定義した。

1.3  工商行政管理部門の管轄権明確化

 現行不正競争防止法のもとでは、法執行機関が統一されておらず、業種によって執行機関が異なり、その認定基準や処罰の基準が一定していないと批判があるところであった。改正案は、現行の特定業種に関する管理当局の管轄権を留保しつつも、工商行政管理部門に不正競争行為に対する一般的管轄権を認めた。

 

2.不正競争行為類型の新規追加

 改正案は、新たに「相対的に優位な地位にある者」による以下の不公平な取引行為を規制対象に追加した。

  1. ① 正当な理由なく、取引先の取引対象を制限すること
  2. ② 正当な理由なく、取引先が指定した商品を購買するよう制限すること
  3. ③ 正当な理由なく、取引先の他の事業者との取引条件を制限すること
  4. ④ みだりに費用を受け取る又は取引先が他の経済利益を提供するよう不合理に要求すること
  5. ⑤ その他の不合理な取引条件を付加すること

 上記は、独占禁止法に定める市場支配的地位の濫用行為[4]と類似しているが、両者の適用範囲は異なる。国務院の説明によると、改正案の規制対象は、市場支配的地位を有しないが、取引において相対的に優位な地位を有する事業者による不公平取引であるとのことであり、この相対的に優位な地位は、主に取引の相手方が事業者に対し依存度があるかどうか、他の事業者への代替が困難であるかどうか等から判断される。市場支配的地位と比較して、相対的優位地位の認定ハードルは高くないと考えられるが、その認定基準が必ずしも明確ではないため、実務の蓄積がまたれる。

 

3.不正競争行為類型の削除

 改正案は、独占禁止法や価格法との関係と重複がみられた現行不正競争防止法6条(取引指定)、7条(行政権力の濫用)、11条(不当廉売)及び12条(抱合わせ販売)に定める競争制限行為を削除した。

 

4.まとめ

 不正競争に対する取締りがますます重要視されている現在、改正案の公布が注目を浴びている。日系企業にも関わりの多い法分野であるため、改正案のなりゆきを注意深く見守る必要がある。

以上

 


[1] 例えば、「商業賄賂行為の禁止に関する暫定規定」第2条第2項は、「本規定にいう商業賄賂とは、事業者が商品の販売又は調達のため金品又はその他の手段を用いて相手単位又は個人に賄賂を供与する行為をいう。」と定めている。また、「商業賄賂規制の専門作業における政策の限界の正確な把握に関する意見」によると、「商業賄賂とは、商業活動において公平な競争の原則に違反し、金品又はその他の利益を供与又は受領するなどの手段を用いて、取引機会又はその他の経済的利益を提供又は取得する行為をいう。」と定められている。

[2] 改正案5条3項:本法にいう市場混同とは、関連公衆に、商品の製造者、事業者又は商品の製造者、事業者の間に特定の関係が存することにつき誤認させることを指す。

[3] 改正案2条2項:本法にいう不正競争とは、事業者が本法の規定に違反して、他の事業者又は消費者の合法権益を害し、市場秩序を乱す行為をいう。

[4] 独占禁止法17条:市場支配的地位を有する事業者が次に掲げる市場支配的地位の濫用行為を行うことを禁止する。

(一) 不公平な高価格で商品を販売し、又は不公平な低価格で商品を購入すること
(二) 正当な理由なく、原価を下回る価格で商品を販売すること
(三) 正当な理由なく、取引先に対して取引を拒否すること
(四) 正当な理由なく、取引先が自己との間でのみ取引するよう制限し、又はその指定した事業者との間でのみ取引するよう制限すること
(五) 正当な理由なく、商品を抱き合わせて販売する、又はその他の不合理な取引条件を取引に当たって付加すること
(六) 正当な理由なく、同等な条件の取引先に対して,取引価格等の取引条件の面で差別的待遇を行うこと
(七) 国務院独占禁止法執行機関が認定するその他の市場支配的地位の濫用行為

 

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