顧客本位の業務運営に関する原則の概要(第6回)
西村あさひ法律事務所
弁護士 有 吉 尚 哉
5 個別の原則に関する実務対応
(7) 金融商品・サービスをパッケージ化するときの対応
ここで、原則5・6では、複数の金融商品・サービスをパッケージとして販売・推奨等をする場合について、特別の留意事項が明記されていることが注目される。
まず、原則5の注2においては、複数の金融商品・サービスをパッケージとして販売・推奨等をする場合の情報提供について、個別に金融商品・サービスを購入することの可否を顧客に示すとともに、パッケージ化する場合としない場合を顧客が比較できるよう、それぞれの重要な情報について提供すべきであるとされている。この点に関連し、森金融庁長官は、日本証券アナリスト協会第8回国際セミナーにおいて、貯蓄性保険商品の販売に関して「顧客の立場に立てば、個別の債券・投信と掛捨ての保険を別々に購入した場合とのコストの比較を顧客に理解してもらった上で投資判断をしてもらう必要があるのではないでしょうか」と発言している。
また、原則6の注1では、特定の顧客に金融商品・サービスをパッケージとして販売・推奨等する場合、当該パッケージ全体が当該顧客にふさわしいかについて留意すべきことを特に言及している。
この「複数の金融商品・サービスをパッケージとして販売・推奨等をする場合」とは、複数の金融商品・サービスをセット販売する場合だけでなく、「ファンド・ラップ、ファンド・オブ・ファンズ形態の投資信託、仕組債等の仕組商品、外貨建一時払保険等が含まれるとするのが一般的」と説明されていることにも留意が必要である[1]。
このように複数の原則に特別の注記があることを踏まえ、本原則を受け入れる金融事業者は、金融商品・サービスをパッケージ化して販売・推奨等をする場合には、情報提供のあり方や、顧客にふさわしいサービスとなっているかについて、特に慎重な検討を行うことが求められよう。
(8) 原則7:従業員の動機づけ・ガバナンス体制
【従業員に対する適切な動機づけの枠組み等】 原則7.金融事業者は、顧客の最善の利益を追求するための行動、顧客の公正な取扱い、利益相反の適切な管理等を促進するように設計された報酬・業績評価体系、従業員研修その他の適切な動機づけの枠組みや適切なガバナンス体制を整備すべきである。 |
原則7は、顧客本位の業務運営を実現するための従業員に対する動機づけの枠組みやガバナンス体制の整備を求めるものである。
従業員に対する動機づけの枠組みの一例として、報酬・業績評価体系があげられているが、例えば、過度な成果報酬は自社の収入を高めるために顧客の利益に反した取引を助長するおそれがあり、また、過度にグループ業績に連動したインセンティブプランは、顧客よりもグループ企業の利益を優先しようとする利益相反状況を強めることになる。もちろん成果報酬等にも長所があり、一律に否定されるべきものではないが、顧客本位の業務運営の観点にも配慮しバランスのとれた報酬・業務評価体系を確立することが求められる。この点に関連する問題意識として、森金融庁長官は、日本証券アナリスト協会第8回国際セミナーにおいて、「運用会社の社長が運用知識・経験に関係なく親会社の販売会社から歴代送り込まれたり、ポートフォリオ・マネージャーは運用者である前に○○金融グループの社員であるという意識が強く、運用成績を上げるより定年までいかに間違いをせず無事に勤めあげるかが優先されてはいないでしょうか」と発言している。
顧客本位の業務運営の観点から金融事業者に求められるガバナンス体制は、業態、企業規模、企業グループに属するか否かなどの個別事情によって異なるものである。一般的な対応としては、例えば、業務横断的に顧客本位の業務運営のあり方を所管する部署を設置するなど、金融事業者内で一貫した顧客本位の業務運営を実現するための体制作りを行うことが考えられよう。