SH3017 ベトナム:新労働法による変更点② 労働契約の範囲 澤山啓伍(2020/02/20)

そのほか労働法

ベトナム:新労働法による変更点②
労働契約の範囲

長島・大野・常松法律事務所

弁護士 澤 山 啓 伍

 

 新しい労働法(45/2019/QH14)(以下「新法」)が11月20日に国会で可決成立し、12月6日に公布されました。新法は2021年1月1日に施行されることになります。本稿では、数回に分けて、新法による現行法からの主要な変更点や、企業が労務管理上気を付けるべきポイントを解説しています。第2回目の今回も、労働契約に関する点について、その範囲、変更手続に関する留意点を取り上げます。

 

1 変更内容の概要

 

論点 現行法 新法
労働契約の定義 賃金が支給される業務、労働条件、労使関係における各当事者の権利と義務に関する被雇用者と雇用者との間の合意
(第15条)
労働契約という名称か否かを問わず、報酬のある業務、賃金並びに一方当事者の管理、指揮及び監督について定める内容を有する合意
労働者を雇用する前の労働契約の締結義務を明記
(第13条)
労働契約の「附録」 労働契約の変更、補足のために「附録」を用いる
(第24条2項)
労働契約の変更、補足のために「附録」を用いることができるが、「附録」による労働契約の期間の修正は不可
(第22条2項)

 

2 労働契約の定義といわゆる偽装請負への注意

 新法では、「報酬のある業務、賃金、労働条件、労働関係における各当事者の権利及び義務に関する労働者と使用者との間の合意」を労働契約と定義し、加えて、「報酬のある業務、賃金並びに一方当事者の管理、指揮及び監督について定める内容」を定めるものであれば「契約の名称の如何を問わず」労働契約に該当し労働法の規制に服することを明確にしています(新法第13条1項)。

 現状、ベトナムでは、特にローカル企業において、実態としては労働契約にあたるものについてもあえてその契約名称を「業務委託契約」や「サービス契約」とすることが見受けられます。これは、労働契約ではないように見せかけることで、労働法の適用や社会保険の支払いを免れたり、本来行うことができない業種での労働者派遣を行うことを目的とするものです。

 現行法の労働契約の定義(現行法第15条)でも、このような契約は、その契約の名目如何にかかわらず、実態からして労働契約であれば、労働法や社会保険の適用対象となる労働契約であると判断される可能性は十分にあるものと考えられますが、新法ではこの点を明確にするため、あえて「契約の名称の如何を問わず」という文言を盛り込んだのではないかと思われます。

 日系企業においても、このような潜脱行為を許容しないようにするとともに、個人と業務委託契約を締結したい場合や工場内請負を受け入れたい場合は、その実態が労働契約とならないよう、今後はより注意が必要と思われます。ただし、業務委託契約等の名目の契約について、どのような場合に労働契約となり、どのような場合には実質的にも業務委託契約であると認めるかについては、具体的な場面では判断が難しいことも多いと思われ、今後政令、通達等や判例、理論的研究の積み重ねでその判断の指標がより精緻化されることが望まれます。

 なお、新法においては、前回ご説明した書面での労働契約締結義務に加えて、労働契約は労働者を雇用する前に締結しなければならないことも明文化しています(新法第13条2項)。

 

3 労働契約の附録による期間変更の禁止

 ベトナムでは締結された契約の内容を変更したり、期間を延長する際に、「附録(phu luc)」と呼ばれる書面を締結し、本契約に添付する形式を採ることがよく行われています。日本では変更契約や延長合意書といった名称で締結されるものです。

 現行法でも新法でも、労働契約の一部の条項の補足や変更を合意するために、労働契約の附録を用いるものとされています(現行法第24条、新法第22条)。ただし、新法では、労働契約の附録をもって労働契約の期間を変更することが禁止されています(新法第22条2項)。これは、附録を用いて有期労働契約の期間を何度も変更することで、有期労働契約は1回しか更新できないという新法第20条2項c号の規定(現行法第22条2項と同様)の潜脱が行われるのを防ぐ趣旨であると考えられます。

タイトルとURLをコピーしました