中企庁、「事業承継5ヶ年計画」を策定
--今後5年間で25~30万社程度を対象に事業承継診断を実施する方針等--
中小企業庁は7月7日、「中小企業の事業承継に関する集中実施期間について」(事業承継5ヶ年計画)を策定し公表した。
中企庁では、中小企業経営者の円滑な事業承継を実現するため、平成28年12月に「事業承継ガイドライン」を改訂し、今年4月10日には「経営者のための事業承継マニュアル」を公表しているところである。
そして今般、中小企業経営者の高齢化の進展等を踏まえ、地域の事業を次世代にしっかりと引き継ぐとともに、事業承継を契機に後継者がベンチャー型事業承継などの経営革新等に積極的にチャレンジしやすい環境を整備するため、今後5年程度を事業承継支援の集中実施期間とする「事業承継5ヶ年計画」を策定したものである。
以下、その概要を紹介する。
「中小企業の事業承継に関する集中実施期間について」(事業承継5ヶ年計画)の概要
今後5年程度を事業承継支援の集中実施期間とし、以下の観点から、支援体制、支援施策を抜本的に強化する。
(1) 経営者の「気付き」の提供
地域ごとに、それぞれの支援機関がつながる事業承継プラットフォームを立ち上げ、事業承継診断等によるプッシュ型の支援を行い、事業承継ニーズを掘り起こす。
『プレ承継を中心に事業承継を支援する地域のプラットフォームの構築』
今後5年間で25~30万社程度に対して事業承継診断を実施する。
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【29年度】
事業承継診断を起点とするプッシュ型支援に連携して取り組む体制を構築(全国20~30カ所程度)するなど、事業承継ネットワーク構築事業を新設する。 -
【30年度】
47都道府県に事業承継ネットワークを展開し、年間5万件の事業承継診断を実施するなど、事業承継ネットワークを全国展開する。 -
【目指すべき姿】
ネットワークを地域に根付かせ、地域の支援者が有機的に連携し、プレ承継からポスト承継まで一貫してチームで支援を行うプラットフォームとして自立的に機能する支援体制を実現するなど、地域の支援者同士が個別企業支援で連携できる地域プラットフォームを確立する。
(2) 後継者が継ぎたくなるような環境を整備
資金繰り・採算管理等の早期段階からの経営改善の取組みを支援する。早期承継のインセンティブを強化し、後継者や経営者による経営の合理化やビジネスモデルの転換など成長への挑戦を支援する。
『早期承継へのインセンティブの強化』
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【29年度】
事業承継ガイドラインにおいて、おおむね60歳を迎えた事業者に対して承継準備に取り組む気付きを与えることが重要であると明記した。経営状態が必ずしも良好でない事業者に対して経営改善・事業再生を支援する(より早期の段階における経営改善の取組みの支援、再生支援協議会による再生支援の促進等)。小規模事業者持続化補助金で、早期・計画的な事業承継の取組みを後押しするため、事業承継診断を活用しつつ、後継者候補が中心となって取り組む事業を重点的に支援する。事業承継税制において、早期取組みを促すための生前贈与の税制優遇の強化を実施する。担保・保証に依存しない融資の一層の促進、経営者の個人保証の適切な見直しを行う(経営者保証ガイドライン、ローカルベンチマークの活用等)。 -
【30年度】
後継者(事業を承継した起業家等を含む)による経営革新支援を強化する(事業承継補助金の充実、 「ベンチャー型事業承継」の事例の発信)。事業承継税制のさらなる活用を図る。 -
【目指すべき姿】
経営者や後継者が早期の事業承継を目指して経営改善等に挑戦、また、後継者が事業承継を契機に経営革新等に挑戦しやすい環境を整備する。
(3) 後継者マッチング支援の強化
事業引継ぎ支援センターの体制強化や、民間企業との連携により、小規模M&Aマーケットを整備する。
『小規模M&Aマーケットの形成』
小規模M&Aが円滑に行える環境整備として、①情報インフラ・統計データ等の整備、②民間のM&Aプレイヤーの育成、③事業の引継ぎ手として、創業者や経営人材等とのマッチングの促進を行う。
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【29年度】
事業引継ぎ支援センターの体制強化を実施し、企業データベースの開示範囲を拡大し、マッチング機会の向上を図るとともに、さらなる実効性向上に向け、民間のM&Aに関する企業データベースとの相互乗り入れを検討する。経営状態が必ずしも良好でない事業者の円滑な事業の引継ぎを支援するために、再生支援協議会と事業引継ぎ支援センターとの連携を強化する。事業から退出したい事業者の資産を起業家が活用できるよう創業支援機関等と事業引継ぎ支援センターとの連携を強化する。 -
【30年度】
企業データベースを通じた民間のM&Aに関する企業データベースとの相互乗入れへの着手等。 -
【目指すべき姿】
事業引継ぎ支援センターによるマッチング件数2,000件を目指す等。
(4) 事業からの退出や事業統合等をしやすい環境の整備
サプライチェーンや地域における事業承継、事業再編・統合を促進し、中小企業の経営力強化を後押しする。
『サプライチェーン・地域における事業統合・共同化の支援』
サプライチェーンの維持・発展に必要な中小・小規模事業者の事業承継を親事業者がサポートし、サプライチェーンの持続的な発展が行える環境を整備する。事業承継を契機に地域の主要産業の強化を図るため、地域の事業承継ネットワーク等を通じて、地域の課題や実態を把握することで、地域独自の事業承継・事業再編等支援に結び付ける。
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【29年度】
下請振興法の振興基準に事業承継に関する取組みを明記し(平成28年12月)、自主行動計画のフォローアップを行い、業界への浸透を図るなど、サプライチェーンマネジメントとしての事業承継を支援する。事業承継ネットワークにおいて、事業承継の課題や再編等の必要性を検討し、地域特性に応じた支援を展開する。 -
【30年度】
中小企業の事業統合・共同化を促進するための制度的対応に向けて、29年度に検討、30年度の実施を目指す(事業統合を含むM&Aや事業の共同化、MBO(役員承継)を促進するための、税・予算・金融面を含む、必要な支援策を実施する)。 -
【目指すべき姿】
サプライチェーン・地域において重要な事業の継続のため、事業再編・統合を支援する体制を整備する。
(5) 経営人材の活用
次期経営者候補やアドバイザーとして、経営スキルの高い外部人材を活用しやすい環境を整備する。
『経営スキルの高い人材を事業承継支援へ活用』
大企業の経営幹部を歴任した人材など経営スキルの高い人材等が中小企業の次期経営者候補・後継者をサポートする経営幹部として、経営に参画しやすい環境を整備する。事業承継の支援者として、実際に事業承継を経験した経営者OB人材等を活用する。
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【29年度】
経営人材の後継者不在企業への参画を促進するため、人材紹介会社と事業引継ぎ支援センターとの連携を検討する(事業引継ぎ支援センターの企業データベースを人材紹介会社に段階的に開示するなど)等。 -
【30年度】
経営人材の活用を促進するためのインセンティブ策等について29年度に検討し、30年度の実現を目指す等。 -
【目指すべき姿】
事業承継を契機に、中小企業が経営スキルの高い人材等を社内(次期経営者候補)・社外(アドバイザー)で活用できる環境を整備し、後継者が新規事業に挑戦しやすい環境を整備する。
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○ 中企庁、「事業承継5ヶ年計画」を策定しました(7月7日)
http://www.meti.go.jp/press/2017/07/20170707001/20170707001.html -
○ 事業承継5ヶ年計画
http://www.chusho.meti.go.jp/zaimu/shoukei/2017/170707shoukei1.pdf -
参考
SH1113 中企庁、「事業承継マニュアル」を公表(2017/04/14)
https://www.shojihomu-portal.jp/article?articleId=3409542 -
SH0921 中企庁、「事業承継ガイドライン」を公表(2016/12/12)
https://www.shojihomu-portal.jp/article?articleId=2591665