◇SH1302◇オランダ子会社の内部通報制度が満たすべき要件について(1) 岡野・ハイマンス 謙次(2017/07/24)

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オランダ子会社の内部通報制度が満たすべき要件について 

-オランダ公益通報者保護法、EU一般個人データ保護規則及びオランダ労働法を中心に-

Buren法律事務所

オランダ王国弁護士 岡野・ハイマンス 謙次

 

第一回「オランダ公益通報者保護法上の要件について①」

1. はじめに

 オランダは日系企業にとって重要な投資先である。2015年末の時点で、日本からオランダの直接投資残高は118,394億円[1]、日本の対外直接投資に占めるオランダの割合8.0%とEU諸国で第1位となっている[2]。また欧州の物流拠点であるロッテルダム港を有していること、及びオランダが世界でも有数の租税条約ネットワークを構築していることを理由に、多くの日系企業がオランダに子会社や拠点を設置している。従って、日系企業において、その海外子会社及び拠点のために内部通報制度を構築する場合、オランダの子会社、関係会社又は拠点(以下「オランダ子会社」)もその対象となる可能性が高い。そこで、本稿では日系企業のオランダ子会社に設置する内部通報制度が満たすべき要件を、①オランダ公益通報者保護法、②EU一般データ保護規則、③オランダ労働法の観点から、5回にわたって解説する。   

 

2. オランダ子会社の内部通報制度に適用される法令等について(法的枠組み) 

 もしオランダ子会社の内部通報制度に適用されるオランダの法令があるならば、当該法令が定める要件を満たすように内部通報制度を構築しなくてはならない。オランダの法令のうち企業の内部通報制度について規定しているものはおよそ次の通りである。

(1) De Wet het Huis voor Klokkenluiders
   (公益通報者のための特別院を設置する法律、以下「オランダ公益通報者保護法」または「WHK」)

 オランダ公益通報者保護法は2016年7月1日付けで施行されたオランダ国内法である。これはEU指令を国内法に転換したものではない。本法律の目的は、社会的不正行為の疑いを通報するための条件を改善すること、及び社会的不正行為の通報者への助言並びに調査を行うための特別院を設置することにある[3]。ある使用者の組織内で社会的不正行為が行われた場合、これを正す一義的な責任は使用者にある[4]。まず使用者にこの機会を与えるため[5]、同法は50人以上の労働者を抱える使用者に対して、その組織内に内部通報制度を設置する義務を課す[6]。ここにいう労働者の定義は幅広く、雇用契約に基づいて労働に従事するものだけでなく、24ヵ月以上派遣契約に基づいて労働に従事するものや、他の組織に出向しているものも含む[7]。この使用者の内部通報制度設置義務違反に罰則は設けられていない。しかし、使用者においてこの義務に違反して内部通報制度を全く設けないか、又は公益通報者保護法の要件を満たさない内部通報制度を構築するならば、使用者組織内の社会的不正行為の疑いを外部に通報されるリスクが高まる[8]。従って、オランダ子会社の内部通報制度を構築するならば、オランダ公益通報者保護法の要件を満たすようにこれを行うことが勧められる。50名以上の労働者を抱えておらず、内部通報制度設置義務を負わない場合も同様である。

(2) Wet Financiele Toezicht
   (金融業の監督に関する法律、以下「オランダ金融監督法」または「Wft」)

 現在のオランダ金融監督法はEU指令(Directive 2013/36/EU, Capiral Requirements Directive IV)を国内法可したものである。本法律は、銀行、保険等の金融業者に対して内部通報制度を設ける義務を課す[9]。従って、オランダ中央銀行の許認可のもと金融業を営むオランダ子会社は、オランダ公益通報者保護法上の内部通報制度の要件だけでなく、金融監督法上の内部通報制度の要件を満たすように内部通報制度を構築する必要がある。本稿では金融監督法上の内部通報制度の要件の説明は省略する。なお、EUには、内部通法制度に特化した特定の一つの法があるというわけではない。

(3) De Nederlandse Corporate Governance Code 2016
   (オランダ国内で上場するオランダ法人に適用される行動規範、以下「オランダ上場企業行動規範」)

 オランダ上場企業行動規範にも内部通報制度に関する規定が含まれる。しかし、理由を説明すればオランダ上場企業行動規範の規定から簡単に逸脱することができる。また、日系企業のオランダ子会社でオランダ国内で上場している企業はあまりない。従って、本稿ではこの説明も省略する。

(4) その他業界別行動規範

 最後に、オランダの業界団体では独自の行動規範を設けていることがあり、その中に内部通報制度設置義務が規定されていることもある。しかし、これはあくまで行動規範であり、法的拘束力はない。従ってこの説明も省略する。  

 

 以上により、オランダ子会社の内部通報制度を構築するならば、不正行為の疑いを外部通報されるリスクを軽減するため、オランダ公益通報者保護法にいう内部通報制度の要件を満たすようにこれを行うことが勧められる。次回はオランダ公益通報者保護法上の具体的な要件を解説する。



[1] 外務省『オランダ基礎データ』、http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/netherlands/data.html

[2] 同上。

[3] Kammerstukken II 2011/12, 33258, 3, p. 1.    

[4] Kammerstukken II 2012/13, 33258, 7, p 7.

[5] 同上。

[6] Art. 2 lid 1 WHK. 

[7] Art.1 onder h WHK. See also Integriteit in de praktijk, de meldregeling, het Huis voor Klokkenluiders, https://huisvoorklokkenluiders.nl/wp-content/uploads/2016/12/HvK-Integriteit-in-de-praktijk-De-meldregeling.pdf.

[8] Art. 6 lid 1 WHK.

[9] Art. 23i, Besluit prudentiele regel Wft. 

 

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