公取委、株式会社セブン-イレブン・ジャパンに対する勧告について
岩田合同法律事務所
弁護士 臼 井 幸 治
公正取引委員会(以下「公取委」という。)は、平成29年7月21日、株式会社セブン-イレブン・ジャパンに対し、下請代金支払遅延等防止法(以下「下請法」という。)4条1項3号(下請代金の減額の禁止)の規定に違反する行為が認められたとして、下請法7条2項に基づく勧告を行った。
下請法4条1項3号は、親事業者に対し、下請事業者に製造委託等をした場合に、下請事業者の責めに帰すべき理由がないのに下請代金の額を減ずることを禁止している。
上記勧告では、親事業者である株式会社セブン-イレブン・ジャパンは、下請事業者である食料品の製造委託先76名に対し、下請事業者の責めに帰すべき理由がないのに、「商品案内作成代」又は「新店協賛金」を下請代金の額から差し引いていたとされ、その総額は2億2746万1172円であるとされている。ここでいう「商品案内作成代」とは、直営店及び加盟店に配信する商品案内を作成する費用として徴収した金銭のことをいい、「新店協賛金」とは、新規出店時等に実施する値引きセールの原資として徴収した金銭のことをいうとされており、一見すると正当性のある金員を差し引いているようにもみえる。
そこで、以下では、この勧告事例を題材として、下請代金の減額の禁止の基本的かつ根本的な留意点について改めて指摘しておく。
まず、「下請代金の額」とは、親事業者が製造委託等をした場合に下請事業者の給付に対し支払うべき代金の額を指し(下請法2条10項)、具体的には、親事業者が発注に際して下請事業者に交付する書面(発注書面、下請法3条)に記載された下請代金の額のことをいう。
次に、下請代金の額を「減ずること」には、下請代金の額から一定金額を差し引くことをいい、親事業者による一方的な減額だけでなく、下請事業者の同意がある場合も、下請代金の額を「減ずること」に含まれる。
このように、下請事業者の同意の有無に関わらず、発注段階で決定されていた下請代金から一定金額を差し引いて支払う行為は、(弁済期にある売掛金の額を下請代金と相殺するような場合を除き)下請法4条1項3号(下請代金の減額の禁止)の規定に例外なく違反するのであって、その認定は極めて明確である。
どのような名目で減額を行おうが、名目の如何によって減額が正当化されることはなく、下請事業者の責めに帰すべき理由がある場合(下請事業者の給付に瑕疵がある場合や、納期遅れなど)にのみ減額が許容されるに過ぎない。
これまでのトピック解説においても下請法違反について何度か採り上げており、読者におかれても十分ご理解いただいているものと思われるが、下請代金の減額による勧告事例が後を絶たない現状に鑑み、このような根本的な点につき改めてご留意いただければと思う。
なお、現状に係る客観的な資料として、公取委が平成29年5月24日に公表した「平成28年度における下請法の運用状況及び企業間取引の公正化への取組」によれば、公取委が平成28年度に下請法7条に基づく勧告、又は違反行為の改善を求める指導を行った事件を違反行為の類型別にみると、親事業者の禁止行為を定めた実体規定違反(下請法4条違反)の件数5,815件のうち、下請代金の減額(同条1項3号)は、下請代金の支払遅延(同条1項2号)、買いたたき(同条1項5号)に次いで3番目に多い件数となっている。また、下請事業者の被った不利益について親事業者が行った原状回復(返金等)の金額を違反行為の類型別にみると、総額23億9931万円のうち、下請代金の減額に係る原状回復額(18億4452万円)が圧倒的に多い(以上につき後記表ご参照)。
企業としては、下請代金の減額をはじめとした下請法の正しい理解の浸透、徹底を全社的に図ることが肝要であり、各社の取引の実情を踏まえた社内研修の実施等も有用であろう。
また、公取委は、公取委が調査に着手する前に、違反行為を自発的に申し出、かつ、下請事業者に与えた不利益を回復するために必要な措置等、自発的な改善措置を採っているなどの事由が認められる事案については、勧告を行わない取扱いを行うことがあることを公表しており(平成20年12月17日)、不幸にも違反行為が判明した場合の事後的な最善措置として、自発的に申し出を行うとの手段もある。
下請代金の支払遅延(違反件数:3375件) |
6958万円 |
買いたたき(違反件数:1143件) |
8411万円 |
下請代金の減額(違反件数:489件) |
18億4452万円 |
(公正取引委員会「平成28年度における下請法の運用状況及び企業間取引の公正化への取組」より抜粋)
以上