英米の投資信託の歴史
~会社型と信託型の競争に関する一考察~(3)
三菱UFJ信託銀行
友 松 義 信
3 経済合理性
集団投資スキームを経済合理性の観点から見ると、再投資による利益追求がより大きくなることから、ヴィークル段階では課税されず、受益者が収益等を受け取った段階で課税されることが望ましい。どのヴィークルを選択するかで課税のされ方が異なることがあるため、そこに競争が生じる。また組織を維持・存続させるための必要な手続きがヴィークルによって異なり、その費用対効果を巡って選択が生ずることもある。この観点に関しても、会社と信託の間である種の競争が展開された。
① 導管性―連邦税(アメリカ)
既述の通り20世紀初め頃まで会社は、法人格を有するか否かが大きな争点となり、法人格を有する方向に推移していったため[1]、課税対象となった。一方、信託は一般に法人格はないとされ、1913年の連邦歳入法でビジネス・トラストは法人税の課税対象外とされたほか、1911年の連邦最高裁判決Eliot対Freeman[2]で登録免許税の課税目的となる団体性を有さないとされるなど、信託の方が有利な取扱いが続いた[3]。
その後会社に法人格を認めるという考え方が一般化する一方で、1935年に一定基準を満たすビジネス・トラストは団体と見做され、法人税が課税されるとするモリセイ事件判決[4]が出ると、ヴィークル段階での課税問題に関し、両者の差はほぼなくなっていく。それを決着させたのが、1942年の税制改正である[5]。即ち、総所得の90%以上が配当として分配される等、一定の適格要件を具備した証券投信は、会社型であれ、信託型であれ、ペイ・スルー[6]が認められ、ヴィークル段階では課税されないこととなったため、法形態による差異は無くなった。
尤も、不動産投資信託(REIT)は1942年の税改正の対象外とされ、1960年の改正[7]でペイ・スルーが認められた。この時、同時に制定されたReal Estate Investment Trusts Actというネーミングに象徴される通り、積極的な不動産開発ではなく受動的な投資が望ましいと考えた議会は、会社形態より信託または組合形態をとるよう求めたため、この商品の利用が本格化する1960年代から70年代頃にかけては信託形態が一般的であった。
このように、経済合理性によって行動が左右される投資の世界にあっては、税の取り扱いの違いがその成長発展に大きな影響を与える場合がある。
② Franchise Tax―州税(アメリカ)
アメリカの場合、課税問題は連邦税だけでなく州税の問題もある。株式会社は、州法に基づいて設立されるから、その州に登録料を支払う必要があるうえに、フランチャイズ・タックスと呼ばれる州税を支払う必要がある。これに対しビジネス・トラストは、信託であるため、登録料は支払う必要があるものの、フランチャイズ・タックスを納める必要はなかった。
1980年代にメリーランド州が、年次総会の省略等信託に匹敵する投資会社に有利な会社法を制定[8]すると、大手運用会社の一つが拠点にしていたこともあり、利用が広まったが、これに対抗するビジネス・トラスト法をデラウェア州が制定[9]すると、フランチャイズ・タックスがかからないビジネス・トラストの方が有利であるとして形成が逆転する[10]。振幅の激しい動きであるが、経済効率性が如何に重視されているかという側面をあらわしている。
③ 柔軟性(アメリカ)
オープン・エンド型に顕著なことであるが、自由に解約・換金ができて、随時申し込みすることができるということは、集団投資スキームとしての投資会社の大きな魅力の一つである。しかし、これは極端な場合を想定すると会社には困難な場合がある。即ち、授権資本制度が制約となり、如何に随時発行が可能といっても、最大4倍までしかできず、減資にも限界がある。通常はこのようなドラスティックな資金変動が生ずることは想定し難いが、1971年にMMF(Money Market Fund)の取扱いが始まり、金利上昇の影響を受けて大ヒット商品となったときに、現実の問題となった。会社型では、MMFの自由な資金の出し入れに機動的な対応がとれないおそれがあるうえ、資本変動時に資本金の額に応じた登録が必要となるというのに対し、ビジネス・トラストにはその必要はなかったのである[11]。
また、取締役等の選解任手続きという問題もある。1940年の投資会社法では、投資信託は、取締役であれ、受託者であれ、少なくとも年1回は総会を開いて選解任手続きを経なければならないとされていた。これによって、同法に基づく投信の適格性を有するには、信託も年一回の選解任手続きをとるという手間のかかることをしなければならなくなり、当時、需要を減らす要因にもなったが、1974年の法改正によって、ビジネス・トラストは、受託者選解任のための年次総会を省略することが認められた[12]。これによって、信託は案内状の送付をはじめとする煩瑣な手続きを省略することに成功したのである。
[2] Eliot v. Freeman, 220 U.S. 178 (1911)
[4] Morrissey v. Commissioner of Internal Revenue,296 U.S. 289(1935)
[5] Revenue Act of 1942
[6] 損金算入が認められ、ヴィークル段階(会社、信託、組合等)では課税されないこと
[7] Internal Revenue Act of 1960
[8] 1987 Md. Laws 242
[9] Delaware Business Trust Act,66 Del. Laws 279(1988)
[10] 前掲Langbein,at P.187