◇SH1331◇英米の投資信託の歴史 ~会社型と信託型の競争に関する一考察~(4・完)ガバナンス 友松義信(2017/08/04)

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英米の投資信託の歴史

~会社型と信託型の競争に関する一考察~(4・完)

三菱UFJ信託銀行

友 松 義 信

 

4 ガバナンス

 会社形態であれ、信託形態であれ、投信は第三者に資金運用を託す制度であり、いわゆるエージェンシー問題を内在する。従って、エージェンシー問題を如何にコントロールするかが、投信のガバナンス上最も重要となる。しかしこの点に関しては、取締役、受託者のいずれもFiduciaryであり、利益相反を原則として禁止する忠実義務および注意義務が課せられるから、ガバナンス構造に差異はないように思われる。

 これに関し、イェール大学のラングバイン教授は、法制度としてどちらが優位であるかは一概に決められないとしつつ、投信や資産流動化商品等の資産額を見る限り、会社より信託(ビジネス・トラストを含む商事の信託)の方が優位にあることを指摘している[1],[2]。そこで両者のFiduciary Duty(FD)にどのような違いがあるかを見てみると、デューク大学のシュワルツ教授は、会社取締役が残余財産権者である株主に対してのみ信認義務を負うのに対して、信託受託者は公平義務を負っており、残余財産権者である劣後受益者だけでなく、優先受益者等それ以外の受益者にも及ぶことから、金融商品のように財産の価値を維持しながら増やしていく事業活動には信託が向いており、他方、商業や製造・販売業等の一般の事業活動には、リスクをとって残余財産権者である株主が利益を追求しようとすることから、会社が向いていることを指摘している[3]。同様に、ボストン大学のフランケル教授も、ビジネス・トラストをすべての事業活動において認めることは危険であると警告[4]する中で、資産価値を維持しながら増やすことを目的とする仕組みには信託が向いている旨を示唆している。

 さらにハーバード大学のシトコフ教授は、贈与型の信託と公開会社を比較検討する論文[5]において、財産管理から発展した信託には、忠実義務、注意義務という中核的義務のほかに様々なサブ・ルールがあって分散投資を原則とする等リスクに対して慎重な姿勢をとるところに特徴があると指摘している。これに対し会社は、多様な事業に使われることを前提とし、分散投資だけでなく選択と集中も含め、積極的にリスクをとって利益を追求する構造になっており、取締役により広い裁量を与えているところに特徴があるとする。つまり、同じFDであっても、原型において信託と会社には強度に違いがあるというのである[6]

 以上、いずれの学者も、法制度の優劣としてではなく、経路依存(path dependence[7])の問題もあるとするなど慎重な言回しをしつつも、実態に照らすと、投信のように、一定の財産を管理運用しながら財産的価値を増やしていくスキーム、即ち、集団的投資スキームには信託が向いているという可能性を示唆しているように思われる。

 私見であるが、投信は、シトコフ教授の分析した贈与型の信託と公開会社との中間に属すると位置付けることができるから、分散投資とリスク回避的という点において、集団投資スキームというヴィークルにおいては、信託のFDの方が投資家の求めるところにより合致すると考えられる。これがビジネス・トラストという会社型に近い信託が投信や資産流動化の信託、年金の運用に多く利用されているという結果に違いがつながっているのではなかろうか。

 英米において、コーポレート・ガバナンスの最も効率的なルールはFDであるとする学者が多数を占める中で、21世紀に入り、会社と信託の違いについて、このような指摘が出てきた背景には、前世紀までに、税の公平性の問題やヴィークルの訴訟当事者適格、有限責任といった仕組み上の問題が概ね解決した結果、投信に残された問題は「投資した財産のリスクを如何に極少化しつつ増やすか」ということに収れんし、これに最も応えるうえでガバナンスの問題が極めて重要視されるようになった。そこでガバナンスのより具体的内容が問題となり、会社型の弱いFDより、信託型の強いFDが志向されるようになったと指摘できるのではなかろうか。単に経路依存の結果に過ぎないとの考え方もあろうが、行動経済学の「不確実性の下で人間はリスク回避的になる」という仮説が正しいとすると符合する点がある。この点は、今後のさらなる研究課題としたい。

 

5 むすびにかえて

 翻って我が国の投信の歴史と現状を鑑みるに、我が国の投信は、イギリスのユニット・トラストをモデルとして、1936年に信託型でスタートした[8]。戦後も、アメリカの投資会社法の影響を受けて1951年に制定された証券投資信託法は、信託だけを法形態として採用し、2000年の全面改正でもって漸く会社型と信託型の両方が選択できるようになった。会社型の投信が世の中で利用されるようになったのは、2001年のJリートの登場以降の話であり、不動産運用以外での会社型の利用はほとんど見られない。官主導で整備された証券投資信託法は、上記で考察した4つの要素を概ね充足しており、税制も概ね同時期に整備されたから、経路依存に陥り、顕著な競争が起こらなかったと思われる。しかし、昨今、金融庁が投資商品のインベストメント・チェーンに係わる金融機関に対して求めている「顧客本位の業務運営」[9]では、各金融機関にFDを果たすことを求めている。国民が安心して投資できる環境づくりの一環と考えられるが、集団投資スキームにFDの考え方が重要な役割を果たすと考える点でアメリカにおける一部の議論とオーバーラップするところがあり、示唆的である。今後、信託や会社が他のヴィークルに取って代わられないために何が必要か、更なる理論分析が必要な時期にきているのかもしれない。



[1] John Langbein,Essay The Secret Life of the Trusts:The Trust as an Instrument of Commerce,107 Yale L. J. 165 (1997)は、年金信託や投資信託のほか資産証券化の信託などもあわせると11.6兆ドルにのぼるとしている。なお、同論文において、当時はミューチュアル・ファンドの約半分は信託形態であるとしているが、アメリカ投資会社協会の統計によると2015年末現在、75%が信託形態(内訳は、マサチューセッツ州のビジネス・トラストが35%、デラウェア州法信託が40%)となっている。

[2] Robert H.Sitkoff,”The American Statutory Business Trust:A Research Agenda”, Regulation of Wealth Management 17 (Hans Tijo ed., National University of Singapore 2008)は、従来の会社と信託の比較は、民事と商事という主な活用領域の違いで大括りに割り切られ、金融領域におけるビジネス・トラストの隆盛が正当にされていない、この観点からの理論分析が必要であると述べている。

[3] Steven Schwarcz,Commercial Trusts as Business Organization:Unraveling the Mystery, 58 Business Lawyer 559(2003)

[4] Tamar Frankel,Essay The Delaware Business Trust Act Failure as The New Corporate Law,23 CARDOZO L. REV. 325.(2001)

[5] Robert Sitkoff,Trust Law,Corporate Law,and Capital Market Efficiency,28 J Corp Law 565(2003)

[6] シトコフ教授は、donative trust=harder fiduciary obligation= cautious managersに対し、corporation=softer fiduciary obligation=risk-taking managersと整理している(上記論文の119頁)。

[7] L.A.Bebchuk & M.J. Roe, “A Theory of Path Dependence in Corporate Ownership and Governance”,52 Stanford L.Rev.127

[8] 前掲・江口, 292頁、野村證券株式会社調査部『投資信託の実証的研究』(東洋経済新報社、1942年)511頁、社団法人・投資信託協会『投資信託50年史』19頁

[9] 金融庁「平成28事務年度金融行政方針」(平成28年10月)10頁

 

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