◇SH1355◇(パネルディスカッション)医事法と情報法の交錯(3) 宍戸常寿/米村滋人/矢野好輝/横野恵/田代志門(2017/08/23)

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(パネルディスカッション)医事法と情報法の交錯(3)

――医学研究における個人情報のあり方と指針改正――

 

(司会)東京大学教授 宍 戸 常 寿

(コーディネーター)東京大学准教授 米 村 滋 人

前厚生労働省医政局研究開発振興課課長補佐 矢 野 好 輝

早稲田大学准教授 横 野   恵

国立がん研究センター社会と健康研究センター生命倫理研究室長 田 代 志 門

 

NBL1103号 [特集] 医事法と情報法の交錯――シンポジウム「医学研究における個人情報保護のあり方と指針改正」に報告部分を掲載した。

ここに掲載するのはディスカッション部分である。

 

パネルディスカッション&質疑応答

 (2)から続く

  1. コーディネーター
     ありがとうございます。とりあえず、大変安心いたしました。次に進められます。
     その上で、この点はぜひ聞きたいという点につき、フロアーの方からのご質問をいただければと思います。いかがでしょうか。
  2. 質問者A 今日は大変有益な議論をいただきまして、ありがとうございました。
     私は弁護士でして、倫理審査委員なども務めておるのですが、いつも医学系の方の委員と私のほうとでちょっとギャップがありまして、私は、個人情報保護法にのっとった指針になっているという説明だったのでそう思っておりましたので、個人情報の世界ではこうですよということをお話ししたのですが、医学の立場の方だと前提が違ったりするので、そして、その都度、説明はさせていただいたり議論していたのですけれども、今日は、そこの無意識にやっていたところが、田代先生のお話や米村先生の最初のご説明ですごく整理していただいて、よくわかりました。ありがとうございます。
     それで、質問ですけれども、今回、個人情報保護法の個人が識別できるかどうかということで個人情報として扱うかということに整理されたのだと思うのですが、では、識別できないようにするためにはどうするかというのが、今、経産省ですとかいろいろな分野で、宍戸先生もやっておられますIoTの情報流通の推進のほうでいろいろ出していただいたりしているのですけれども、医療情報の、こうすれば匿名化できるみたいな、指針みたいなものですとか法制度が予定されているものもちょっと読んだりしたのですが、それはどのような予定になっているのか、教えていただければと思います。よろしくお願いします。
  3. コーディネーター
     これは矢野さんにお答えをお願いできればと思いますが、いかがでしょうか。
  4. 矢 野  特定の個人を識別できるの解釈に関してということですね。
  5. 質問者A 経産省分野ですと、例えば、カメラ情報ですとか購買履歴はこうやれば匿名化されますよみたいなマニュアルが出されているのですが、医療関係について、例えばこういうものを削除するとか、この病気の人が例えば一人に特定されたらそれを削除するとか、何か指針みたいなものが出ればありがたいと思っております。
  6. 矢 野  正直なところ、今、何か具体的に出る予定があるわけではないと思っています。個人情報保護委員会から発出された匿名加工情報のスタッフレポートのようなものもありましたけれども、その中にも医療分野は含まれていなかったと思いますし、医療介護関係事業者向けに個人情報保護委員会が出すガイダンスも、基本的にほとんど厚労省がこれまで出していたのものを踏襲していて、具体的なものはあまり入っていないのかもしれません。個人情報保護委員会のガイダンスが多分一番詳しい解釈として出てき得ると思うのですけれども、おそらく、余り詳しいものには多分ならないような気もします。
     ですから、近い未来に何か新しいものが出てくるかといったら、私が把握していないだけかもしれませんが、そういう予定はないような気がしています。
  7. コーディネーター
     私から補足をさせていただきますけれども、先ほど私の報告の中でもお話しさせていただきましたとおり、今回の改正法及び指針においては、特定の加工方法をとると当然に個人情報性が失われるという前提は採用されておらず、その人がほかに保有している情報とか、その情報自体の細密さや内容によって異なるという考え方がとられております。同じように見える情報でも、それを見たときに誰でも同じ情報を引き出せるわけではなく、見る人によって引き出せる情報の中身が違ってきます。どういう環境に置かれて、だれが作成した情報かというようなことでも変わってくるんですね。
     そういうところを総合的に判断しないと、個人情報であるかないかが判断できないという前提でつくられていますので、一般的に何をすると大丈夫とは言えないわけです。ですから、医学研究の現場でそれを運用するというと、現場の担当者の方に非常に難しい課題を突きつけてしまうところがあるのではないかと思います。
  8. 矢 野  もう1つは、認定個人情報保護団体があると思います。製薬企業関係だと日薬連ですとか、病院団体でも認定個人情報保護団体があったと思うのですけれども、そういったところの認定個人情報保護団体の活動として何か新たなガイドラインを作ろうという動きがあるのかどうかについて私は把握していないのですが、そちらは今後、個人情報保護委員会の所管として対応されていくと思うのですけれども、その中で医療分野の中の扱いが定まってくることがあるかもしれません。
     あとは、各学会で、例えば疾病分野ごと、難病領域だったら個人が特定されやすいとか、そういった領域ごとの特徴に応じた考え方みたいなものが整理されてくるというのは今後あるのかもしれません。具体的な予定まではちょっと把握していません。
  9. コーディネーター
     ありがとうございました。
     それでは、もう一方、どなたか。では、そちらの方。
  10. 質問者B 弁護士の者です。今日はありがとうございました。何の背景・知識もなく来たのですが、大変興味深いお話を伺いました。
     ちょっと疑問に思った点なのですけれども、2003年に個人情報保護法ができた時点で、既にいろいろな指針との間では整合しないところがあったということで、今回、2015年に改正されるときに、そういう従前の指針との整合性などの事柄が立法過程で検討されていないように思ったのです。そこでされていれば、法改正後の今日伺ったようなどたばたは多分なかったでしょうし、よりみんなが納得できるルールができていたように思うのですが、個人情報保護法の改正過程というものがどういうものであったのか、教えていただければと思います。
  11. コーディネーター
     これは、法改正の検討を担ったパーソナルデータ検討会のメンバーである宍戸先生にお答えいただけませんでしょうか。
  12. 宍 戸  司会を務めております宍戸でございます。米村先生からご紹介がありましたとおり、個人情報保護法の改正過程におきましては、先ほどご質問をしていただきました鈴木正朝先生や私も含めまして、IT本部におけるパーソナルデータ検討会で議論をいたしました。このときの有力なメンバーをされました佐藤一郎先生でありますとか、それを事務局で支えていただいた日置巴美先生なども、この場に大勢おいでになっていると承知しております。
     その際に、1点ご注意いただきたいのは、パーソナルデータの保護と利活用の議論というのは、経済産業省や総務省での検討がいわば合流した形で議論が進んできたところがあると思っております。私もパーソナルデータ検討会で議論していたときから、本来、本丸は医療分野ではないのか、医療分野についてしっかり議論がなされているのか、例えば、厚生労働省の方なりがオブザーバーなり参画するなり、事務局に加わるなりという議論があったほうがいいのではないかと思って、個人的にそういうことをいったこともあるのですけれども、広い意味で医療行政、医学界の強い反応が余りなかったというのが、検討にかかわっていた一委員としての印象です。
     もう少しさかのぼっていえば、医学分野において個人情報保護法と医学分野の間に緊張関係があるということは、これまで何度かあったようであり、パーソナルデータ検討会の議論の前にも私も医事法の先生方に呼ばれて議論したこともございますが、医学の研究の先生方の中で、個人情報保護法というのは敵だ、せいぜいよくて冷戦状態で、本気で問題になるとガチンコの戦争だという意識の構えがややあったのではないか。他方、情報法ないし個人情報の実務家のほうでも、「医学分野というのは確かに特殊でややこしい分野だよな」というところがあって、距離が非常にあったのかなと思っております。
     それで、法改正あるいはその施行のプロセスの中で本当に何とかしなければいけないということで議論した結果、矢野さんが大変苦労されたプロセスがあったわけですけれども、先ほど米村先生がおっしゃられたように、これが出発点であって、ここからさらに、医学にとっても、あるいは個人情報、プライバシーの保護という観点の両方をとってみても、最適になるような議論を続けていかなければいけない、今日のシンポジウムはまさにそのスタートラインだろうと思っております。
     雑駁ですが、以上でございます。
  13. コーディネーター
     ありがとうございました。まだまだご質問はおありになるだろうと思いますが、時間の関係がありまして、フロアーからのこのテーマでのご質問はここまでとさせていただきます。
     今の点について、パネラーの先生方、いかがですか。何かコメントがありましたら。
  14. 矢 野  私見ですが、マイナンバーの改正の話が多分大きくて、個人情報保護法が厳しくなるという認識が世間の風潮としても余りなかったのではないかということももしかしたらあるのかもしれないですし、病歴が入ったというのも、田代先生もちょっと触れられていましたけれども、どういう過程で病歴が入ったのかというところが余り明確ではないところもあったかもしれません。
     ですから、できたもので、ふたをあけてみたらこういう状況だったという意味で後手に回った面があるかもしれないと。どういった経緯だったのか私は詳細までは認識しておりませんが、医療のことについては検討が不足していた可能性はもしかするとあるのかもしれない。個人情報保護委員会のほうにも医療の分野の委員は入っていないのではないかという指摘がよくありますけれども、そういった中で、どのように関係者の理解を得ながら進めていくかというのは、縦割りっぽくなっていますが、課題だなとすごく感じてはいます。

(4)に続く 

 

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