実学・企業法務(第76回)
第2章 仕事の仕組みと法律業務
同志社大学法学部
企業法務教育スーパーバイザー
齋 藤 憲 道
Ⅳ 総務・管財
株主総会・取締役会の運営、不動産(土地、建物)の管理・取引(売買、賃貸借等)、保安・守衛等の業務を担当する。
〔株主総会の事務局〕
株主総会は、総務部門が担当する企業が多い。
株主総会の開催では、(1)事前の準備(事務日程の作成、招集通知の作成と発送、議決権行使対応、会場設営、想定問答集作成、事前質問状への回答等)、(2)当日の運営(会場の安全確保、受付、議決権集計、議事運営、動議・質問への対応、株主に対する説明等)、(3)総会終了後に行う事項(議事録の作成と備置、決議通知等の発送、決算公告、有価証券報告書提出、役員変更等の登記等)のように多くの部門が動員される。
総合事務局のメンバーには、(1)専門知識(大半の事務が会社法・会社法施行規則・会社計算規則に基づく)と、(2)実務対応力(会場設営、多人数に対応〈一部はクレーマーの可能性〉、やり直し不可、安全・セキュリティー確保、マスコミ対応・IR)が求められる。
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(注) IR(Investor Relations 投資家向け広報)
企業が、経営状況・財務状況・業績動向等の情報を投資家に向けて発信する広報活動を、IRという。一般に、証券取引所における適時開示、アナリスト向けIRミーティング等を通じて行われる。株主総会をこのIR活動の一環として位置付け、総会の前後の場を含めて情報発信する企業が増えている。
なお、株主総会の決議において、機関投資家が意思を貫いて議案否決する例や、機関投資家との話し合いで代案の合意が出来て株主提案議案を取下げる例がある。IRを通じて「会社」対「機関投資家」の全面対決型から対話型に移行することが期待される。
〔定時株主総会事務の業務フロー〕
事業年度毎に開催される定時株主総会の実務は、概ね下記のように進められる。
定時株主総会の実務には法定事項が多いので、運営事務局には総会に関する法律と事務に精通した者を加える必要がある。法律手続きに瑕疵があると、裁判で、株主総会の決議が無効になる可能性がある。このため、多くの企業が、株主総会運営のための弁護士を起用している。
- (注) 総会屋に利益を供与して株主総会の議事運営を穏便に済ませようとする行為は、「株主等の権利の行使に関する利益供与の罪[1]」として処罰される。
(1) 次年度の会場の確保(予約)
外部の大会場を利用する場合は、今年の総会終了時に1年後の会場を予約する。
(2) 業務スケジュール作成、事前準備
法律に基づいて業務日程を作成する。以下に、上場会社のスケジュールの流れを示す。
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1) 定時株主総会で議決権を行使する「基準日株主」を確定(会社法124条1~3項)
基準日から株主総会までの期間は3ヵ月以内でなければならない。
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(注1) 通常は、定款に次の2つの事項を定めている。(本決算が3月31日の上場会社の例)
「当会社の定時株主総会は毎年6月に招集し、臨時株主総会は必要あるときに招集する。」
「当会社の定時株主総会の議決権の基準日は、毎年3月31日とする。」 - (注2) 臨時株主総会の基準日を定める場合は、基準日株主が行使することができる権利の内容を定め、「基準日」と「権利の内容」を、この基準日の2週間前までに公告しなければならない[2]。
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2) 株主総会の8週間前までに行われる「株主提案権」行使に対する方針を決定
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3) 決算担当の取締役(又は執行役)が、計算書類・事業報告書・附属明細書、連結計算書類を作成
決算担当の取締役(又は執行役)が、計算書類[3]を監査役[4]と会計監査人に提出して、監査を受ける
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4) 会計監査人と監査役が、監査報告の内容(監査結果)を通知
a. 会計監査人が、特定取締役と特定監査役に、監査報告の内容を通知する。
b. 特定監査役が、特定取締役と会計監査人に、監査報告の内容を通知する。
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5)取締役会(通称、決算取締役会)を開催して次の2つの決議を行う。
a. 監査役・会計監査人の監査を受けた計算書類と事業報告(附属明細書含む)並びに連結計算書類の承認の決議
b. 定時株主総会の招集の決議
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6) 定時株主総会の2週間前までに、招集通知を作成して発送
上場会社は法定の2種類(定時株主総会招集通知、議決権行使書面)を発送する。
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7) 定時株主総会の2週間前から本店と支店に計算書類等を備え置いて、閲覧に対応
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8) 直前の準備
a. 想定問答集(Q&A)の作成
b. 会場設営
「最寄駅から門迄」「門・ビル入口から会場迄」「会場」に分けて担当者を決める。
c. 進行要領(シナリオ)、スクリーン映像の作成
株主総会の運営・進行の瑕疵によって決議が取り消されることがないよう、事前に要点を整理し、進行シナリオ[5]を作成することが極めて重要である。
説明は、役員が株主に対する説明義務を果たすこと、決議方法が著しく不公正にならないこと、の2点に留意する。
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(注) 説明の「拒絶事由」として法令で認められる事項を確認しておく。
株主総会の目的事項に関しないもの、株主の共同の利益を著しく害する回答等
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d. リハーサル(議事運営と会場整理)
e. 出席株主を予想し、対応方法を確認
(3) 株主総会当日の運営
株主総会の当日は、①セキュリティーを確保すること、及び、②株主総会を有効に成立させること、を実現しなければならない。終了後に③会社のファンが増加すれば、最大の成果を上げたことになる。
会場の受付では、(1)株主又はその代理人である資格を確認するとともに、非株主の入場を規制し、(2)議決権行使書に印刷されたバーコードを読み取る等して議決権の二重行使を防ぎ、出席株主数・出席議決件数を確定する。
多くの企業が、株主総会の前後に、出席者に対して手土産手交、新製品紹介、幹部との意見交換会等を実施してファンづくりに努めている。
(4) 株主総会終了後に行う事項
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1) 株主総会後に取締役会を開催
(決議すべき事項)代表取締役選任、役付取締役選任、取締役の賞与・月額報酬の決定、社外役員との責任限定契約承認、利益相反取引の承認(包括) 等
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2) 議事録の作成・備置(株主総会および取締役会の議事録は、本店に備え置く)
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3) 議決権行使書・委任状の備置
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4) 変更登記(役員変更その他の登記事項を法務局に登記する)
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5) 決議通知・配当金支払い関係書類・事業報告書(アニュアルレポート)を株主に送付
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6) 有価証券報告書を作成・提出 決算期経過後3か月以内
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7) 決算公告(会社法440条。有価証券報告書提出会社は免除される)
- 8) 配当金支払い開始
[1] 1997年の商法改正で「利益供与要求罪(497条2項、3項)」が導入され、会社法に引き継がれている。
[2] 会社法124条2~3項。なお、会社の公告については、定款に「当会社の公告方法は、電子公告とする。事故その他やむを得ない事情により電子公告をできない場合は、××新聞に掲載して行う。」旨を定める例が多い。
[3] 法律上は、取締役会の事前承認は不要だが、取締役会で「計算書類を監査役と会計監査人に提出する」ことを承認したうえで提出し、同時に決算短信を発表する企業が多い。
[4] 会社によっては、監査等委員会、監査委員会。
[5] 個々の議案ごとに上程・審議・採決する「個別上程・個別審議方式」と、全議案を一括して上程・審議・採決する「一括上程・一括審議方式」がある。