◇SH1490◇コンプライアンス経営とCSR経営の組織論的考察(24)―合併組織のコミュニケーション 岩倉秀雄(2017/11/10)

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コンプライアンス経営とCSR経営の組織論的考察(24)

――合併組織のコミュニケーション――

経営倫理実践研究センターフェロー

岩 倉 秀 雄

 

 前回は、コンフリクトが顕在化しやすい合併組織におけるコミュニケーションについて、管理職の役割やリーダーシップを踏まえて考察した。

 合併組織の管理職には、密接なコミュニケーションと自由な意見交換により物事を進める民主的なリーダーシップが望まれる。また、組織としては、業務に関する教育・訓練だけではなく、特にコミュニケーションの強化、チーム力強化(チームへの貢献を評価し人事考課に反映する)、職場ルールやコンプライアンスの徹底、人権への配慮、うつ病の予防等が重要になる。

 今回は、コンプライアンス部門と内部監査部門の連携について考察する。

 

【コンプライアンス部門と内部監査部門の連携】

 内部監査部門とコンプライアンス部門が分かれている場合、内部監査項目にコンプライアンスの遵守状況と職場コミュニケーションの状況の確認・検証を入れることは、コンプライアンス上の問題が深刻化する前に監査対象部署の課題を把握し対策を講ずることができる、あるいは現に発生しているコンプライアンス上の問題を発見することができるので、重要である。

 ただし、内部監査部門は、コンプライアンス部門ほど監査対象部署のコンプライアンス状況について把握していないので、両部門は密接に連携し監査前に情報交換を十分にしておく必要がある。必要によっては、内部監査部門とコンプライアンス部門が、共同で監査をすることが、互いのスキルを補完できるので効果的である。

 特に、あらゆる面で混乱しがちな合併組織設立の初期においては、親会社だけではなく子会社に対しても、共同のコンプライアンス監査がリスクの早期発見・対応に有益である。

 内部監査を実施する場合には、事前にコンプライアンスアンケート結果を確認して監査対象部署のリスクを把握しておくことや、部署長へのヒアリングでは、部署長だけではなく一般従業員にもヒアリングを行い、回答の裏づけを得る必要がある。

 なぜなら、往々にして部署長は、自己の管理責任に関わる問題については受けの良い回答をしがちであり、場合によっては現場のリスクを把握していないこともあるからである。(筆者も、所属長と一般職員のヒアリング結果が食い違うケースを度々経験した。)

 また、監査実施者が他部門からのリアクションを恐れ、内部監査でコンプライアンスチェックを行なうことに抵抗やためらいを示す者が出る場合もある。

 その場合には、内部監査でコンプライアンスチェックをすることの意義と重要性や、組織がコンプライアンスで失敗した場合の組織全体への影響等を伝え理解を得るとともに、問題が発生した場合には、(内部監査の最終責任は代表取締役社長にあるが)担当役員が責任を持って対応することを伝え、実施を促す必要がある。

 なお、筆者の知るある組織では、非常にまじめにコンプライアンスに取り組んだ者が左遷されたために、その後内部監査部門やコンプライアンス部門に配属された者が、思い切った取組みができず、他部門のリアクションを気にしすぎる悪しき習慣に陥ったケースがあった。

 これは、担当者の資質の問題ではなく、人事権をもつ経営者の見識や判断の重要性を示すものである。すなわち、内部監査部門やコンプライアンス部門の業務のように自組織内の他部門をチェックする仕事は、他部門からみれば煙たいものなので、経営者のバックアップがなければ厳正に業務を遂行することが難しいことを示している。

 最近は、ガバナンスやスチュワードシップ等の重要性が叫ばれ、組織においてもこれに対応するための体制整備が進みつつあるものの、実際の運用では、コンプライアンスや内部統制は、経営者の力量・資質・経営哲学・倫理観やそれらを反映した組織風土(文化が表層に現れたもの、いわゆる統制環境)による影響を受けるのである。

 したがって、内部統制を強化し有効に機能させるためには、監査テクニックを磨くという技術レベルの問題よりも、経営者の自覚と責任ある行動により組織内にメッセージ(含む暗黙のメッセージ)を発信し、統制環境を整備する(コンプライアンス経営を組織文化に浸透・定着させる)ことが重要になる。

 

 今回は、コンフリクトの顕在化を抑制する統制力強化の観点から、内部監査時におけるコンプライアンス・コミュニケーション状況の確認・検証の必要性と、そのためにコンプライアンス部門と内部監査部門が連携することの重要性を述べた。

 また、現実に内部統制力を働かせるためには、経営者が統制環境を強化・整備する必要性があることについても述べた。

 次回は、統制力としての労働組合の役割について考察する。

 

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