◇SH1667◇債権法改正後の民法の未来11 債権者代位権(5・完) 髙尾慎一郎(2018/02/23)

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債権法改正後の民法の未来 11
債権者代位権(5・完)

--事実上の優先弁済--

梅田中央法律事務所

弁護士 髙 尾 慎一郎

 

Ⅴ 今後の参考になる議論

2 債権回収機能としての事実上の優先弁済の当否

(エ)今後の検討事項

 (A)事実上の優先弁済機能を存続させるべきとする見解は、かかる機能の必要性を強調するものと思われる。

 しかしながら、事実上の優先弁済が機能する場面は、債務者が既に倒産していたり無気力となっている場合がほとんどであろうが、かかる場合であれば、債権者が債務者に対する債務名義を取得することも容易であろうし、費用がいたずらに必要となる場合も少なかろう。

 そうであれば、その必要性を過大に評価すべきではないとも思われ、理論上事実上の優先弁済を肯定する根拠に乏しい以上、今回の改正にて事実上の優先弁済を否定する規定が置かれなかったとしても、今後はこれを限定していく方向に議論が進むべきであろう。

 そして、「相殺禁止規定を置かないとしても、相殺権濫用の法理などによって相殺が制限されることも考えられ、とりわけ個別の事案における債権者平等の観点からそのような判断がなされることは十分にあり得る」ことから、「相殺禁止の規律について明文の規定を置くことは見送ることとし、実務の運用や解釈等に委ねることとした」とされており(部会資料73A 31頁)、今後は、いかなる場合に事実上の優先弁済が否定されるのか、その議論の集積を待つこととなる。

 (B)なお、本改正においては、債権者代位権が行使されても、債務者は、当該権利について、自ら取立てその他の処分することが可能とされ、第三債務者も、当該権利について、債務者に対して履行することは妨げられないとされ(改正法423条の5)、債権者が代位行使に着手し、債務者がその通知を受けるか、またはその権利行使を了知したときは、債務者に対して処分禁止効が生じるとする判例法理(大判昭和14・5・16民集18巻557頁)を変更した。

 民事保全手続を利用した場合、保全決定をうけ保証金を納付して初めて債務者に処分禁止効が生じるにもかかわらず、債権者代位権を行使した場合に、これを通知し又は債務者がこのことを了知しただけで処分禁止効が生じるのは不均衡であるとの批判から、上記判例法理を否定することとなった。

 すなわち、この点を見れば、本改正は、あくまで債務者の責任財産を保全し債権者が債権回収するためには民事保全・民事執行を優先させるべきとの発想のもと、債権者代位権はその効果を限定的なものにし、重い法的効果を生じさせない身軽な制度にしようとの発想にて行われたものと評価できる。

 事実上の優先弁済を否定しなかったことは、この発想と相反するものであり、整合性を欠くといい得る。

 この点からも、事実上の優先弁済の範囲を限定的に解釈していくべきであると思われる。

以上

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