◇SH3273◇ベトナム:PPP法の成立④ 澤山啓伍(2020/08/20)

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ベトナム:PPP法の成立④

長島・大野・常松法律事務所

弁護士 澤 山 啓 伍

(承前)

⑼ 契約交渉及び契約締結

 PPP案件を実施する民間事業者は、所轄の政府機関との間での権利義務関係を定めるプロジェクト契約を締結する。政令第63号では、①プロジェクト契約は選定された民間事業者と政府機関との間で直接締結され、その後民間事業者が設立した事業会社がその契約に参加するか、契約上の権利義務を承継する契約を締結する形で当事者となる方式、及び②当初から民間事業者と事業会社が共同で政府機関との間で契約を締結する方法を定めていた。PPP法では、後者のみが規定されている。なお、共同事業者である場合には、全ての構成員が契約に署名・捺印する必要がある。通常諸外国では、民間事業者は、PPP契約を事業会社と政府機関との間で締結させ、自らは必要な範囲でスポンサーサポート契約の当事者に留まることで、特別目的会社である事業会社の株主としての有限責任を確保する形を取っているが、上記の形式となっていることで、民間事業会社は事業運営について直接無限責任を負うことになることが懸念される。

契約内容

 プロジェクト契約の内容に関しては、政令第63号と比較して、契約に記載すべき事項として列記されている項目が増えているほか、内容的な面では、以下の点が重要である。

  1. •  政令第63号では、外国投資家が当事者となるプロジェクト契約等について外国法準拠とすることが認められていたが、PPP法では、ベトナム国家機関と民間事業者、事業会社との間のプロジェクト契約及び関連契約は、ベトナム法準拠となることが明記されている。また、ベトナム法に定めがない問題については当事者間で合意できるが、ベトナム法の原則に反してはならないとされている。巨額かつ長期の投資を前提とするPPPのプロジェクト契約において、ベトナム法準拠とすることが外資の民間事業者及び金融機関には受け入れられない可能性が高く、この点は外資参入に際して大きな障害となりうる。
  2. •  政令第63号では、外国投資家又は外国投資家が設立した事業会社と政府機関との間の紛争については、ベトナム法に従って当事者が合意した仲裁機関による仲裁(外国仲裁を含むものと思われる)による解決が認められていた。PPP法においては、これらの紛争が、契約における別段の合意又はベトナムが加盟国である国際条約における別段の定めがある場合を除き、ベトナム仲裁またはベトナム裁判所で解決されるとなっており、契約において外国仲裁を紛争解決手段として合意することも排除されていない。
  3. •  政令第63号にあった、政府による国営企業の原料供給や製品購入義務の履行保証がありうるという旨の規定は削除された。ベトナムのPPPでは国営企業が原料供給者や製品購入者(オフテイカー)になる場合が多いため、そういった場合の政府保証を一切認めないという趣旨であれば大きな問題である。
  4. •  政令第63号にも記載されていた、国がプロジェクトの期間中に土地の使用目的の変更を行わないこと、正当な補償のない収用はされないこと、といった一般的規定は、PPP法でも同様に規定されている。

外貨兌換保証

 他方、ベトナムでのPPP案件への参入を検討する多くの外国投資家にとって長年の懸念事項である外貨兌換保証(ベトナム国内での外貨不足リスクに対応するための、国によるベトナムドンから外貨への兌換の保証)については、政令第63号では、「時期の社会経済の発展の傾向、外貨管理政策、外貨バランス可能及びプロジェクトの目標又は性質に応じて所轄の政府当局、省級人民委員会が国家銀行と調整の上首相に提案する」という抽象的、拘束力の弱い表現が規定されているにすぎず、どのような案件であれば外貨兌換保証が与えられるのかに関する基準は依然として明確でなかった。PPP法では、国家、首相が投資方針を決定したプロジェクトについては、以下の外貨兌換保証が適用されることとしている。

  1. 兌換保証の履行条件:事業会社が、外貨に関する法令の定めるところにより、経常取引、資本取引及びその他の取引または外国へ資本、利益等を移転するために外貨購入権を行使したが、市場が事業会社の適法な外貨需要を満たすことができない場合。
  2. 外貨兌換保証の限度:ベトナムドンによるプロジェクトの収入から、ベトナムドンによるプロジェクトの支出を控除した後の金額の、30%以内

収益リスクのシェア

 ベトナムの特に交通PPP案件では、通行料収入などのマーケットリスクを取った事業者の収入が、事前の計画を大幅に下回るケースが相次いでいる。そのような状況に鑑みて、PPP法では、以下のような、収益リスクを官民でシェアする規定が盛り込まれている。

 まず、PPP事業から得られる収益がPPP契約に定められた財務計画における収益の125%を上回る場合には、サービス価格の調整などを行った上で、125%を上回る部分の50%を政府に分配することになっている。

 逆に、BOT、BTO又はBOO形式を採っているPPP事業による収益がPPP契約に定められた財務計画における収益の75%を下回る場合であって、一定の条件を満たす場合には、75%を下回る部分の50%を政府が負担することになっている。このような政府負担の仕組みについては、投資方針決定において規定されている必要がある。

 

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