◇SH1540◇実学・企業法務(第100回) 齋藤憲道(2017/12/11)

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実学・企業法務(第100回)

第3章 会社全体で一元的に構築する経営管理の仕組み

同志社大学法学部

企業法務教育スーパーバイザー

齋 藤 憲 道

 

2. 金融商品取引法・上場規則の考え方

(1) 法令の要請(金融商品取引法等)

「確認書」 会社(代表者、最高財務責任者)が作成する。 □

 企業の代表者及び最高財務責任者は、自社の法定開示書類(有価証券報告書、四半期報告書、半期報告書)の内容の適正性を自ら確認する「確認書」を、原則として電子開示システムで提出しなければならない[1]

 日本が内部統制報告制度を導入したときに、米国の企業改革法(2002年)[2]を参考にして「確認書」制度が合わせて導入された。有価証券報告書等に虚偽記載があった場合に、経営者が「知らなかった」と言って逃げるのは許されない。確認書の不提出は30万円以下の過料等[3]

 なお、確認書の虚偽記載には罰則が無いが、これは、有価証券報告書の不実記載の罰則で担保されることによる[4]

「内部統制報告書[5] 会社(代表者、最高財務責任者)が作成する。   

 2006年(平成18年)に制定された金融商品取引法により、上場会社及び店頭登録会社[6](以下、本項で「上場会社等」という。)を対象に、財務報告が法令等[7]に従って適正に作成されるための体制を備えていること(財務報告に係る内部統制)について、⑴経営者による自己評価結果を記す「内部統制報告書」と、⑵公認会計士(又は、監査法人)による第三者監査結果を記す「内部統制監査報告書」の作成が義務付けられている[8]

 会社は、⑴及び⑵の報告書を「有価証券報告書」と併せて内閣総理大臣(実務は、財務局)に提出しなければならない[9]

  1. (注) 内部統制報告制度は、実務負担の軽減に配慮して制度設計された。
    導入当初から、財務諸表の作成者・監査人・その他の関係者が過度のコストを負担することが懸念され、評価・監査に係るコスト負担が過大にならないように米国の先行例を検証して、⑴「トップ・ダウン型のリスク・アプローチ」の活用や、⑵「ダイレクト・レポーティング(直接報告業務)」の不採用、等の方策が採られた。
    「内部統制報告書」は、⑴内部統制府令(内閣府令)[10]、⑵財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準、実施基準(企業会計審議会)[11]、⑶その他一般に公正妥当と認められる基準・慣行(公認会計士協会の実務指針等)[12]、を基準として評価した結果をもって作成する[13]

〔記載事項[14]〕     ○□◇☆

 ⑴代表者の役職名、⑵財務報告に係る内部統制の基本的枠組みに関する事項、⑶評価の範囲、基準日及び評価手続に関する事項、⑷評価結果に関する事項、⑸付記事項(後発事象等)、⑹特記事項。

「内部統制監査報告書」

公認会計士(又は、監査法人)が作成して取締役会に提出した[15]ものを提出する。

 「内部統制報告書」は、公認会計士(又は、監査法人)による監査証明を受ける。監査法人等の意見表明は、決算と同様の方法によって行われる。即ち、「無限定適正意見」「除外事項を付した限定付適正意見」「不適正意見」のいずれかで行うが、重要な監査手続きが実施されなかったこと等により意見表明のための合理的な基礎を得られなかったときは「意見不表明」とする旨を監査報告書に記載する[16]



[1] EDINETを通じて提出する。金融商品取引法24条の4の2第1項、24 条の4の8第2項、24条の5の2第2項、27条の30の2、27条の30の3第1項

[2] Sarbanes-Oxley Act サーベンス・オクスレイ法(通称、SOX法)

[3] 金融商品取引法208条2号。209条3号、4号

[4] 神田秀樹=黒沼悦郎=松尾直彦編著『金融商品取引法コンメンタール1――定義・開示制度』(商事法務、2016)580頁

[5] 金融商品取引法(2006年(平成18年6月)に証券取引法が改正・改題された)24条の4の4第1項、第2項

[6] 金融商品取引法23条の3第4項、24条1項1号

[7] 内部統制府令、内部統制の基準・実施基準

[8] 金融商品取引法193条の2第2項

[9] 金融商品取引法24条の4の4第1項

[10] 財務計算に関する書類その他の情報の適正性を確保するための体制に関する内閣府令(平成19年内閣府令第62号)の通称。

[11] 2007年設定、2010年改訂。金融証券取引法24条の4の4第1項、内部統制府令1条4項

[12] トヨタ自動車及びソニーは、米国トレッドウェイ委員会支援組織委員会が公表した「内部統制の統合的枠組み(2013年版)」で確立された基準に基づき、財務報告に係る内部統制を整備及び運用している。また、両社は、日本の内部統制府令18条に基づき、米国SOX法404条により要求されている米国内部統制基準に基づく有効性の評価を実施して、内部統制報告を行っている。(両社の2017年6月の内部統制報告書より)

[13] 金融商品取引法24条の4の4第1項。内部統制府令1条1項、同条3項、3条

[14] 財務計算に関する書類その他の情報の適正性を確保するための体制に関する内閣府令4条1項1号(第1号様式)。外国会社の場合は第2号様式による。

[15] 金融商品取引法24条の4の4第1項、193条の2第2項、内部統制府令1条1項、3項

[16] 内部統制府令6条5項、6項、7項

 

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