◇SH1570◇会社法339条2項の解釈の検討(4・完) 岩本文男(2017/12/28)

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会社法339条2項の解釈の検討(4・完)

--東京地裁平成29年1月26日判決の検討--

近畿大学法科大学院准教授

弁護士 岩 本 文 男

 

第3 検討

4 損害について

(1) 会社法339条2項の「損害」の範囲について

 判例・通説によれば、同項の「損害」の範囲は、解任されなければ残存任期中及び任期満了時に得られたであろう利益の喪失による損害であると解されている[xii]

 この点、本判決は、同項の損害は「当該解任がなければ当該役員が残存任期中及び任期終了時に得ていたであろう利益の喪失による損害をいう」と判示しており、判例・通説に立つことを明らかにしている。

(2) 取締役と会社との間の合意とによる339条2項の関係

  1. ア 本判決の判示
  2.    本件において、被告らは、本件委任契約には会社の解除権及び解除に伴う処理が具体的に規定されているから、会社法339条2項において保護すべき取締役の損失(委任契約に基づく期待権の喪失)は生じないと主張した。
     しかし、本判決は、委任契約においてそのような規定が存在していたとしても、そのことをもって取締役の任期に対する期待権が生じないと解することはできず、同項の「損害」を観念することができないともいえないと判示して、被告らの主張を斥けた。
     
  3. イ 会社法339条2項の強行法規性
  4.    この点、本判決の判示からは、本判決が、会社と取締役の合意によって会社法339条2項の適用を排除することは認められない(すなわち、会社法339条2項は強行法規である)旨を明らかにしたものと解する余地はある。しかし、以下のとおり、本件委任契約の内容や本判決の判示からは、本判決がいかなる場合でも取締役と会社との合意によって会社法339条2項の適用を排除することが一切許されない(あるいは、取締役と会社との合意によって同項の「損害」を限定することが一切許されない)ことを明らかにしたとまではいえないのではないかと思われる。
     確かに、本件委任契約においては、被告Y2が本件委任契約をいつでも解除できること、その場合には被告Y2が原告に対して所定の退職一時金を支払う義務を負うことは定められている。しかし、他方で、本件委任契約には、原告が解任された場合に、原告には退職一時金しか支払われず、その他の報酬等は一切支払われないことまでが明確に定められているとはいえないように思われる。したがって、本件委任契約が取締役の解任時の原告の損害額を明確に限定する(解任時に原告が請求できるのは退職一時金のみであって、その他の報酬等は一切請求できない)趣旨の合意といえるかについては疑問が残る。
     そうすると、本判決は、本件委任契約の内容が必ずしも解任時の損害を明確に限定したものとはいえない(したがって、同契約によって339条2項の適用が排除されるとまではいえない)として、同項の「損害」がないとはいえないと判断したものにすぎず、一般論として、取締役と会社の合意による同項の適用排除を認めないことを示したものではないとも評価できるのではないかと思われる。
     
  5. ウ 判例・学説の状況
  6.    取締役と会社との合意による会社法339条2項の適用排除の可能性について判示した裁判例は、公刊されているものでは本判決以外には見当たらなかった[xiii]。他方、学説においては、会社と取締役との間の特約や定款の規定により、取締役の解任時の損害の範囲を限定することは認められるとの見解が存在する[xiv]
     
  7. エ 私見
  8.    実務上、取締役に就任する際に本件委任契約のような契約(取締役任用契約ともいう)を締結するケースは多くはないと思われるが、あえて取締役任用契約を締結するようなケースでは、取締役が解任された場合の会社の損害賠償額を限定する旨の合意をすることも少なくないのではないかと思われる。そして、そのような合意は、会社と取締役との間であらかじめ解任時の損害額を明確に定めておくという意味で、契約当事者にとって有用性が認められるといえるのであるから、いかなる場合にもこのような合意の効力を否定する必要はないと思われる。
     また、仮に、このような合意の効力が一切否定されることになれば、正当な理由なく解任された取締役は常に残存任期分の役員報酬を請求できることになるが、そのような結論が妥当ではないケースも想定される。たとえば、取締役に就任する際に、取締役と会社との間で、取締役を解任された場合の賠償額を限定するかわりに任期中の取締役の報酬については高額の報酬を支給するといった合意をした場合、会社としては、当該取締役に支給する多額の役員報酬は解任時の賠償額が限定されていることを前提とするものであるといえるが、それにもかかわらず、取締役が正当な理由なく解任された場合に、当該合意の効力が否定され、会社としては常に残存任期分の高額の報酬を損害として賠償する義務を負うというのは、会社にとって酷であるし、契約当事者の意思にも反するため、妥当ではない。
     会社法339条2項を会社による解任の自由と取締役の任期に対する期待の保護との調和を図る趣旨の規定と解するのであれば、解任による損害額の範囲は、取締役の任期に対する期待をどの程度保護すべきかによって変わってくると考えるのが自然である。そして、会社と取締役との間で解任時の損害賠償額を明確に限定するような合意が予めなされた場合には、当該合意の内容や当該合意が締結された状況等によっては、取締役の任期に対する期待を保護すべき程度も変わってくるといえるのであるから、その程度に応じて同項の損害が限定されると考えても不合理ではないと思われる。
     したがって、取締役と会社との間で解任時の賠償額の合意がなされた場合、当該合意の内容によっては会社法339条2項の適用が排除される(あるいは、当該合意により同項の「損害」が限定される)場合があることは認められるべきである。仮に本判決が取締役と会社との合意による同項の適用排除を一切認めないとする趣旨であるとすれば、本判決は妥当ではない。

(3) 各損害について

  1. ア 解任された取締役が会社に対して賠償請求できる損害の具体的内容について、任期満了まで及び任期満了時に得られたであろう役員報酬が含まれることについては争いがない[xv]。また、賞与や退職一時金については、任期を満了した場合には受給していた可能性が高いといえる場合には損害に含まれると解されている[xvi]
     他方、弁護士費用については、不当応訴等の特段の事情のない限りは損害に含まれないと解する学説が有力である[xvii]
     
  2. イ この点、本判決は、残存任期分の役員報酬額と退職一時金のみを損害として認めており、上記の考え方に沿ったものであるといえる。
     なお、本判決は、会社法339条2項の法的性質につき法定責任説に立つことを前提に、損害賠償債務は「商行為によって生じた債務」ではないとして、遅延損害金の法定利率は年5分としているが、法定責任説に立てば自然な帰結である。

 

第4 おわりに

 以上のとおり、本判決は、会社法339条2項の主要な論点について、基本的には従来の判例・通説に沿った判断を示したものと評価できる。もっとも、取締役と会社との合意と同項の関係については、不明確な部分が残されているため、この点については今後も議論がなされることになろう。今後の学説の展開や裁判例の集積が待たれるところである。



[xii] 前掲大阪高判昭和56・1・30、江頭・前掲注[vii] 395頁、加藤・前掲注[iii] 531頁。

[xiii] 東京地判平成27・1・28(LLI/DB判例番号L07030058)は、原告である元取締役が被告である株式会社に対して会社法339条2項に基づく損害賠償を求めた事案であり、当該事案において、被告は、同項は強行法規ではなく、会社と役員との間でこれに優先する特別の合意をすることを妨げないと主張したが(判決文を前提とする限り、原告も、同項が任意規定であることについては争っていなかったようである。)、判決においては、そのような合意自体が成立したと認めることはできないと判断されたため、合意による同項の排除の可能性についての判断は示されなかった。

[xiv] 今井潔「株主総会の決議による取締役解任」北沢正啓先生還暦記念『現代株式会社法の課題』(有斐閣、1986)350頁は、任期満了前に取締役を解任する場合には損害を賠償しない旨の特約も有効であるとする。また、河村尚志「判批」判時2299号151頁は、小規模閉鎖会社において、取締役の任期を伸長しつつ定款で解任時の賠償額を少なくとも2年任期の場合と同額にまで限定することは可能であるとする。

[xv] 加藤・前掲注[iii] 531頁。

[xvi] 加藤・前掲注[iii] 531頁。

[xvii] 加藤・前掲注[iii] 532頁。

 

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