◇SH0099◇マレーシア:建設業に係る支払及び裁定に関する法(CIPAA)の施行 青木 大(2014/10/03)

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マレーシア:建設業に係る支払及び裁定に関する法(CIPAA)の施行

長島・大野・常松法律事務所

弁護士 青 木   大

 「建設業に係る支払い及び裁定に関する法」(The Construction Industry Payment and Adjudication Act (CIPAA) 2012)が2014年4月15日に施行された。同法は2012年6月18日に国会を通過していたが、下位法令(The Construction Industry Payment and Adjudication (Exemption) Order 2014及びThe Construction Industry Payment and Adjudication Regulations 2014)の制定に時間を要したため、約2年を経てこの度の施行となった。

 同法は、発注者による支払遅延や不払い等から請負者の保護を図る法律である。英国、オーストラリア、ニュージーランド、シンガポールなどの他のコモンロー諸国も類似の法制を既に有しており、特にマレーシア建設業界からその成立が長く待望されていたものである。

Ⅰ 適用対象(以下、括弧内の条項はCIPAAの条項を指す。)

  1. 同法はマレーシア国内においてその全部又は一部が行われる「建設契約(Construction Contract)」(4条で定義される。建設コンサルタント契約(Construction Consultancy Contract)も含む。)について適用され(2条)、当事者の国籍は問わない。ただし、自然人による小規模の建設契約は対象とならない(3条)。
  2. マレーシア政府との間の契約も原則としてその対象となるが、①緊急事態や国防などに関する建設契約及び②2000万リンギット以下の契約については適用除外されている(ただし後者は2015年末を期限とする。)(40条)。

 

Ⅱ 同法が規定する主な内容

  1. 建設契約の支払いに係る紛争についての裁定(Adjudication)への付託(後述)
  2. 第三者からの支払いを得た場合に限り支払いを行うなどの「条件付支払い」の禁止(35条)
  3. 契約に規定がない場合に適用される出来高払いの方法(36条)

 

Ⅲ 裁定手続の概要

  1. まず建設契約について不払い・遅延を受けた当事者は、相手方に対して支払請求(Payment Claim)を提出することができる(5条)。
  2. 当該支払請求が10営業日以内(6条3項)に認められない場合、当事者は紛争を裁定に付する権利を有する(7条)。
  3. 申立人はまず、裁定付託通知(Notice of Adjudication)を相手方に提出する(8条)。
  4. その後裁定人選定手続に入る。裁定付託通知後10営業日以内に当事者が裁定人について合意できない場合には、当事者の請求に基づきKLRCA(クアラルンプール地域仲裁センター)がこれを選定する(21条)。KLRCAは当事者の請求後5営業日以内に選定を行う(23条)。
  5. 裁定人選定後、10営業日以内に申立人は裁定請求書(Adjudication Claim)を提出する(9条1項)。
  6. 裁定請求書受領後10営業日以内に被申立人は裁定答弁書(Adjudication Response)を提出する(10条1項)。
  7. 裁定答弁書受領後5営業日以内に、申立人は裁定答弁書に対する反論書(Adjudication Reply)を提出する(11条1項)。
  8. 上記反論書が提出された後、裁定人は原則として45営業日以内に裁定判断(Adjudication Decision)を下さなければならない(12条2項)。
  9. 裁定判断は①裁判所によって取り消されるか、②当事者が和解するか、③最終的に仲裁判断が下されない限り、両当事者を拘束する(13条)。
  10. 裁定判断は、詐欺や賄賂、手続的不正義などの限定的な事由が認められる場合に限り裁判所によって取り消される(15条)。
  11. 裁定判断は裁判所に申請を行うことにより、判決と同様の執行力を有することとなる(28条)。当事者は仲裁や裁判などの契約で規定された紛争解決手続において当該判断内容を争うことはできるが、申立人は裁定に基づく支払いをまず受領することができることとなる。

 

Ⅳ まとめ

 以上のとおり、同法は、当事者が紛争解決手段として裁定手続を行うことに合意していたか否かにかかわらず、一方当事者の求めに基づき裁定手続を行うことを両当事者に義務付けるものである。裁判や仲裁等の当事者が合意した紛争解決手段によると、結論を得るのに相当の期間を要する場合が少なくないが、同法のもとでは、不払いを受けた当事者は迅速な裁定手続により(基本的には支払請求からおおむね100日以内で)ひとまず支払いを受けることが原則的に可能となる。

 なお、KLRCAのホームページによれば、同法は、同法の施行前に締結された建設契約についても遡及適用されるようである。したがって、上述の適用除外対象を除き、「建設契約」に該当する契約の支払いに係る紛争は、その契約締結時期を問わず、同法に基づく裁定に付される可能性が今後生じることになる。

 

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