実学・企業法務(第105回)
第3章 会社全体で一元的に構築する経営管理の仕組み
同志社大学法学部
企業法務教育スーパーバイザー
齋 藤 憲 道
3. 高度経済成長期後半からバブル経済期 1965~1990年
-日本の製造業が世界最強といわれる程の競争力を持ち、事業のグローバル化が進んだ時期-
高度成長経済がピークを迎える東京オリンピック(1964年)頃から不況になると大規模粉飾決算が相次いで発覚[1]し、監査機能の強化が進められた。
- 1966年(昭和41年) 公認会計士法改正
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日本公認会計士協会が公認会計士法に基づく特殊法人(以前は、社団法人)とされて強制加入団体になり、公認会計士の立場が強化された[2]。
また、監査法人が制度化され、5人以上の公認会計士の共同組織体(合名会社の性格)[3]による監査の充実が図られた。 - 1974年(昭和49年) 商法改正、商法特例法制定
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大型倒産と粉飾決算が続発したのを受けて、監査役の権限が強化され、監査役が会計監査に加えて再び業務監査(適法性監査)[4]を担当することとなった。
監査役には営業報告徴収権と業務財産状況調査権が付与され[5]、親会社の監査役は子会社についても基本的にこの両権限を有する[6]。
監査役は、取締役会に出席して意見を述べることができ、取締役の法律・定款に違反する行為に対する差止請求権を有すること、会社と取締役との間の訴訟について会社を代表すること、及び、株主総会において監査役の選任・解任につき意見を述べることができること、が明記された[7]。監査役の任期は2年(以前は、1年)とされた。
この監査役制度が原型となって、後年の監査役権限の強化が進められる。
商法特例法[8]が制定され、「大会社(資本金5億円以上)」の会計監査について、それまでの監査役監査に加えて会計監査人による監査が義務付けられた[9]。「大会社」では、①会計監査人監査と、②監査役監査の二重監査が行われる。
会計監査人は監査役に対して報告し、その監査の方法又は結果が相当でないと認めた監査役は、自ら会計監査を行う[10]。 - (注) 1974年に、日本監査役協会[11]が設立された。
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一方、「小会社(資本金1億円以下)」及び「中会社(資本金1億円超、かつ、5億円未満)」には、会計監査人の監査を受ける義務がない。
なお、監査役は、「大会社」及び「中会社」では業務監査と会計監査を行う(商法274条)が、「小会社」では会計監査のみ(商法特例法25条)である。
会社と取締役の間の訴訟については、監査役が会社を代表する[12]。 - 1981年(昭和56年) 商法改正、商法特例法改正
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監査役に関して、取締役の法令・定款違反を認めた場合に取締役会に対して報告する義務を課し、必要があるときに取締役会の招集を請求できる[13]ことにした。また、支配人その他の使用人(従業員)に対する報告請求権が明記された[14]。
監査役報酬額は、定款又は株主総会決議で取締役報酬とは別に定めることとし、監査役の職務執行費用は会社が弁済すべきことも明記された[15]。
さらに、株主総会が取締役の競業を認許する制度を止めて取締役会の承認事項とし[16]、利益相反取引(間接取引を含む)については、取締役会の承認事項とされた。
取締役会は、重要な業務執行の決定を代表取締役に一任できないことを明らかにし、取締役から少なくとも3カ月に1回は業務執行の状況の報告を受けるべきこととされた[17]。 -
(注) 総会屋対策
昭和56年の商法改正で、会社が総会屋等に無償の利益供与を行うことが禁じられ、1997年(平成9年)の商法改正で利益供与要求罪が導入されて、総会屋が利益供与を要求しただけで処罰されることになった。この後、総会屋は大幅に減って、株主総会運営の適正化が進んだ。 - 商法特例法の改正で、「大会社」の定義に「負債金額200億円以上」の会社を追加して会計監査人の監査対象を拡大する(2条)とともに、「大会社」に複数監査役と常勤監査役の選任を義務付け(18条)、会計監査人を株主総会(以前は、取締役会)で選任することとされた(3条)。
- (注1)「大会社」では、監査役の会計監査人に対する一般的報告請求権[18]が創設されて両者の連携が強化され、貸借対照表・損益計算書は会計監査人と監査役の適法意見[19]がある場合は、株主総会の承認が不要となり、定時株主総会に書類を提出して内容を報告することとされた。
- (注2) 会計監査人(公認会計士)の担当領域が拡大することに対して、税理士会の反対があった。
[1] 1964年(サンウェーブ工業、日本特殊鋼、富士車輛等)、61年(山陽特殊製鋼、ゼネラル、日東紡績等)
[2] 昭和41年改正公認会計士法43条
[3] 昭和41年改正公認会計士法34条の4。なお、現在の公認会計士法第5章の2「監査法人」を参照。
[4] 昭和49年改正商法274条は、監査役が取締役の職務の執行を監査する旨を定めており、会計監査と業務監査を担当する。ただし、適法性監査のみか妥当性監査を含むのかについては議論があった。いずれにしても、経営監視機能を果たすことが本旨であり、観念論に終始することの実益は乏しい。
[5] 昭和49年改正商法274条2項
[6] 昭和49年改正商法274条ノ3
[7] 昭和49年改正商法260条ノ3、275条ノ2、275条ノ3
[8] 株式会社の監査等に関する商法の特例に関する法律(昭和49年4月2日制定)
[9] 商法特例法2条
[10] 商法特例法8条、13条3項、14条1項、同条2項
[11] 監査役監査制度の調査、研究、普及・啓発活動等を通じて監査品質の向上を図る実務家の団体。
[12] 昭和49年改正商法275条ノ4
[13] 昭和49年改正商法260条ノ3第2項~4項
[14] 昭和49年改正商法274条
[15] 昭和49年改正商法279条ノ2
[16] 昭和49年改正商法264条、265条
[17] 昭和56年改正商法260条
[18] 昭和56年改正商法特例法8条2項
[19] 従来、計算書類と附属明細書の監査報告書は、会計監査人と監査役がそれぞれ作成・報告していたが、附属明細書の提出時期を早めて各2種類の監査報告書が一体化された。なお、「大会社の監査報告書に関する規則」(昭和57年法務省令)により開示の透明度が高まったとされる。