◇SH1584◇コンプライアンス経営とCSR経営の組織論的考察(39)―第4ステップ「行動宣言」の採択と第2ステージ 岩倉秀雄(2018/01/16)

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コンプライアンス経営とCSR経営の組織論的考察(39)

―第4ステップ「行動宣言」の採択と第2ステージ―

経営倫理実践研究センターフェロー

岩 倉 秀 雄

 

 前回は、第3ステップに取り組んだ事務局員の感想と、第4ステップ「行動宣言」を採択するために招集した全国事務局会議について述べた。

 今回は、会議で採択された3つの行動宣言について述べる。

 

【第4ステップ「行動宣言」の採択と第2ステージ】

 全国事務局会議では、以下の3つの行動宣言を採択して運動の第1ステージを終了した。
 

  1. 行動宣言1.
  2.  私たちは、消費生活者の安心と酪農生産者を結ぶスペシャリストになります
     
  3.  <考え方>
  4.    当会は、酪農生産者の生産物を安心・安全な商品として消費生活者に届けると同時に、良質で安価な酪農生産資材を酪農家へ供給することを通して組織の役割を果たしてきた。
     この役割は基本的に今後も変わらないが、その事業は酪農専門農協としてのより高いスペシャリティによって推進されなければならない。そのことが、総合農協とは異なる専門農協の存在価値に結びついている。
     「消費生活者の安心」をまず先に掲げたのは、事件によって消費生活者に牛乳に対する不安を与えたことを反省すると共に、生産者の立場を重視するあまり消費生活者の視点を忘れていたとの厳しい批判に応えたものである。
     「酪農生産者のロマン」とは、酪農生産者は酪農を通じて単に経済的利益のみを求めているのではなく、様々なロマン(情熱、希望、夢)を実現しようとしているものととらえているから[1]である。
     私たちは、組織の社会的存在意義を確認し、その実現に向けて行動することを宣言する。

 

  1. 行動宣言2.
  2.  私たちは、人を大切にする内外に開かれた組織を作ります。
     
  3.  <考え方>
  4.    今回の事件の原因の一つが、閉鎖的で上からの命令に無批判に従う組織風土に問題があったことから、2度と事件を起こさない組織風土を作ることが大切である。
     人を大切にし、多様な価値観を認め、言いたいことを堂々と誰に対しても話せる組織にならなければならない。組織の活力は、多様な価値観を認め、個性が発揮され、情報の共有がスムーズに行われる組織の中でこそ生まれる。
     これまでの組織に社会の視点を取り入れるためには、外部の有識者の意見を経営に反映する仕組みも必要になる。そのための組織として、分割した乳業子会社に評議会制度を設けた。自らが組織を構成していることを自覚し、「人を大切にする内外に開かれた組織」になるために行動しなければならない。

 

  1. 行動宣言3.
  2.  私たちは社会のルールを守り、良識ある行動を取ります。
     
  3.  <考え方>
  4.    社会のルールを守り良識ある行動を取るためには、関連法規について十分に学習し各人が遵法精神を徹底して持つことが必要である。また、組織が社会的存在であることから、当然、そこで働く職員も、まず組織人である前に社会人としての良識ある行動を求められる。

 

 上記の行動宣言を採択して、運動の第1ステージは終了した。

 第1ステージの取組みについては、内外から「この組織は自浄作用の働く健全な組織である」との評価を受け、それが信頼回復に役立ち取引再開にも貢献したことから、運動として成功した。

 それを追い風に、第2ステージの運動テーマを「21世紀の組織の在るべき姿を考える」に設定し、別会社化した乳業子会社を含むグループ全体の未来戦略を、草の根運動により一人ひとりが自ら考え構築に参加することを目指した。

 しかし、このテーマは、通常の組織では経営企画部門が業務として実施する戦略課題であり、経営再建が最大テーマの中、日常業務に忙殺されている現場を巻き込むのには無理があった。

 一方、当時、事件による本所のスリム化の一環として経営企画部門が廃止され[2]、筆者は品質保証部お客様センターから管理部に異動したが、管理部のミッションは経営再建であり、未来を企画することではないために、当時の組織にはこの課題を十分にこなす体制は無かった。

 筆者は、草の根運動でこの第2ステージのテーマを遂行することは難しいと感じ、組織風土改革運動の第2ステージを専門に行う公式プロジェクトの新設を提案したが、受け入れられなかった。

 1999年2月からは、筆者の手を離れ、総務部広報グループ所管の「チャレンジ21」運動として第2ステージをスタートさせた。しかし、現場の参加が十分に得られなかったために、運動は盛り上がらず休眠状態に入り、その後自然消滅した。

 

 次回からは、この組織風土改革運動を総括し、運動の成功と失敗を組織論の視点から検討するとともに、その後の取組みの方向についても考察する。

 不祥事発生組織が、信頼回復を目指して組織風土改革運動を実施する場合に、筆者の実践を踏まえた助言として参考になれば、幸いである。



[1] 筆者は、これまでの優良酪農家との交流を通して痛切に感じていた。

[2] その決定を聞いた時には、非常時に経営の中枢を担うべき経営企画部門を廃止することは信じられず、筆者は関係者に猛抗議をしたが、その情報を得たのは組織決定後だった。「移行過程のマネジメント」で考察した非常時には混乱が生まれ、組織内に主導権を取ろうとする様々なパワーの対立が発生する例であった。

 

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