◇SH1589◇実学・企業法務(第107回) 齋藤憲道(2018/01/18)

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実学・企業法務(第107回)

第3章 会社全体で一元的に構築する経営管理の仕組み

同志社大学法学部

企業法務教育スーパーバイザー

齋 藤 憲 道

 

(4) バブル経済崩壊期から「日本再興戦略 改訂2014」まで  1990~2014年

  1. 2000年(平成12年)商法改正  会社分割法制の創設(企業再編手続の充実)
  2.  
  3. 2001年(平成13年)商法改正、商法特例法改正
  4.    12月の商法改正[1]において、監査役の機能強化が図られ、監査役の任期が4年(以前は、3年)とされ、取締役会への出席義務・意見陳述義務が規定され、監査役(監査役本人を含む)の辞任について株主総会で意見陳述する権限が付与された[2]
     商法特例法の大会社については、社外監査役が半数以上(以前は、1人以上)とされた。
     また、株主代表訴訟制度が合理化される(監査役の考慮期間を30日から60日に伸長、株主代表訴訟が提起された旨の公告・通知、訴訟上の和解における取締役の責任の免除、監査役の同意に基づいて補助参加)とともに、善意・無重過失の取締役・監査役の責任を一定の条件の下で軽減することが可能になった[3]
  5.  (注) 2001年に、日本取締役協会が設立された。
  6.  
  7. 2002年(平成14年) 商法改正、商法特例法改正
  8.    商法改正は、会社機関・株式[4]・計算の広範囲に及んで行われた。
     商法特例法も改正され、「大会社」(又は、みなし大会社[5])について、定款で定めることにより委員会等設置会社[6]に移行することができる(従来の監査役設置会社との選択制)[7]こととされた。
  1. 〔委員会等設置会社の要点〕
  2. ① 会社の業務執行に係る多くの権限が、取締役会が選任した執行役に委ねられ、監査役を設置できない。取締役は執行役を兼務できるが、専任の取締役(任期は1年)は業務執行できない[8]
  3. ②「連結計算書類制度[9]」が導入され、監査委員会及び会計監査人の連結計算書類監査(即ち、企業グループ監査)を経て、取締役会の承認を受け、定時株主総会に提出・報告される[10]
  4. ③ 執行役が作成した計算書類について、各会計監査人及び監査委員会(各監査委員の意見の付記を含む)の適法意見があり、取締役会が利益処分(又は損失処理)案を承認すれば、利益処分が決定される(ただし、定時総会への提出・報告を要す)[11]

 このように、特に「大会社」において、毎年のように関係法令が改正[12]され、商法・商法特例法・証券取引法等の複数の法律に細分化されて規律が増えたが、全体を一元的に制度化することが望まれた。

  1. (注) 他の法律の変更(民事訴訟法、信託業法、仲裁法、破産法等)に伴う商法改正もあるが、商法の単独の改正が多かった。
  1. 2003年(平成15年)「有価証券報告書」に「コーポレート・ガバナンスの状況等」の項目を新設
  2.    内閣府令(開示府令)[13]が改正されて、有価証券届出書・有価証券報告書の「企業情報:提出会社の状況」の欄に「コーポレート・ガバナンスの状況」の項目が設けられ、2004年3月期の有価証券報告書から開示が始まった。
  3.  (注) この後、2010年に内閣府令[14]を改正して「コーポレート・ガバナンスの状況」を充実。
  4.  
  5. 2004年(平成16年) 東証が「上場会社コーポレート・ガバナンス原則」を公表
  6.    商法分野でコーポレート・ガバナンスを充実させるために統治機構の設計の自由度を高めたのに対応して次の原則が策定された[15]
  1. 「上場会社コーポレート・ガバナンス原則」の構成
    1.株主の権利 2.株主の平等性 3.コーポレート・ガバナンスにおけるステークホルダーとの関係 4.情報開示と透明性 5.取締役会・監査役(会)等の役割
  2. (注) この原則は2009年12月に改訂され、1.企業グループ全体として有効に機能すること、2.監査役の機能強化(監査役監査を支える人材・体制の確保、社外監査役の選任、財務・会計の知見を有する監査役の選任等)、3.ガバナンス体制の内容及びその体制を選択した理由の開示、が追加された。
  1. 2005年(平成17年) 会社法 制定
  2.    従来の商法(第2編)・商法特例法・有限会社法等の会社関係法令[16]が総合的に再構築されて「会社法」が制定された。
  1. 「会社法」が制定されて変わった主な点
  2. 1.商法・有限会社法・商法特例法等を統合して一つの法律にする。
     
  3. 2.実質的改正
  4. ① 規制緩和と選択肢拡大
    最低資本金制度を撤廃、合併対価を柔軟化、機関設計を柔軟化[17]、自己株式取得の解禁、株主総会開催地を自由化、会計監査人設置会社において定款により取締役会決議で剰余金配当を可能化[18]、取締役会の決議・報告手続きを簡便化、等
  5. ② 規律を強化
    取締役の解任決議を普通決議で可能に緩和、全ての大会社の取締役に内部統制システム構築義務[19]、内部統制システムの基本方針を事業報告に記載して株主に開示[20]、中小会社のうち会計監査人設置会社の連結計算書類作成を可能化、会計監査人を株主代表訴訟の対象に追加、会計参与制度を創設、小会社の監査役に業務監査権限を付与[21]、等
  1. 2006年(平成18年) 金融商品取引法 制定 「証券取引法」が改題され、関係法を吸収[22]
  2.    金融商品に関する広い分野を統一的に規律する「金融商品取引法」が制定された。
     このとき「内部統制報告制度」と「確認書制度」が導入された。
  3.  
  4. 2014年(平成26年) 会社法 改正[23]
  5.    2005年の会社法制定時から議論があった社外役員の起用や企業グループ規律の整備を含め、多角的な見直しが行われた。

改正の要点

  1. 1.社外取締役の機能の活用
  2.   ①「監査等委員会設置会社」制度を新設
  3. (注) 監査役を設置せず、3名以上の取締役[24](任期2年で短縮不可[25]、過半数は社外取締役[26])で構成する「監査等委員会」を新設して選択肢に加え、モニタリング機能の強化を図る[27]
  4.   ② 社外取締役・社外監査役の「社外要件」の厳格化[28]
  5.   ③ 社外取締役選任の促進
    監査役会設置会社(公開大会社かつ有価証券報告書提出会社の場合に限る)において社外取締役を置かない場合は、「社外取締役を置くことが相当でない理由」を定時株主総会で説明しなければならない[29]
     
  6. 2.監査・監視体制の強化・充実
  7.   ① 会計監査人の独立性の強化
    監査役(会)設置会社においては、株主総会に提出する「会計監査人の選任・解任等に関する議案」の内容を監査役(会)が決定する[30]
    ただし、監査役(会)は会計監査人の報酬については同意権のみを有し、決定権は持たない。
  8.   ② 責任限定契約を締結できる役員の範囲を、自ら業務執行に関与しない者に拡大[31]
     
  9. 3.グループ会社運営に関する規律の強化
  10.   ① 完全親会社の株主が、その完全子会社の取締役等の責任を追及できる多重代表訴訟制度[32]を導入
  11.   ② 組織再編の差止請求制度の対象を拡充[33]
  12.   ③ 詐害的会社分割によって害される債権者の保護規定を新設[34]

 


[1] 平成13年の商法改正(制定)は3次に分けて行われた。(6月)金庫株解禁、株式の大きさに関する規制緩和、法定準備金制度の改正。(11月)新株発行規制の緩和、種類株式制度の多様化、会社関係書類の電子化等(電磁的記録、議決権行使、計算書類公告)。(12月)監査役機能の強化、取締役等の責任軽減、代表訴訟制度の合理化。

[2] 平成13年改正商法273条1項、260条ノ3第1項、275条ノ3ノ3

[3] ①株主総会の特別決議、②定款規定に基づく取締役会決議、③定款規定に基づく社外取締役との事前の責任限定契約のいずれかにより、責任を負うべき最低限の額を、報酬等の何年分とするかにつき「代表取締役は6年分」、「社内取締役は4年分」、「社外取締役は2年分」、「監査役(社内外とも)は2年分」とした。(平成13年改正商法266条12項、17~19項)

[4] 株券失効制度の創設、所在不明株主の株式売却制度等の創設、端株等の買増制度、株主総会手続きの簡素化(株主提案権の行使期限の繰上げ等)等。

[5] 商法特例法2条2項により「大会社」とみなされる株式会社。なお、同法1条の2第3項2号参照。

[6] 指名委員会・監査委員会・報酬委員会、及び執行役を置く。各委員会は3名以上の取締役(その会社の執行役でない者に限る)で構成し、その過半数は、社外取締役でなければならない(商法特例法21条の8第4項)。なお、平成26年会社法改正により指名委員会等設置会社に名称変更されている。

[7] なお、大会社では取締役会の決議により「重要財産委員会」を設置できる(商法特例法1条の3第1項)。

[8] 商法特例法21条の5第2項、21条の12、21条の13第1項、3項、21条の15第1項、21条の6第1~2項、21条の7第2項、第3項

[9] 商法特例法21条の32「(連結計算書類)第21条の26第1項の執行役(注:取締役会が指定した執行役)は、連結計算書類を作成しなければならない。」

[10] 商法特例法19条の2、21条の32第1~6項

[11] 商法特例法21条の31第1項

[12] 商法の会社法制は平成5年(1993年)以降、頻繁に改正された。平成5年、6年、9年(3回=5月、6月、12月)、11年、12年、13年(3回=6月、11月、12月)、14年、15年、16年、17年

[13] 企業内容等の開示に関する内閣府令(通称、開示府令)

[14] 企業内容等の開示に関する内閣府令等の一部を改正する内閣府令(平成22年内閣府令第12号。同年3月施行)

[15] 原則の策定にあたっては、ニューヨーク証券取引所及びロンドン証券取引所の先行事例や「OECDコーポレート・ガバナンス原則(1999年制定)」が参照された。

[16] 会社法施行令,会社法施行規則,会社計算規則等

[17] 「公開・大会社」は監査役会設置会社か委員会設置会社の2者択一とし、「公開・中小会社」「非公開・大会社」「非公開・中小会社」は取締役・取締役会・委員会・監査役・監査役会・会計参与・会計監査人の多様な組み合わせを選択できる。また、新たな会社類型として合同会社(日本版LLC)と有限責任事業組合(日本版LLP)を創設。

[18] 会社法459条「剰余金の配当等を取締役会が決定する旨の定款の定め」。なお、会社法454条5項は、「取締役会設置会社は、1事業年度の途中において1回に限り取締役会の決議によって中間配当をすることができる旨を定款で定めることができる。」としている。

[19] 会社法制定前は、委員会等設置会社の取締役のみに内部統制システム構築義務。中小会社での構築は任意。

[20] 会社法施行規則(平成18年法務省令12号)117条~128条、100条

[21] 但し、公開会社でない株式会社(監査役設置会社及び会計監査人設置会社を除く)は、定款で会計監査に限定できる(会社法389条1項)。この場合は、株主の監督権限を最大限に行使する手続きが整備されている(会社法371条2項、367条1項、3項、4項 等)。

[22] それまでの証券取引法に、投資顧問業法、抵当証券業の規制等に関する法律、金融先物取引法を吸収した。

[23] 2014年(平成26年)6月制定、2015年5月施行

[24] 監査等委員に任ずる取締役は、他の取締役とは別に、株主総会で直接選任する(会社法329条2項)。報酬委員会・指名委員会の設置は強制されない。

[25] 会社法332条3項、4項

[26] 会社法331条6項。業務執行と監督の分離を拡大して監督機能を強化する。

[27] 会社法399条の2第3項

[28] 会社法2条15号、16号

[29] 会社法327条の2

[30] 法改正までは同意権のみだった。会社法344条

[31] 会社法427条1項

[32] 会社法847条の3

[33] 会社法784条の2、796条の2、805条の2

[34] 会社法759条4項、761条4項

 

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