債権法改正後の民法の未来 7
債権者代位権(1)
--事実上の優先弁済--
梅田中央法律事務所
弁護士 髙 尾 慎一郎
Ⅰ 最終の提案内容(中間試案)
- 「3 代位行使の方法等
- (1) 債権者は,前記1の代位行使をする場合において,その代位行使に係る権利が金銭その他の物の引渡しを求めるものであるときは,その物を自己に対して引き渡すことを求めることができるものとする。この場合において,相手方が債権者に対して金銭その他の物を引き渡したときは,代位行使に係る権利は,これによって消滅するものとする。
- (2) 上記(1)により相手方が債権者に対して金銭その他の物を引き渡したときは,債権者は,その金銭その他の物を債務者に対して返還しなければならないものとする。この場合において,債権者は,その返還に係る債務を受働債権とする相殺をすることができないものとする。
- (注1) 上記(1)については,代位債権者による直接の引渡請求を認めない旨の規定を設けるという考え方がある。
- (注2) 上記(2)については,規定を設けない(相殺を禁止しない)という考え方がある。」
Ⅱ 提案の背景
旧民法下では、債権者代位権を行使した場合、債権者は、第三債務者に対し、直接引渡しを請求することができ(大判昭和10・3・12民集14巻482頁)、債権者が金銭の引渡しを受けた場合、債権者は、債務者に対し、当該金銭の返還債務を受働債権として、自身の被保全債権と相殺することができると解釈され(大判昭和10・3・12等)、債権者による事実上の優先弁済が是認されていた。
しかしながら、これと同じ機能を果たしている債権差押えと比較すると、代位債権者は、被保全債権の存在が債務名義によって確認されず、債務者や第三債務者の正当な利益を保護するための手続も履践されないままに、責任財産の保全という制度趣旨を越えて被保全債権の強制的な満足を得ており、制度間の不整合が生じているとの批判がなされていた。
そこで、改正に際し、これまでの判例理論を変更し、この不整合を是正する趣旨で、事実上の優先弁済を否定すべく新たな規定を設けることが検討された。
なお、事実上の優先弁済を否定する方法として、債権者による直接の引渡を認めた上で債権者による相殺を禁止する方法が提案されているが、注記にて、債権者による事実上の引渡請求そのものを認めない方法も挙げられている。