◇SH1664◇債権法改正後の民法の未来10 債権者代位権(4) 髙尾慎一郎(2018/02/22)

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債権法改正後の民法の未来 10
債権者代位権(4)

--事実上の優先弁済--

梅田中央法律事務所

弁護士 髙 尾 慎一郎

 

Ⅴ 今後の参考になる議論

2 債権回収機能としての事実上の優先弁済の当否

(ア)債権者が債権者代位権を行使し、第三債務者から直接金員を受領し、債権者の債務者に対する不当利得返還債務と被保全債権を相殺することによって事実上の優先弁済を受けるとする結論は、債権者代位権の制度趣旨に照らすと、これを正当化することは困難と思われる。

(イ)事実上の優先弁済を否定する方法

 事実上の優先弁済を否定する方法としては、①債権者の第三債務者に対する直接引渡請求権を否定する方法と、②債権者の第三債務者に対する直接引渡請求権を肯定した上で、債権者による相殺を否定する方法、が考えられる。

 もっとも、①債権者の第三債務者に対する直接引渡請求を否定した場合、債権者は、債権者代位権を行使しても、第三債務者に対し、「債務者に支払うように」と求めることができるにすぎないので、債務者に金銭を受領させこれを管理させることになるが、無資力状態にある債務者が財産を管理するということは、責任財産の管理の方法としては極めて不適切といわざるを得ない。

 したがって、②債権者の第三債務者による直接引渡請求権を肯定し、債権者がこれを管理した上で、債権者による相殺を否定する方法が優れている。

 債権者は、第三債務者から金員を受領した上で、またはこれと並行して債務者に対する債務名義を取得し、民事執行の段階では、自らを第三債務者として、債務者の債権者に対する不当利得返還請求権を差し押さえることによって債権回収を行うことになる。

(ウ)事実上の優先弁済を否定することによって生じる実務上の問題点

 (A)法制審議会においては、当初から、事実上の優先弁済否定の是非について検討がなされていた。

 しかしながら、事実上の優先弁済を否定することについては、「小口債権について執行制度に載せていては費用がかかりすぎてペイしないので簡易な救済手段として意味がある」(第5回議事録5頁)、「法的倒産手続に至らない企業倒産の場面で、労働債権を保護し確保するために倒産企業の売掛金債権等に対して債権者代位権を行使して売掛金等を保全する場面がある」(第5回議事録7頁)という、実務上、事実上の優先弁済が機能している場面が複数紹介され、事実上の優先弁済を肯定する意見も相次いだ。

 (B)確かに、保全・執行制度に乗せていては、時間と費用がかかり、費用倒れになる場面も存在しよう。

 また、例えば、元請、下請、孫請の間で、孫請の工事によって下請の工事が完成したにもかかわらず、下請が事実上倒産し、孫請が下請から請負代金の支払いを受けることができない場合など、被保全債権と被代位権利に強い牽連性があり、孫請が債権者代位権を行使して元請から直接支払いを受け、優先的に回収することが不適当とはいえない場面があることも否定できない。

 優先弁済を否定すると、かかる回収方法を取ることができなくなることから、実務に与える影響は小さくない。

 

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