ベトナム:日越共同イニシアティブとラウンドテーブル(1)
長島・大野・常松法律事務所
弁護士 中 川 幹 久
ベトナムに進出した日系企業が直面する様々な投資環境上の問題について、日系企業サイドがベトナム当局と意見交換をし、話し合う場には様々なものがある。むろん日々の実務の延長線上で非公式に意見交換をするものも含めれば、そのような場は数知れずあるであろうし、むしろそうした非公式な交流が実務上重要であることは否定のしようがない。
他方で、日系企業が共通して抱えるより根本的な問題などに対しては、ベトナム当局に対して日の丸を掲げて一丸となって要望を出し改善を求める必要がある場合もあるし、実際そのような場も設けられている。日越両政府を巻き込んで設けられた日越共同イニシアティブはまさにそうした場であり、日越間での協議の場としては最も規模が大きいものといえよう。
こうした政府を巻き込んだレベルの場以外にも、例えば、業界団体と管轄当局が対話をする場や、各地方の省や市レベルで、管轄する人民委員会と現地の日本人商工会が対話を場も存在する。ホーチミン市人民委員会とホーチミン日本商工会が毎年開催しているラウンドテーブルは、後者の一例として位置づけられよう。
今回は、投資環境上の問題をベトナム当局サイドと公式に協議する場として、まずは日越共同イニシアティブについて簡単にご説明した上で、次回は、今年10月末の開催に向けて現在準備がすすめられているホーチミン市とのラウンドテーブルについてご紹介したい。
日越共同イニシアティブ
日越共同イニシアティブとは、「ベトナムの投資環境を改善し,外国投資を拡大することを通じて、ベトナムの産業競争力を高めることを目的として、2003年4月、日越両国首脳の合意によって設置された枠組み」である(在ベトナム日本国大使館ホームページより抜粋。http://www.vn.emb-japan.go.jp/jp/economic/Joint-Initiative-index.html)。
ベトナムが投資環境を改善するために実施すべき内容を「行動計画」として日越両国で取りまとめ、約2年を1つのサイクル(フェーズ)として取り組み、実施後の進捗評価を日越両国で行う形で進められている。2012年11月までで第4フェーズが終了し、現在は第5フェーズに入っている。法制度、税制、運輸通関、人材労働、知的財産、環境など、取り扱う問題の性質・内容等の観点から合計で13のワーキンググループに分かれ、基本的にはワーキンググループ毎に、日本側から出される要望を踏まえた行動計画をベトナム政府側とともに策定し、その実現に向け、日本側とベトナム政府側が協議を重ねる形で進められている。
例えば、サービス業に関わる問題点を扱うワーキンググループ9では、サービス業の中でも飲食業や美容業をモデルとして取り上げ、会社設立や出店にあたっての許認可の取得にあたり、法令で明示的に規定された行政機関以外の機関が関与したり、審査内容が不透明な点を問題点として取り上げ、関係するベトナムの法令と日越投資協定や日越経済連携協定との関係も整理した上で、あるべき審査内容や行政機関の関与を明確にすることなどを基本的な行動計画として策定し、その実現に向けて協議を重ねている。今年7月には日越関係者が出席して中間評価会が開催され、進捗状況が報告された。第5フェーズは、今年末で終結することが予定されている。
(つづく)