SH4417 個人情報委、犯罪予防や安全確保のための顔識別機能付きカメラシステムの利用について 中崎 尚(2023/04/19)

取引法務個人情報保護法

個人情報委、犯罪予防や安全確保のための顔識別機能付き
カメラシステムの利用について

アンダーソン・毛利・友常法律事務所外国法共同事業

弁護士 中 崎   尚

1 はじめに

 AI、IoT、クラウドサービスや5G等のデジタル技術の飛躍的な進展により、多種多様かつ膨大なデータの収集・分析等が容易かつ高度化している。こうした中、駅や空港等における犯罪予防に対する要請が高まっていることを背景に、犯罪予防や安全確保のために、従来型防犯カメラではなかった、顔特徴データの抽出を行い活用する顔識別機能付きカメラシステムの利用が広がりつつある。

 顔識別機能付きカメラシステムは、従来型防犯カメラとの比較においても、犯罪予防の観点から有効なシステムである一方、特有の懸念事項として、ことなる地点間で顔識別が行われる場合に特定の個人を長期かつ広範にわたり追跡することが可能となるなど、その運用次第ではプライバシー侵害等を生じさせるリスクが指摘されている[1]

 これらの社会状況を背景として、個人情報保護委員会は、2022年1月に「犯罪予防や安全確保のためのカメラ画像利用に関する有識者検討会」(以下「本検討会」という。)を設置、全8回にわたって、カメラ画像の適正な利用の在り方について包括的な整理を行い、個人の顔を識別する機能を備えたカメラの利用に関する法的整理と課題の検討を行った[2]。本検討会では、顔識別機能付きカメラシステムを導入する個人情報取扱事業者が個人情報保護法の遵守や肖像権・プライバシー侵害を生じさせないための観点から留意すべき点や、被撮影者や一般社会から理解を得るために自主的に取り組むべき事項について整理が行われ、2023年3月には「犯罪予防や安全確保のためのカメラ画像利用に関する有識者検討会報告書」が公表された[3][4]。個人情報保護委員会では、同報告書を審議の上、2023年4月に「犯罪予防や安全確保のための顔識別機能付きカメラシステムの利用について」(以下「本文書」という。)を公表した[5]。本文書では、顔識別機能付きカメラシステムを導入して、カメラ画像や顔認識技術を利用するに際しての留意事項、システムの検討リスト、これまでの裁判例および海外における議論が言及されており、海外展開を含めた実務にも役立つと思われるため、以下、概要を紹介する。なお、で記載するように、本文書は、犯罪予防や安全確保を利用目的とする場合を対象とするもので、商用目的については対象外である。商用目的のカメラの留意事項については「カメラ画像利活用ガイドブック ver3.0」(IoT 推進コンソーシアム、総務省、経産省、2022 年3月)にて詳しく検討されている[6]

 

2 本文書の構成

 本文書は、まずその対象とする場面を明らかにすべく(第1章)、「顔識別」「顔識別機能付きカメラシステム」「顔認証」等の用語の定義を示す(第2章)。続けて、技術的・ビジネス的観点から、顔識別機能付きカメラシステムの技術的仕組みや利点・懸念、活用場面等、顔識別機能付きカメラシステムを導入するに当たり把握しておくべき基礎的事項について整理する(第3章)。さらに、法的観点から見たポイントとして、防犯カメラによる撮影等に関するこれまでの肖像権・プライバシーに関する留意点(第4章)と、顔識別機能付きカメラシステムを導入する際の個人情報保護法上の留意点(第5章)を整理し、最後に、これらを踏まえて事業者が自主的に取り組むべき事項を示す(第6章)。

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(なかざき・たかし)

アンダーソン・毛利・友常法律事務所外国法共同事業スペシャルカウンセル。東京大学法学部卒、2001年弁護士登録(54期)、2008年米国Columbia University School of Law (LL.M.)修了、2009年夏まで米国ワシントンD.C.のArnold & Porter法律事務所に勤務。復帰後は、インターネット・IT・システム関連を中心に、知的財産権法、クロスボーダー取引を幅広く取扱う。日本国際知的財産保護協会編集委員、経産省おもてなしプラットフォーム研究会委員、経産省AI社会実装アーキテクチャー検討会作業部会構成員、経産省IoTデータ流通促進研究会委員、経産省AI・データの利用に関する契約ガイドライン検討会委員、International Association of Privacy Professionals (IAPP) Co-Chairを歴任。2022年より内閣府メタバース官民連携会議委員。

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