公取委、事業者向け電力販売の不当な取引制限で中部電力・中国電力・九州電力らに課徴金納付命令などを発出
――料金水準の低落防止を企図したカルテル、課徴金総額1,010億3,399万円で過去最高に――
公正取引委員会は3月30日、事業者向けの電力販売を巡り中部電力・中部電力ミライズ、中国電力、九州電力・九電みらいエナジーに対して排除措置命令および課徴金納付命令を行ったと発表した。
当該5社および関西電力の計6社が独占禁止法3条(不当な取引制限の禁止)に違反する行為を行っていたとするものであるが、関西電力においては2021年4月13日・7月13日に受けた公取委の立入検査前に違反行為を取りやめていたこと、公取委に課徴金減免制度の適用を申請して認められたことなどから両命令の対象とはされていない。九州電力も課徴金減免制度の適用を申請(調査協力減算制度を利用)、課徴金の30%減額が認められた。中部電力および中部電力ミライズにあっては課徴金納付命令の発出と同日となる3月30日、「今回の各命令について、……公取委との間で、事実認定と法解釈について見解の相違がある」とし、取消訴訟の提起を決定したと発表。中国電力では再発防止策を発表するとともに、同様に見解の相違があるとして取消訴訟の提起も視野に入れ慎重に対応を検討していくと表明している。
公取委においては同日、これら違反事業者が会員となっている電気事業連合会に対し「本件審査において、当該違反事業者が、同連合会が開催する会合の機会や同連合会へ出向したことのある者同士が出向した際に構築した業務上の関係を利用して、本件違反行為に係る情報交換を行っていた事実が認められた」などとして、今後、同様の行為または独占禁止法違反につながる情報交換が行われないよう同連合会会員・役員・事務局職員へ周知徹底することを申し入れた。併せて、電力・ガス取引監視等委員会に対する情報提供を行っている。
独占禁止法3条(不当な取引制限の禁止)違反の行為について、公取委は①中部電力、②中部電力ミライズ、③中国電力、④九州電力、⑤九電みらいエナジー、⑥関西電力のそれぞれの行為につき、次のように認定した。
(A)①および⑥は遅くとも2018年11月2日までに管内所在の大口顧客に対する安値の電気料金見積りの提示による料金水準の低落を防止して自社の利益の確保を図るため、互いに、相手方の供給区域において相手方が小売供給を行う大口顧客の獲得のための営業活動を制限することを合意し、②は2020年4月1日、電気の小売供給を行う事業の全部を①から承継することにより①に替わって当該合意に参加。①・②(以下「中部電力2社」という)および⑥は当該合意をすることにより、公共の利益に反して、中部電力管内または関西電力管内所在の大口顧客に対して小売供給を行う電気の取引分野における競争を実質的に制限していた。
(B)③および⑥は遅くとも2018年11月8日までに管内所在の相対顧客に対する安値の見積り提示、中国電力管内の官公庁入札での安値の提示による料金水準の低落を防止して自社の利益の確保を図るため、(a)互いに、相手方の供給区域に所在する相対顧客の獲得のための営業活動を制限する、(b)⑥にあっては中国電力管内において同日以降順次実施される官公庁入札における入札参加および安値による入札を制限することを合意。③および⑥は当該合意をすることにより、公共の利益に反して、中国電力管内または関西電力管内所在の相対顧客、中国電力管内所在の官公庁等に対して小売供給を行う電気の取引分野における競争を実質的に制限していた。
(C)④および⑥は遅くとも2018年10月12日までに管内の官公庁入札等における安値の提示による料金水準の低落を防止して自社の利益の確保を図るため、互いに、相手方の供給区域において同日以降順次実施される官公庁入札等で安値による電気料金の提示を制限することを合意し、⑤は遅くとも同年10月31日までに④から当該合意の内容を伝達され参加。④・⑤(以下「九州電力2社」という)および⑥は当該合意をすることにより、公共の利益に反して、九州電力管内または関西電力管内所在の官公庁等に対して小売供給を行う電気の取引分野における競争を実質的に制限していた。
排除措置命令の対象は上記②・③・④・⑤の計4社。命令の内容は大別して5項目となっており、うち3項目の概要を掲げると次のとおりである。(1)違反事業者らの合意が消滅していることを確認すること、今後は電気の小売供給を行う事業を営む他の事業者と電気料金等に関する情報交換を行わないことなどについて取締役会で決議すること、(2)上記(1)の措置について管内の大口顧客・相対顧客・官公庁等に周知するとともに自社の従業員に周知徹底すること、(3)次の事項を行うために必要な措置を講じること。(i)役員・従業員に対する、電気の小売供給に係る営業活動に関する独占禁止法の遵守についての行動指針の周知徹底など、(ii)電気の小売供給に係る営業活動に関する独占禁止法の遵守についての、当該営業活動に従事する役員・従業員に対する定期的な研修ならびに法務担当者および第三者による定期的な監査、(iii)独占禁止法違反行為に係る調査への協力を行った者に対する適切な取扱いを定める規程の作成。
一方の課徴金納付命令については、次の4社を対象とする(課徴金額を併記)。①:201億8,338万円、②:73億7,252万円(以上、中部電力2社に対して計275億5,590万円)、③:707億1,586万円、④:27億6,223万円(九州電力2社に対しては④のみ27億6,223万円)。いずれも本年10月31日までの納付を求めるもので、総額1,010億3,399万円の課徴金額は過去最高額とされる。
経済産業省は4月3日、(α)公取委の3月30日命令発出を受け、上記①~⑥の全違反事業者を対象とし「経済産業省所管補助金交付等の停止及び契約に係る指名停止等措置要領」3条1項に基づいて補助金交付等停止措置・指名停止等措置を行ったと発表。本発表においては(β)電力・ガス取引監視等委員会が報告徴収等の結果を踏まえ「顧客情報の漏えい、託送情報の目的外提供や差別的取扱い、及びその依頼等の不適切な行為があった」とする認定のもと3月31日、電気事業法に基づく経産相への業務改善命令勧告を行ったとし、これを受け、上記・措置要領に基づき、⑥および関西電力送配電、中国電力ネットワーク、④および九州電力送配電の計5社を対象とした補助金交付等停止措置・指名停止等措置を行っている(補助金交付等停止・指名停止等の措置期間については以上を踏まえ、措置ごと・各社ごとに1か月~12か月が設定された)。
加えて、経産省においても「電気事業法に基づく業務改善命令を行う必要があると判断」したと発表。行政手続法13条1項2号に基づき「業務改善命令に係る弁明の機会を付与」することとして4月3日、関西電力送配電および⑥、九州電力送配電および④、中国電力ネットワークの計5社に対して同法30条に定める書面による通知を行った。
公取委、旧一般電気事業者らに対する排除措置命令及び課徴金納付命令等について
https://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/2023/mar/230330_daisan.html